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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第五章 魔王の城
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第十一話 黒の力


 私の名前はルナ・ネルヴァ。

 アディンの姉だ。

 そして、そのアディンが仲間を連れて私を助けにきてくれた。

 だが、あれほど切迫詰まっている理由がいまいち掴めない。

 正直に言うと、私はどれほど自分があの場所にいたのかはっきりしていないのだ。

 弟も最後に見たときと殆ど変わっていない。

 時間の経過は感じられない。

 故に、特に苦痛のない捕虜生活だった。

 勿論裸に剥かれ肌に触れられたことは屈辱的だったが、戦闘において衣類がはだけることは日常茶飯事だった。不可抗力による接触も度々あったわけで、そこまで精神を侵食するようなものではなかった。

 何故か生理現象もなく、逆に快適な部分さえ感じた。

 よく弟や仲間達に変わっていると言われたが、こういうところなのだろう。

 

「大丈夫!?」

 

 あの牢屋から転送された先はアディンの仲間がいる牢屋だった。

 彼女らもあの男に捕まってしまったのだろう。

 小人族(ピクシー)の青年の背中の刀傷は痛々しく、他の者にも掠り傷や裂傷が見られるから、戦闘後なのだと推測できる。

 

「アンナ…」

「手枷の痕は流石に痛々しいわね………、魔法が使えればよかったのだけれど…」

 

 凡人族(ヒューマン)の女性の言葉に「気にしなくていい」と言おうとした。

 だが、その言葉を発することはなかった。

 一番後ろ、天翼族(ヴァルキリー)の少女が手を上げてこう言ったからだった。

 

「私、ちょっとなら使えるよ……?」

「ほんと!?」

 

 反応したのは長耳族(エルフ)の少女。

 座り込む私の方へ白い髪の少女が近づいてきて、唱えた。

 

「【復光(キュアライト)】」

 

 暖かい光が降り注ぎ、少しヒリヒリしていた手首の痛みが消え、硬い床に曝されていた脚も元通りに。

 

「礼を言う」

 

 体力も回復した私はゆっくりと手を突きながら立ち上がり、改めてアディンが連れてきた者達に頭を下げた。

 動揺の気配。

 謝る気でもいたのだろうか、だが残念なことに私には実感がない。わざわざありがとう、程の辛さしか覚えていなかったのだから。

 と、背中に感触。

 見上げると、赤髪の青年が羽織っていた外套を私に掛けてくれていた。

 

「──っ、……男のもんだが、今は我慢してくれ」

「すまない、痛み入る」

 

 前のボタンを留め、見えてはいけない部分のみを隠した。

 

「ルナ、でいいかしら」

「ああ、ルナ・ネルヴァ、アディンの姉だ。感謝する」

「よく耐えたわね、遅くなってごめんなさい」

 

 やはり、私が長期間あの男に囚われていたと勘違いしているのだろう。

 断じてそんなことはないが。

 ここらで訂正しておくのがいいな。

 

「すまない、私自身自分がどれほどの時間あの牢獄で過ごしていたのか実感がない。時間の流れが違ったのではないだろうか」

「いや、どういうことだ」

「赤髪の青年、私は苦痛に思うほど虜囚を味わっていないということだ。それに、奴に捕まったときと変わらぬ容姿なのはわかっている。あの男もそう言っていたしな」

「どういうことかしら………アディンも殆ど背格好は変わらなかったし、『黒』にはそういう力が……?…………それより、まだ自己紹介してなかったわね」

 

 

 

 

 アンナ、レオ、ジャスミン、カイト、リンカ、それぞれに自身を説明したあと、ジャックへと全員の視線か集まった。

 

『あ……』

「結構これ痛いんだからね?、早く治療してほしいかなー、なんて」

「あら、ごめんなさい」

「こりゃ完全に忘れてたわ、リンカ、頼めるか?」

「うん、でも、減衰されてるしこんな深い傷の効くかどうか……」

「気休めでもいいわよ、ジャック私に隠してたし」

「じゃあ────【復光(キュアライト)】」

 

 降り注ぐ白光。

 じわじわと傷が塞がれていく。

 やがて点滅し出した光は消え、リンカがゆっくりと手を下ろした。

 

「─────ごめん、これ以上は無理みたい……」

「感謝するよ、大分楽になったみたいだ」

「治療は終わっただろ、ここから出られねぇのか?」

「無理よ、解けるけど何日かかるか分からないわ」

「ぶち破るのは?」

「だから同じこと、カイト。それに、まず魔法を使えるようにならないと」

「手詰まりか…」

「ジャック、そうでもないわ。アディンが勝ってくれればね」

「そういえば、アディンはどうなってるのかな?」

「私達のために戦ってくれてるのに、意識の外だったわね。応援しましょ」

 

 そして、皆が顔を向けたそこには、苦戦するアディンの姿があった。

 

「うそ……」

 

 落ちた呟きはジャスミンのものだ。

 

「アイツが押されてる…?」

 

 レオが怪訝に首を傾げる。

 

「おい、何で召喚してないんだ?」

 

 カイトの疑問は皆も共有していた。

 

「そういうことね…」

 

 何かを納得したアンナへ向けられるのは説明を求める視線。ジャックは持ち前の頭の回転の速さにより彼女の答えにたどり着いた。

 

「そうか、そういうことだったんだ」

「ええ、アディンの力は別々だったのよ」

「どういうこと…?」

 

 眉を寄せて首を傾げるリンカが理解していない者の代弁を果たし、アンナはジャックと頷きあってから口を開いた。

 

「私達と過ごしていたアディンには召喚という才能──つまり虹属性の力、そしてクロが居なくなった後のアディンには〔破導〕という魔力──これも虹属性の力」

「対してアディンの持つ刀は違う。モンスターや武器をマナによって構成しイメージを具現化させる召喚と物質的な固体としての性質を持つ青紫の炎を操ることができる魔力、この二つの力の性質に強化という面はどこにもない」

「刀はただの刀、魔器にしては力が強すぎるし、封器なら契約紋とその詠唱があるはずよ」

「霊器と神器なら僕やジャスミン、アンナや帝都での多くの者達から分かる通り、解放も神化もしなければ殆ど効果の違いはない。刀自体が日常的に具現していることから違うと言えるしね」

「魔器でもない、封器でもない」

「霊器でもない、神器でもない」

「そうなると考えられるのは一つ」

「他の器を凌ぐ力を持ち、常に具現する武器。それは───」

 

 

「「邪器」」

 

 

『───っ!?』

「そんな、こと……」

「あり得ないだろ…」

 

 ジャスミンとカイト、二人が最もショックが大きかったようで、今も雄叫びを上げながら戦うアディンへと強い勢いで振り向いた。

 

「邪眷属……」

 

 信じられない。

 だが、状況証拠として今も刀一振りで戦うアディンがいる。

 リンカは脳裏に過った疑問を口にするほかなかった。

 

「ええ、邪器を持つのは邪眷属だけ、つまり、邪剣王に選ばれたということよ」

「しかも、アディンはそれで収まらない」

「あの男───奴に魔王と呼ばれてたな、アイツが言ってただろ。裏切り者、『連』の魔人ってよ」

「それに………後継者って……」

 

 レオとジャスミン、二人が震える声音でそう言葉にした。

 

「纏めると、アディンは『邪剣王』の後継者で『連』の魔人っていう名前を冠した『黒』の中でも上位の存在だってことだね。それに、裏切り者ということは───」

「───ええ、一致するわね」

「ああ?」

「え、でも……」

「───」

「あ、アディンが?………私の弟が、か?」

「ねぇ、何の話?、何でみんな黙るの!?」

 

 ジャックとアンナ、二人は既に纏まっている思考の中、苦虫を噛み潰したように相貌を歪める。

 レオとジャスミンがアディンと三人で見た観劇を想起する。

 カイトはその仮定に絶句し、ルナは記憶と異なるアディンという存在に困惑する。

 そしてリンカ、彼女は天翼族(ヴァルキリー)故か下界の史実を知らなかった。

 

「受け止めるために口にするわよ」

 

 アンナは戸惑いを隠せない仲間を見渡し、未だ完全には認められていない自分に言い聞かせるように次の句を紡いだ。

 

 

「アディンは、『古の大戦』で『魔法神』と一緒に『邪剣王』を封印した『黒魔導師』───『黒龍』よ」

 

 

 落とされた言葉は波紋のように広がり、連動するようにアディンと魔王の戦況が変化するのであった。

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