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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第五章 魔王の城
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第十話 悪辣なる王


 人気の無い長い廊下。

 悪趣味な調度品が並ぶ横幅の広いその廊下を二人が駆け抜けていた。

 紺の髪の少年───アディンと青の髪の美女───アンナだ。

 共に得物を手に走る。

 

「左に曲がる!」

 

 指示を出したのはアディン。魔力の判る魔力の効果により導き、アンナはそれに従う。彼の姉であるルナ・ネルヴァの魔力を知るのは彼だけだからである。

 複雑にジグザグと進んだかと思えば唐突に階段を降りる、そんな風を繰り返すこと六回、雰囲気を変えたアディンが口を開いた。

 

「ここまで線状の魔力に誘導された。敵が何時来るかも分からない、警戒しとけよ」

「言われなくてもやってるわ」

 

 敵地のド真ん中でのんびりしていられるのは、余程の馬鹿か防御に絶対の自信がある者だけだろう。

 鉄格子により作られた道に差し掛かったところで二人の歩みは緩やかになった。

 

「───んな……」

 

 狼狽えたような声音がアンナの耳朶を叩く。

 

「────」

 

 彼女自身も言葉を失った。

 廊下の最奥。

 そこには、衣服の類いを一切身に着けていない白い肌を晒す、髪の長い女が鎖に繋がれていたのだ。辛うじて見えていないのが幸いするも、手首に物々しい手枷が嵌められていて、それは壁の上方に伸びている。

 こちらの気配に気が付いたのか、ジャラ、と重い金属の音が鳴る。

 

  

「待っていたよ、クソ裏切り後継者」

 

 

 そして、檻の影から一人の男が姿を現した。

 纏うのは黒色のローブ。

 背はそこまで高くなくガタイも良くない。

 だが、どこまでも深い闇が篭っていた。

 

「まあこれは言っておこう────ようこそ、僕の───魔王の城へ」

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「ようこそ、僕の城へ」

 

 姉ちゃんの前に立ち塞がったのは俺と同い年ぐらいの男。

 陰湿な印象を受けるねっとりとした口調。

 隣のアンナをねっとりとした視線で観察しているのがわかる。隠すつもりもないようだ。

 

「何のことだ」

 

 俺は捕らえられた姉を前にして、思いの外冷静だった。

 姉の状態に特に衰弱など見られず、絶望している様子も窺えなかったためだ。相当待たせてしまったと思うのだが、本当に我が姉ながら脱帽する精神力だ。

 また、男の言葉の意味が分からなかったことも、俺の冷静の一因だろう。

 

「とぼけるなよ、自分がやったことじゃないか」

 

 こんな奴のことなど知らない。

 見たこともない。

 初対面だ。

 第一印象は最悪だがな。

 

「………なるほど、忘れているということだね。都合のいい頭をしてるね」

「言い掛かりだ、それよりさっさと姉ちゃんを解放しろ」

「それを言って僕が言う通りにするとでも?」

 

 手を顎に当て片眉を上げた目でこちらをニヤリと見据えてくる男に得も言われぬ苛立ちを覚え、握る刀の柄と左手に力を込めた。

 

「だから、殺すってことだろうがっ!」

「覚悟しなさい!」

 

 戦意は十分。

 殺意は溢れんばかり。

 憎悪と憤怒を以て奴を殺す。

 

「あーあー熱い熱い、暑苦しいよ。────アンナちゃんは向こうで見てるといい」

 

 パチン。

 

「────ぇ」

「アンナっ!」

 

 男が指を鳴らした瞬間、アンナが『黒』に包まれ、それが消えると彼女の姿はどこにも見当たらなかった。

 

「アンナを何処にやった!」

「お前の仲間の所だけど、何か文句でもあるの?」

 

 クソがっ!

 

「殺すっ!!」

「おっと、ルナちゃんの命が誰の手の中にあるのか考えた方がいいよ」

「───っ」

「いい様だねぇ?───着いて来い、お前に拒否権はない」

「クソ……」

「口が悪いなぁ。……まあその内?、地面に頭を擦りつける姿が見られるだろうけど」

「…………」

 

 もう、問答さえする気もおきない。

 怒りでどうにかなりそうだ。

 悠々と歩く奴の背にどれだけこの刀を突き刺してやりたいか。

 

「着いたよ」

 

 腹の立つ男の声が聞こえた俺は見上げた。

 そこは巨大な半球型の空間だった。

 まるで───

 

「まるで、闘技場みたいでしょ?。正解だよ、これからお前にはここで戦ってもらう」

「俺が勝てば姉ちゃんを返せ」

「お、反応良好♪、でも?、それだけでいいの?。仕方ないなぁ」

「ああ?」

 

 特別に見せてあげよう、そう言ってまたも指を鳴らす男。

 すると、俺の右手側、そこに牢屋が現れた。

 

「アディン!?」

「なっ!?」

「驚いたかい?、これからお前が這いつくばる、そして正体を知ってもらうショーの観客達だよ」

 

 その中には、俺の仲間──《蒼の双星》の皆が鉄格子に囲われていた。

 何故。

 負けたとは到底思えない。

 

「何を、した……?」

「はい種明かし~~」

「答えろ!」

「ここでは『黒』に属する力以外使えない。その効果はこの城全体に行き届いている。そこの彼らが戦えたのも、僕の恩情というわけだ」

 

 意味がわからない。

 どういうことだ。

 力が使えない?

 なら、今俺が強化を使えているのは何故だ?

 

「まだ分からないかなぁ~?、僕が城全体を対象に効果を発揮させたから、お前の仲間はステイタスの力を使えないってこと。馬鹿なの?」

「───っ」

「それと気づきなよ、何でお前が力を使えてるのか」

「何、が……」

「本当にわからないのかい?──なら僕が教えてあげよう」

 

 止めろ。

 言うな。

 そんなわけない。

 認めるわけにはいかない。

 そんな馬鹿なことが、あってたまるか。

 

「君は───」

 

 やめろ。

 やめてくれ。

 それ以上を言われたら───

 

「───僕達と同じ、『黒』に魅入られた『黒魔導師』───それも『邪眷属』だよ、クソ裏切り野郎」

 

 ─────嘘だ。

 

「─────嘘だ」

「嘘なんかじゃない、現に力が使えてるじゃないか」

 

 ─────嘘だ。

 

「─────嘘だ」

「ねぇ?、『邪剣王』の後継者───『連』の魔人アディーテス?」

「嘘だっっ!!」

「誰も信じないよね、だから、ここで証明するんだよ────どうしようもなく性根の腐ったお前の正体がただの裏切り者だってことをね」

 

 ─────嘘だ。

 そんなわけ……

 

「では戦いといこう。………独りは可哀想だからルナちゃんもアンナちゃん達と一緒にしてあげよう」

 

 嘘だ。

 嘘だ。

 嘘だ。

 

「おーい、ああ、聞いてないか。これじゃ楽しめないんだけどなぁ………そうだ!」

 

 嘘だ。

 嘘だ。

 嘘だ。

 

「こうしよう!───あと一分で僕と戦わなかったら一人ずつ殺す───これでどうだい?」

「────ぁあ?」

「ほらほら、掛かってきなよ。じゃないと、お前の大切な肉壁が死んじゃうよぉ~?」

「────っ!」

 

 ───肉……壁………?

 ───っっ!!

 許せない。

 俺はもういい。

 何と言われようとも。

 何と蔑まれようとも。

 例え『黒』と同列にされたとしても、俺はもういい。

 だが。

 俺の仲間を───俺の家族を貶すことは………それだけは、絶対許さない。

 命を以て、償わせてやる。

 

「死ねぇ!」

「いいねいいね!──じゃあ───お前が死のうか」

 

 こうして、憤怒にまみれる俺とどこまでも人を馬鹿にする男の殺し合いが始まった。

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