第八話 The True
ジャスミンが霊装を成功させてミリアを下し、その次の第二回戦──第三試合ではアンナがやはり勝った。
第四試合はジャックとスカーレット・クライスとの戦いだったが、ジャックは奮闘虚しく敗北。それにより準決勝の組み合わせが決まった。
準決勝
アディン・ネルヴァ対ジャスミン・ユグド
アンナ・ハリス対スカーレット・クライス
この二組である。
そして、俺は実況の長い口上を耳にしながらジャスミンと向かいあっている。
実況は準決勝進出者四人中三人が 《蒼の双星》であることに興奮しているらしく、予想していなかったや番狂わせだなどと口にしている。
先のルシフェルとの試合で知ったことを話さなければならない俺からすれば、わざと負けてでもこの大会を早く終わらせ仲間の皆に頼まなければならない。
だがそれを許さないのがその仲間達で、ジャスミンと全力で戦わないと後々酷いことになる。
主に俺が泣きじゃくるジャスミンを宥めないといけないということだが……
「───いざ尋常に───」
だからやっぱり、本気で勝ちにいくことにした。
「───始めぇ!」
「【我が身を喰らえ】」
「【『ラフーガ』】──【ぜフィル】──【霊装──『シルフ』】」
あれが霊装か。
確かに凄い魔力だ。
近接を得意とするジャスミンであのレベルまで上昇しているということはとんでもなく破格の性能だということか。
パンっと空気の弾ける音。
音速を超えたか。
「───えっ!?」
「【魔矢】」
瞬速の一撃を難なく捌き左手で魔法を撃ち込む。
「【我が身を喰らえ】」
「──【突風】!」
追撃は風に押し出されたことで無意味に。
「【砲撃】」
「後でぜっっったい問い詰めるからっ!」
「元からそのつもりだっ!」
砲撃による牽制、束の間に一閃。
あり得ない魔力の複数所持に混乱気味のジャスミンは大声で訴えた。別に、言われなくても話さなければならない内容なのだから一緒だ。
「【召喚───『墓王』】【光線】【重圧】」
俺の後方に召喚したのは魔法に長けた骸骨。討滅のためにすぐに向かったジャスミンの進行方向に割り込ませ、強力な重力を発生させた。
「【破導龍の牙】」
刀を振り抜きながら唱えれば、下と上に牙のような山が連なった青紫に赤の線が入った炎が噛みつくようにジャスミンに襲い掛かる。
「【ぜフィル】っ!──【風斬】!」
炎を出力の増した風で相殺、彼女が狙ったのは裏をかいた真正面だった。悪くない手だが、姉とレオに仕込まれた俺の危機にはならない。
風の斬撃に刀を沿わせて魔法自体を破壊、【魔槍】を叩きつける。
「【風刃】───【壊嵐】」
一瞬の蓄積、解き放たれた金風は容易く魔法の槍を打ち破り、こちらに斬撃属性を以て襲ってきた。
それを地面スレスレに屈んで躱し発走、顔を腕で守りながら獣のように三本の脚で這って彼女へ迫る。
その際に、骸骨はその身をマナへと変えていた。
「ひっ!?──【風爆】つ!」
暴漢に襲われた生娘のようなか弱い声を洩らしたジャスミンはそれに似合わず自身ごと風により吹き飛ばす。
だが、低姿勢であった俺にはそれほど効果はなく、結果としては彼女が退避するだけとなった。
「逃げんなよ!」
「だって気持ち悪かったんだもん!」
酷いなっ!?
「【竜巻】」
「【ぜフィル】!」
やはりもうジャスミンに範囲系は効かない。
強力な金の風に全て阻まれ吹き飛ばされてしまうからだ。
ならば簡単、一点突破を軸にしていけばいいだけの話。
「【破導砲】」
「───ぐぅぅっ!?」
質量を持った砲撃が風を纏わせた剣で防ごうとしたジャスミンの相貌を苦渋に歪める。
「【我が身を喰らえ】」
さらに強化。
都合三重の身体能力の上昇を経た俺は地を蹴った。
「【我が身を喰らえ】」
さらに加速。
「【ぜフィル】!」
ジャスミンが何度も精霊『シルフ』の風を纏う魔法を唱えているが、これは重複していない。一瞬だけその出力が上がるだけのものだ。
だから、どこまでも強化できる俺とはとても相性が悪い。
「【魔斬】【光線】【砲撃】【魔槍】」
「【風斬】────【風刃】──【壊嵐】!」
【光線】を剣身に反射させるという芸当を為し、他の魔法を全て相殺してみせた。
「【我が身を喰らえ】」
「ずるいっ!」
「その風も十分反則だ!」
それから俺たちは単発の速射できる魔法を多用しながら、互いの得物を斬り結んだ。
そして、どちらに軍配が上がったかといえばジャスミンだった。
一番の有利だったのは回復魔法が使える点であり、長引いて俺だけが傷ついたままでいた。
「ジリ貧、か……」
「【颶風】」
「ぐっ──【我が身を喰らえ】」
まだいける。
「【我が身を喰らえ】」
勢いと速さの増した剣を捌きながら起死回生の一手を。
「【我が身を喰らえ】」
遂にジャスミンが風に斬撃の属性をもたせた。慈悲が一切ない。
だが俺は諦めない。
「【我が身を喰らえ】」
身体が軽くなってくる。
高速の斬撃に追い付いてくる。
そして───
「【我が身を喰らえ】」
───十重。
「【我が身を喰らえ】」
まだ止まらない。
「【我が身を喰らえ】」
「───っ!?」
驚愕の気配。
今更気づいたところでもう遅い。
「【我が身を喰らえ】」
剣戟が加速する。
今度はジャスミンが追う番だ。
「【我が身を喰らえ】!」
彼女の相貌に焦りが生まれだす。
ジャスミンの敗因は、俺がこの肉体に慣れるまでに決着をつけなかったことだ。
「【我が身を───喰らえ】ぇ!」
───十五重。
自分の身体が強化に耐えきれないギリギリのライン。
そして、最高の状態となった。
遅れ始めていたジャスミンはもう防ぐことで手一杯だ。
お互い慣れない身体同士だが、先にモノにしたのは俺の方だった。
誰にでもある一瞬気が緩む瞬間を狙い彼女が持つ剣へ力を籠め一撃、大きく腕を弾く。
それを見計らった俺は即座に魔法を発動した。
「【崩壊】」
ジャスミンの頭上に展開する二色の魔法円。
そして中心に光が収斂し、発動。
「──ぁ──がっ!?」
突如として、強力な重力が発生した。
膝をつく彼女を見据えながら、俺は唱えた。
「【喰らい尽くせ九頭龍】──【八ツ又龍ノ牙】」
現時点での最強の魔法が発動される。
柄を握る右手から青紫に赤の線が入った質量を持つ炎───破導が溢れだした。
そしてそれは九振りの刀を型どり、矛先をジャスミンへ。
ルシフェルはここで止めを差した。
だが、全力を以て相手をすると決めた相手だ。
使うべきだろう───必殺を。
「【蹂躙せよ】」
次の瞬間全ての刀が肥大、その造形を変化させた。
象るのは龍。
合計九の龍の頭がジャスミンに牙を剥いた。
「──ぃ──が──ぐ──がっ……」
ビィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッッ!!。
ヤマタノオロチに食い荒らされた無惨な姿のジャスミン。
彼女を残して俺は戦闘場から立ち去ったのであった。




