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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第六章 賢者の洞窟
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第四話 馬車


「『賢者』に会いに行くわ」

 

 早朝、『レガリス』の宿屋の一室で蒼髪の美女がそう言った。

 

「『賢者』?、現存するのは知っているけれど、何でそんな伝説の存在を今引き出して来たんだい?」

 

 『賢者』。

 『古の大戦』で邪眷属二人を一人で討ち果たしたという大きな功績を持ち、数世紀経った今でも存命の『現人神(あらひとがみ)』として知られている伝説的人物である。

 アンナの知る中で兄に次いで魔法が高い男だ。

 

「夢に干渉してきたのよね」

 

 干渉?、と一同は首を傾げるも、ジャックだけは納得といった表情を見せた。

 闇属性魔法に悪夢を見せるものでもあるのだろう。

 

「アディンを連れて来いって、危ないから」

「待て………危ないとはどういうことだ?」

「判らないわ」

「黙りは無理だぜ、俺らが今アディンのことでどんだけ神経質になってんのかわかるだろ?」

「私も同じよ。ジジィが言わなかったから判らないのよ」

 

 ジジィ──『賢者』である。

 彼に向かってこんな物言いをするのはアンナだけではないだろうか。

 

「ご飯を食べたらすぐに出るわ。夢から三日──明日には『レガリス』を発っていればいいけど、早いことに越したことはないもの」

 

 確かに、と納得した《蒼の双星》一同は頷き、食事を終え次第出立の準備へと取りかかった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

 『レガリス』の南西。

 丁度帝都とシャーリアの間に向いた場所で《蒼の双星》は待機していた。

 アディンを連れていく上で欠かせない馬車と、進行方向で生じている問題等の調査を仲間となったルナとジャックが行っているからだった。

 道中に確定で村があるわけではないため、『賢者』の居場所までの半行程をカバーできる携帯食。

 魔力から飲み水が確保できる魔道具。

 アディンを寝かせるための柔らかい布。

 馬車に必要な類いのものは二人が揃えてくるという話であったため、残った一同が用意したのはそれだけだった。

 十数分経ち、レガリスの方から二人の男女の姿が視界に入る。

 

「ジャック、ジャスミン!」

 

 大手を振って迎えるリンカに、ジャックはヒラヒラと顔の横で手を揺らがせ、ルナはコクリと少しだけ(かぶり)を上下させた。

 

「準備は整ったわね。カイト、出しなさい」

「はいよ」

 

 二匹の馬が嘶けば、馬車は車輪の跡を残してレガリスから離れたのだった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、アンナって『賢者』っていう人と知り合いなんだね?」

 

 暇をもてあましたのか、そう彼女に尋ねたのはリンカだった。

 

「ええそれがどうかしたのかしら?」

「どんな人なの?、今から会いに行くんだしちょっとは知ってた方がいいかなって」

 

 呼び寄せられたのがこちらだとしても、現状アディンを目覚めさせる手段が無いため頼る先が『賢者』しかいないのは明らか。失礼に当たればちゃんと教えて貰えないかもしれない、と。

 

「んー………まあ、普通にやればいいと思うわよ?、私もじじいって呼んでるくらいだし」

「そうだな、あいつはそういうことに全く興味が無い。礼儀なんぞ、糞食らえって言ってるな。奴の関心は世界を守るただそれだけに向いてるぜ」

「世界を、守る………それって、あの?」

「『古』の大戦、『黒龍』と『魔法神』を除いて最も貢献したのが『聖女』──後の『学園長』のマリア・ミリス・サウルディアと『賢者』ね。名乗らないし自分で賢い者ってどうかしてるわ……ふふっ」

 

 現人神(あらひとがみ)に対してどうかしていると評せるアンナもどうかしてるのだが……と内心頬をひきつらせる。

 

「じゃあ、機嫌を悪くしたりとかないのかな?」

「さあ?……まあアディンを調べる邪魔さえしなければいいんじゃないかしら。別に偏屈とかじゃないし」

「『賢者』が急がせるってことはそういうことだ。期限までしっかり定めてやがる、相当不味い事態なんだってことだ」

「───えっ」

「レオ、また無駄なこと言ったわね?」

「一言多いね」

「悪いってどういうことなの?」

「少しいいか?」

 

 これ以上熱を増すまいと、黙っていたルナが手を挙げた。

 

「アディンを苛む『黒』をリンカの『白』で消し去ることは不可能なのか?」

「出来ないことはないわ、でも止めた方がいいわね」

「何故だ?」

「今はいきなり増えた『黒』の力に適応している最中なのよ、だから勝手に干渉したら───壊れるわよ」

「壊れる?」

「ええ、勿論アディンが身内でもなくただの他人なら、私はその選択肢を選んだわ。でも、アディンを廃人になんて、絶対させない」

「なるほど、『黒』の力は本来『邪剣王』、又は『邪眷属』によって与えられるもの。身体の内に巣食わせた『黒』は時間を掛けて宿主を侵食する。けれど今回は『邪眷属』──それも魔人を取り込んでしまった。クロによって取り戻した記憶と力がやっと定着したところにいきなり発芽した膨大な『黒』、その出力は肉体に致命的なダメージを与え、修復と順応のためにアディンの身体は活動を休止した。ってことだね?」

「……よくそこまで理解できたわね?」

 

 既に理解していたアンナとレオを除いた者達の中でカイトは納得、ルナとリンカは辛うじて頷き、ジャスミンはもう手遅れだった。

 

「他に聞きたいことはあるかしら?」

「あんましないかな」

「じゃあ私から言うけど、この馬車の行き先に他の集団があるわ。それも襲われてる。どうするかしら?」


 アンナだけが気づいていた魔力の応酬。

 助けるか否か、時間を優先するか人としての自己満足を優先するか。

 何故自己満足か。

 それはアンナにより説明がなされた。

 

「襲われてるのは私とレオの知り合い、魔力でわかるわ。だから少しの被害は出るでしようけど特に問題はないわ。だって、回復魔法と防御魔法の達人だもの。この二つだけならこと私に置いても凄いと思えるわ」

「助けよう」

「そうだな、それがいい」

 

 即答したのはリンカとルナ。そのどちらもが《蒼の双星》によって助けられた存在だ。

 

「僕も、二人の知り合いなら助ける方がいいと思うよ。他人なら知らないけどね」

「私はどっちでもいいわ。まあ、アディンなら助けるっていいそうだから賛成はするけど」

「レオは聞かなくてもわかるわ。じゃあ、助けましょうか」

 

 何て軽い、などと誰も指摘することはない。

 アンナ、そして自分達はそこらの賊に苦戦するほどやわじゃないと分かっているからだ。

 手綱を握るレオが馬に急がせ、馬車の速度が上昇する。

 

「私とジャスミンで先行しよう。大回りで挟み撃ちをしても間に合うだろう」

「そうね、みんなは普通に馬車で行くといいわ。あと行者にはリンカが出た方が油断は誘えるかも」

 

 そう言って、二人は他の了承を得ることなく馬車から飛び降り、両者ともに『器』を顕現させて走り去っていった。

 

「それじゃ、私達は一般人を装うかしらね」

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

 おかしい。

 賊の頭は眉を潜めていた。

 そう遠くに陣取っていないため、成功の報告はそろそろ来てもいいはずだった。

 確かに、少し名の売れた商隊を狙ったが、用心棒をつけているなどの情報は無い。情報屋の裏切りを一瞬考えたが、奴は義理だけはある男だ。

 ならば、失敗したか?

 いや、それも無い。

 こちらとて相当な戦力を持っている。

 となると、何者かの介入ということになる。

 この何も無い道で?

 誰かが通りかかるとでも言うのか?

 わざわざ?

 物資を売りに来た商人はありえない。

 自分達が襲った商隊に負け売上を得られないからだ。

 冒険者もありえない。

 こちらの方面にうまいクエストは出ていなかったからだ。

 一般人もありえない。

 小さな村があるだけの場所に行く必要がないからだ。近くに二つも大きな都市があるというのに。

 ならば最後の、あり得ないものが現実となってしまう。

 そう、『賢者の洞窟』へ挑む者だ。

 つまり、相当な猛者となる。

 これは、存続に関わることだ。

 呑気にこんなところで座っていれば、誰も帰ってこない。

 自分が行けばいけるだろう。

 俺達に喧嘩を売ったのが誰かは知らないが、その頭潰してやる。

 

「ああ、立ち上がりそうなところ悪いけど首を貰っていくね」

 

 頭が最期に聞いたのは、子供の声だった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「貴方……」

「………何だよ、俺に何か用か?」

 

 アンナの前に、一人の麗人がいた。

 満身創痍とまではいかなくともそう身体は傷つき、右手に持つ片手剣と左手の円盾はどちらもボロボロになっている。仲間を守っていたというのがありありと分かる装いだ。

 

「その髪、目、魔力……」

「だから何だ、こんなもんどこにでもあるだろ」

 

 ああ、どこにでもある。

 ただ一点を除けば。

 

「褐色のエルフ……」

「なんだ?」

「どうかしたの?」

 

 盗賊を殲滅したカイトとリンカが崩れた馬車の背後から姿を現した。

 

「──なっ」

「──うそ」

 

 そして、そのどちらもが相貌を驚愕に染めた。

 

「だから俺がどうかしたのか?」

 

 深い緑の髪。

 エメラルドの瞳。

 褐色の肌。

 長い耳。

 そして、自然の魔力。

 共通点がありすぎる。

 ありすぎて、困惑してしまうほどだ。

 

「貴方の名前、ユ───」

 

 

「あ、こんなところにいたのね。あれ?三人とも何してる─────」

 

 

 

 

「────────おにい………?」

 

 

「────────ジャス、ミン………?」

 

 

 そして、二人は出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャァァァァァァァスミィィィィィィィィィィィンッッッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

「キモッ!?」

 

 

 

 バチコン!、と。

 

 あまりにも締まらない、再会であった……。

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