第五話 Re Blue&Red
第九試合が終了し、戦っていたアディンは観客席に戻ってきていた。
どこを通っても人に凝視されながら。
全ての人間の視線を浴びながらというのは経験談したことがなかったためか、非常に気まずかった。
勿論、仲間の元へ戻ってもその目の暴威から逃れることはできなかった。
「さっきの何?」
全員の言葉を代弁、いやもうアンナが聞くと決めていたのだろう。
ここにいないカイトも同じ思いのはずだ。
「漆鉄、この刀の力だ」
事実のみを伝えると怪訝そうに眉を寄せた。
「あんなの見せたことないじゃない」
「使えないからな」
「どういうこと?」
これは逃げられないな、と思った俺は全てを明かした。
「今まで使った強化魔法の回数って……」
「え、それ反則じゃないの……?」
アンナとジャスミンが茫然とそう言った。
レオとジャックは信じられないのか漆鉄を凝視している。
「今の言葉を聞いた限りじゃそれってもう使えないってことだと思うんだけど、どうだい?」
「その通りだ」
「ならアレを無しにこれからどうするんだ?」
どうするか。
そう言われて黙ってしまう。
「そんなことより、そろそろカイトの番だ」
「ええそうね、でも、後で聞くわよ」
「私は下で見てくるわ」
「おう、頑張りな、ジャスミン」
「応援してるよ」
「ジャスミン、頑張れよ」
にひっ、と人懐こそうな笑顔を浮かべ彼女は言った。
「当たり前じゃないっ!──ありがと」
そして、カイトが負けて帰って来た。
■■■■■
「第一回戦第五試合が始まります!そのカードはなんと───同じギルドの二人、しかも団長と副団長だぁ~! 《蒼の双星》団長アンナ・ハリス対 《蒼の双星》副団長レオナルド・ラギアン!お二方は入場してくださいっ!」
アキナの言葉の後に、二人が戦闘場に姿を現す。
「では紹介に移ります!、まずは団長!アンナ・ハリーース!陛下の妹でありそしてその肩書きをあしらうほどの天っ才魔導師ー!美貌と魔法に撃ち抜かれる者多々発生ー!」
「アンナはとても素晴らしい娘です、是非是非その魅力をみんなも知るといい」
「陛下と言えば転移!いきなり隣にいらっしゃって私ビックリです!いやしかし素晴らしいシスコンっぷりを頂きましたー!」
兄の暴走に額に手をやるアンナ。
反対側のレオによる同情の視線が余計羞恥を掻き立てる。
「そして対するはっ!副団長──レオナルド・ラギアぁぁぁぁぁぁぁぁン!!炎を纏って繊細で豪快な剣士だ~~!〈剣士〉がSに到達しているため剣聖を名乗ることができる剣豪でございますっ!」
「レオーー!」
「団長に負けるなー!」
「応援してるぞー!」
ニカッと笑いながらレオが拳を突き上げる。
「それでは笛の合図と共に戦闘開始となります!」
レオが背中の留め具から外した大剣を肩に担ぐ。
アンナは右水平に伸ばした手の平の先に杖を出現させ握る。
「いざ尋常に────────始めぇ!」
「「【付与】」」
「やはり同じギルドっ、両者共に付与を唱えたー!」
互いに同じ魔法を行使し、それぞれの魔力の色を纏う。
「【水槍雨】」
「多い!、数が多いです!。この大量の魔槍を前にレオ選手はどうでるのでしょうか!?」
アンナの水魔法がレオに襲い掛かると同時に彼女を地を蹴った。
迫りくる幾多の水槍を前にしてレオは動かない。
魔法が先行し、少し遅れてアンナが真っ直ぐ走る中最初に水槍がレオの元へと到達。
彼の体を貫かんと着弾する一瞬、ブレた大剣が水槍をただの水飛沫へと変えてしまった。
そこから行われたのは斬撃の嵐だ。
自身に向く全ての魔法を斬り、走りながら杖を大剣へと変えていたアンナの一撃を受け流す。
返す剣で手首を狙った。
避けられると分かっていたレオは片手首を回しその場で大剣を一回転、反撃の隙を与えない。
「【水氷礫嵐】【竜巻】【氷点吹雪】【氷爆】」
「ギャー!?、凄い、凄いですよっ!」
「僕の妹だからな」
「またいきなりっ!?、心臓に悪いですぅ~!」
立て続けに放たれる魔法。重なった三つの竜巻が容赦無くレオを襲った。
「【付与】」
魔力ごと全ての身体能力を強化する【付与】を使い身に纏う炎の火力を増加させる。
それにより多少の威力は減衰させ、元々の『身体魔力』の高さにより魔法の殆どを無効化することに成功させた。
「やっぱりレオには生半可な魔法じゃ無理ね」
「レオ選手やはり強い!魔力は高くないと聞いていましたがこれは純粋な『身体魔力』で防いだのでしょうか!?」
「魔力の流れは確かに弱いし、付与しか使っていない。凄いよ彼は」
「ナチュラルに解説っ!?、陛下まさかお願いできるんですかー!?」
「アンナの試合は、ね?」
「ありがとうございまーすっ!」
アンナとレオは同じギルドであり手口など理解している。というか知っていなければ連携など出来たものではない。
故に、アンナは迂闊にいつも通り大剣を以て突っ込むことはしないし、レオも逆に近づかない。無詠唱で強力な魔法が放たれることを知っているからだ。
これまでアンナが使った魔法は彼女にとってただの挨拶。それが通常の魔導師からすれば十分に強いものであってもだ。
「───でも、わかってるわよね?───【神器解放】」
彼女の手に収まっていた美杖が神々しい光を放ち、アンナに力を与えていく。
「へっ、どんだけ一緒にやってきたか、お前もわかってるだろ?」
両者の問いかけ、互いに答えることはなく共に構えた。
「【水塊】」
「【燃え尽きろ】」
陽炎が空間を波打ち、アンナが無詠唱で展開した魔法円が硝子のように砕け散る。
「うおぉぉぉぉぉぉ!?、レオ選手不思議な力で魔法を防いだー!」
「あれはスキル由来の魔法で、あの陽炎に触れた魔法……ううん、魔法円状態なら阻害できる感じだ」
「というか陛下そんなに詳しく言っちゃっていいんですかー?」
「言わば身内みたいなギルドだからね、後で謝っておけば許してくれるよ」
「外野がうるせぇぇぇぇぇ!!」
「届かないわよ」
実況アキナと皇帝ユーリが口々に二人の戦いを分析し品評していて、それにレオが憤慨を覚えようとも結界のせいで声が届かない。
「今のところ引き分け、今度は私が勝たせてもらうわ!」
「言ってろ!」
激上した身体能力をもって振るわれる蒼の大剣と至高の絶技をもって放たれる緋の大剣が火花を散らす。
それをアディンとカイトは食い入るように眺めていた。
「凄いな…」
「ああ、いつか俺もあれくらいになりたい…」
注がれるのは羨望の眼差し。
それほど苛烈な戦闘の光景は二人を打ちのめした。
「アディンは 《焔の旋風》の団長に勝っただろ?」
「説明した通りもう使えないがな」
カイトは負けたことを余り根に持っていないようだった。これは俺を励ますための言葉だろう。
それを分かっていたからこそカイトから戦闘場へと視線を戻した。
「それにしてもレオの剣って凄いよな、今日見たなかでやっぱり一番だ」
「アンナの魔法もはっきり言って全員より練度が高い、今更だが俺らってあの二人にちっさい頃から仕込まれて来たんだよな」
六年前、よく知りもしないで 訪ねた《帝都中央案内所》。その受付嬢に微笑まれていたことが今では笑い話だ。
自分の子供の頃を認知できるようになるほどの年月を彼らと、仲間と過ごした。最初は上手くいかないことも多かったが十分に絆も信頼も築けていた。
三年前に加入したジャックとも既に家族のように接しられている。
隣のカイトも口を塞ぐ回数が少なくなった。
「………気を付けろよ、アディン」
懐かしい記憶に浸っていた俺を現実に引き戻したのはそんなカイトの言葉だった。
「次俺が当たる相手のことか?、大丈夫だぞ?」
「いや、あいつ……お前のことを何やらかんやら叫んでたからな」
「は?」
あのルシフェルとかいう男と面識も無いし、どんな人物かも一切頭にない。
知らないところで恨まれるほど多くの人間と交遊してもいない。表にも出ていないからどこで俺のことを知ったのか疑ってしまう。
「俺を倒せばお前と戦える、とか。俺に構ってる暇はない、とか。そんな感じだったな」
そこまで固執される理由が自分に思い当たりがない。
不可解だ。
しかし、カイトからその話を聞いた俺が思っていたのは全く別のことであった。
「カイト……、そんな奴に負けたのかよ」
自身を侮っている存在に負けるとは、俺ならば羞恥で踞ってしまうかもしれない。
「仕方ないだろ、相性が悪かったって」
「まあ、遠近両用のアドバンテージを崩されればわかるが……」
「だろ?」
カイトは基本遠隔の武器と自分が使う武器を生み出し、翻弄したのちに決めるという手法を取る。
それを封じられたのが先のルシフェルという男との戦いで、相手は近距離を得意としながらも遠距離を使えたのだった。
それに動揺してしまったカイトは初手で押し負け、徐々に逃げ場を無くされ遂にはジリ貧となり決着となった。
「それでも勝つのが本物だって思うけどな」
「それを言うなよ…」
「あ、レオが仕掛けたぞ」
「なんだなんだ?」
二人に視線を戻すと、レオがあの滅多に使わないマナを膨大に消費する魔法を使った瞬間が見られた。
ここからはレオの番だ。
「何回かあの状態のレオと戦ったことはあったが……」
「アンナよくアレを捌けるよな」
「知ってるか?、あいつ魔導師なんだぜ…?」
「お前それどんなネタだ…?」
少しふざけてみたら真面目な顔をされた。
「でも、だな」
「ああ」
どうやらカイトも俺と同じ意見らしい。
レオに見られる幾つかの兆候。
まず一つ──開幕速攻の【付与】。
そして二つ──序盤での煽り。
加えて三つ──対魔力魔法の早々の使用。
最後に四つ────
「使ったな」
「ああ、【焔転】を使った」
───これら三つを満たした上での【焔転】の使用。
再三教えても一向に治らないその癖。
レオの戦いを熟知する者でなくとも多少調べてしまえばわかってしまうその悪癖。
この四条件を満たしたレオは──弱い。
全ての攻撃が大振りになり、速攻を仕掛けるようになる。
特段焦ってもないのにだ。
「こりゃアンナが勝ったな」
「あの癖なんなんだろうな」
「さあ?」
アンナでさえ分からないのものをどうやって俺達に分かれというのか。
そして俺達の予想通り、追い詰められたレオは極大魔法を避けきれずに負けていた。
普段は頼りになる兄貴みたいな存在なのに、どうにも不甲斐ないところが目立つ。
まあとにかく、アンナ対レオの戦いはアンナの勝利によって終わったのだった。




