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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第四章 追憶のバトルゲーム
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第二話 戦戯へ向け


「ではっ、第何回帝都所属ギルド 《蒼の双星》方針会議を始めますっ!」

『お~~』

 

 パチパチと、ノリのいい数人が手を叩く。

 

「今回はジャスミンが持ってきたコレについてよ」

 

 そう言ってアンナがぴらぴらと揺らすのは『帝都闘技大会』という見出しの広告である。

 時は夕方。

 ギルドハウスに帰って来た二人はこの広告を手に団員へ詰め寄るジャスミンの姿を見て、そして如何に扱うかを全員で話し合うことにしたのだ。

 

「水霊一番、あと六○で予選か」

「ジャスミンが出たいって言ってるから参加するつもりだわ、それでいいかしら?」

 

 アンナの問いかけに答えた声は全て肯定を伝えた。

 

「ならどうするかね、全員固まって訓練するか、ライバルとしてそれぞれ個人で鍛練するか」

「個人に一票」

「私もー」

「俺は全員で、だな」

「僕もみんなで訓練した方が成果があると思うな」

「ミャーは知らニャいのニャ」

「どっちでも」

 

 アディン、ジャスミンが個人。

 カイト、ジャックが全員。

 クロはともかくレオが無票。

 

「ふふ、じゃあ私は個人、多数決で決定ね。全員じゃないからもう話すことないわ、解散」

 

 会議終了を告げるのが唐突過ぎる。

 颯爽と部屋から彼女が出ていった方向を皆呆然と見ていた。

 

「あー、じゃあ今日から個人で鍛練だ。剣と魔法の指導は大会が終わるまで無い。仮想空間の閲覧禁止、割り当てた鍛練場に入るのも禁止、それぞれで頑張れよ」

 

 大人筆頭のレオまで姿を消す始末である。

 

「僕もお暇、というより自分の鍛練に行かせてもらおうかな。三人も大会に向けて精進するように」

「それじゃ私は森に行くわ」

「俺はそうだな、屋上で武器の操作でもしてくるか」

「え、おい、ちょ───待て………」

 

 置いていかれた。

 取り残されたアディンが中途半端に手を伸ばしたまま固まって思ったのはそんなことだった。

 

「───はぁ……、俺も仮想空間でやるか…」

 

 呟かれた言葉は、ポツリと虚しく居間に響くのであった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

 木漏れ日が射し込む森の中。

 虫と小動物の合唱はある種の演奏に近く、耳を傾ければ自然と瞼を閉じてしまう。

 木々の間を抜けていくそよ風は心地よく、靡かれる毛先が頬を(くすぐ)る。

 

「【『ラフーガ』】」

 

 大気が蠢き、そよ風が動きを変えた。

 翡翠(エメラルド)色の風が右手元に渦巻く。

 そして手の中に生まれる確かな質感。

 ファン、と風が解かれてその姿が露になる。

 ジャスミンの右手が握るのは長剣。

 翡翠の剣身に白銀の装飾。

 風を模した金のレリーフが美しい。

 

「使いこなせるように、ならなくちゃね」

 

 ジャスミンが手に持つ剣の名は『ラフーガ』。

 精霊『シルフ』の力を宿した『霊器』だ。

 『霊器』──それは精霊に気に入られ渡されるものであり、契約した精霊の力を所有者に使えるようにする武器である。その形は所有者によって様々で、ジャスミンの場合は細剣(レイピア)のような剣身の長剣だ。

 

「【ゼフィル】」

 

 そう唱えると風が呼び起こされた。

 風の付与(エンチャント)

 『身体魔力』と『魔法魔力』、更に『霊器』の熟練度に依存する身体強化。風による大部分の防御に加え、風を乗せた一時的な加速まで行える優れたもの。

 重複して使えないがただの【付与(エンチャント)】に比べれば破格の性能だ。消費マナも圧倒的に少ない。

 

「【魔球(ボール)】」

 

 剣を水平に上げ魔法を発動すると、向けた剣先から風魔力の塊が放たれた。

 そう、『霊器』を使っている最中だと魔力が風になるのだ。私本来の〔自然〕は使えない。

 でも、はっきり言ってこちらの『霊器』を顕現させるのに何の消費も無いし、顕現させるだけで風を付与しなくとも力と敏捷、魔力が上昇しているのが分かる。

 また、ジャックも同じく闇属性の『霊器』を所有しているため話を聞かされたが、彼によると現段階の顕現の上に『霊装』という『霊器』を持つ者が目指す最終地点があるらしい。ジャックもまだその域には達していないようだが、文献を漁ったところどうやら精霊本来の姿に近くなり殆ど彼らと遜色ない力を使うことができるようになるらしい。

 是非『霊装』とやらになってみたいものだ。

 

「まあ、ジャックの方が霊器の先輩なわけだし、ジャックができてないなら私が出来ないのも仕方ないわよね」

 

 納得と理解はしている。

 だが。

 

「競争よ、絶対に大会で驚かせてやるんだからっ!」

 

 負けず嫌いな自分がそう訴えている。

 先に『霊装』を成功させて見せると。

 私も予感があるのだろう。

 私が契約した精霊は風を司る『シルフ』。

 風と言えばこれまでに何度か不可解な風を感じたことがあった。

 一つは孤独となった森で住処にしていた場所に導かれたとき。

 一つは森で太刀打ちできないモンスターと遭遇したとき。

 一つはダンジョンであの狼に止めを差したとき。

 どれも私が危機に陥った瞬間である。

 ならば必然的に彼女──『シルフ』が風により手を貸して、導いてくれたのだろう。

 契約もしていないのに声だって聞こえたこともある。

 そこまで好かれているのであれば、俗に同化と呼ばれる『霊装』であってもすぐにこなせるはずだ。

 期待していても、がっかりすることはないはずだ。

 

「これから一緒に頑張るわよ、『シルフ』」

 

 風を纏う長剣に映る自分の顔が、少し笑った気がした。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

 さて、何をしようか。

 仮想空間に訪れて白い空間に身を置き、刀を抜いて最初に思ったことはそれだった。

 大体は他の誰かと来ていたし、刀はいつも相手がいての稽古だった。

 仮想だけに架空の相手と戦うということも頭に浮かんだが、やはりいつものアレで行こうと思った。

 

「【来たれ竜の落とし子、強固な鎧を纏いて鋭利な剣で敵を切り裂け】──【召喚─『蜥蜴王(リザードキング)』】───【来たれ大いなる獣、破壊の権化となりて巨狼の力を示せ】──【召喚─『獣王(ビーストキング)』】」

 

 続け様に喚び召されるモンスター二体。

 前者は炎を思わせる赤の鱗を生え揃わせた両の脚で立つ蜥蜴。その右手には巨剣を握っている。

 後者はジャスミンがこのモンスターは見れば即座に憎悪を思い出す姿で、あの巨剣をもった狼である。ジャスミンにあのときあれほどの重傷を負わせた相手なわけで、内心申し訳なさを感じるが適任が思い付かなかった。

 彼女に心の中で謝りつつ二体のモンスターと刀を以て対峙する。

 いつものアレ、というのは自分で召喚したモンスターと戦うものだ。

 カテゴリーが低くては何の鍛練にもならないためカテゴリーⅣのこの二体を選んだわけで、現段階では二体が限界であった。無理をすればもう一体召喚できるがマナが切れてしまうため魔力の向上が得られないので二体だ。

 

「よしお前ら、掛かってこい!」

 

 カテゴリーⅣとなれば相当な知能がある。こんな簡易な命令でも俺の求めることを察し行動に移せることは確認済み。

 同時ではなく縦に連なって迫る巨体を前に、俺はいつもの魔法を唱え刀を構えるのだった。

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