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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第三章 エメラルドラビリンス
33/195

第八話 The Boss Battle

ジャスミン回が数話続きます。


 

 ドガアァァァァァァンッッッッ!!!!

 

 

 轟音。

 

 凄まじい爆音と共に巨門を破るようにして現れた少女。


 肩までの深緑の頭髪を揺らし、彼女の種族長耳族(エルフ)の象徴である長い耳がピクピクと動く。

 

 地面を削りながら速度を落とし、ようやく止まった身体を前屈から伸ばし、侵入することができた迷宮主の部屋を(かぶり)を振って見渡した。

 

 色はドギツく、この迷宮の名前の由来となった翡翠(エメラルド)などという宝石とは程遠く、自然の緑とは違って眼が痛くなりそうだ。

 

 広さは先程抜けてきた巨大空間より更に大きく、もし端向かいに人が立っていたら豆粒ほどに見えるのではなかろうか。

 

 だが、今言ったその端の手前、そこには別の存在が座していた。

 

 紫の硬い体毛と緑の鋼のような筋肉に包まれる体躯。

 

 玉座に頬杖をつく右手やチラリと見える口元、足には鋭い爪や牙が生え揃っている。

 

 狼の二足歩行を思う姿。

 

 アディンの召喚していた『狼人(ウォーウルフ)』のようだ。

 

 そして、その玉座の左隣にはジャスミンの背丈の二倍を悠に超える巨剣が突き刺さっている。

 

 強者──いや王者の風格を纏うその怪物はゆっくりと瞑目を解き、自身の領域に侵入した哀れな弱者を見据える。

 

『よく来た小さき者よ、これより試練を開始する』

「──なっ!?」

『ほう、言の葉を介することに驚いているようだな。まあいい、そこの器を手に取るがよい。力を見てやる』

 

 大きい、それがジャスミンの迷宮主に対する第一印象だった。

 

『まずは小手調べだ、我はろくに貴様の戦いを見ておらん。我が配下と戦い生き残って見せよ』

 

 そして、バキッと亀裂が一斉に入る。

 

『さあ始めようか───怪物祭(フェスティバル)だ』

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

『その器の名はヘリオライト、手に取り次第試練を始める』

「ねぇ──」

『問答無用』

「───っ……」

 

 強烈な威圧、私は一瞬膝を屈し掛けた。

 

『貴様の運命はただ一つ、ここで死ぬのだ』

「そんなの、分からないじゃない!」

『なら証明して見せろ』

 

 とりつく間もない。

 と、ここで気がつく。

 どうして私は戦おうとしない?

 ここに来た理由を何故忘れていたの?

 つまり──

 

「思考操作……」

『………』

「そうね、よっぽど効率的だわ。戦意を滾らせた剣士と、戦う意欲を失った女なら、後者を選ぶのが筋だもの。ごめんなさいな、私はアンタの術中には嵌まらなかったみたいだわ」

『………なるほど、高い精神抵抗力だ。音にも屈することは無かったな。甘く見ていた、では直々に戦ってやろう』

「それでこそ怪物よ」

『好戦的な娘だ。では剣を執れ、死合いを始める』

「望むところよ!」

 

 既に目の前に浮かんでいた二振りの短剣を勢いよく掴み取り、巨剣を引き抜く狼へ向けて構えた。

 次の瞬間、亀裂の入っていた壁面、床が一斉に割れた。

 

「───」

『祭りと言ったであろう?、楽しめ、小さき者よ』

「───くそっ……!?」

 

 デュルゥッと産まれ堕ちる膨大なモンスター。

 私の前に広がるのは、逃げ出した大群(パレード)よりも遥かに数が増したまさに祭り(フェスティバル)

 少女らしからぬ悪態を吐きながら怪物の波を迎え討つ。

 最初の戦闘は脚に自信のある緑の体躯、『緑蜥蜴(ヴァンリザード)』だった。

 口端から漏れ出す火の粉は緑で、その身体の大きさは人一人を覆うことができるほどだ。

 だが、私の敵ではない。

 炎も吐かず飛び掛かって来る。

 それを僅かに身体をズラすことで回避、すれ違い様に振るった右手の短剣でその首を落とす。

 絶命の瞬間までを見届けることなく私は前屈、勢いよく地を蹴った。

 

「【付与(エンチャント)】」

 

 加速をもって怪物達に肉薄、接敵の瞬間選んだのは右に舵を切ることだった。

 たった一体のモンスターに手間取っている暇など私には無い。

 全て一撃で首を飛ばし、次は左へ舵を切った。

 そうやって稲妻のようにモンスターが跋扈(ばっこ)する戦場を駆け巡る。

 多くの怪物を屠ってようやく奴らも警戒し出したのか、本能のままに突っ込んでくることはなくなった。いや、本能で動いているからこそ無闇に距離を詰めて来ないのだろう。

 私を中心に円が出来上がる。

 隙を見せれば即座に襲い掛かってくるだろうが、生憎と私はそんなヘマをしない。森で鍛えられた動体視力と運動神経、殺気や悪意の察知、平衡感覚や集中の持続などに掛かればモンスターの警戒などあって無いようなものだ。

 

「私の敵にはならないみたいだけど?」

『そのようだな、しかし分からんであろう?』

 

 どうやら意地でもこのモンスターの大群(パレード)を引っ込めるつもりはないようだ。

 だがしかし、現状は私にとって実は有利である。

 この場にいるモンスター全てをこの手で倒すことができれば、大量の力が身体魔力に加算される。そうなれば土壇場で強くなるという展開が望まれる。挑発しておけばその狙いに気付くこともない。

 

「高みの見物とは随分なお身分だこと、この犬め」

『あぁ?』

「そこで私の強さをよく見ておきなさい、絶対にビビらしてやるんだから!」

 

 そして、あの偉そうな狼とは別の狼の元へ一瞬で近づきその首を落とす。首しか狙わないのは別に趣味でも何でもない。短剣の剣身では袈裟で両断など無理だからである。

 そんなことを考えている内に七体のモンスターを地に沈めた。

 私はこの時点であることに気がついた。

 七体という数字に。

 いくら何でもおかしい。

 私はそんなに速くない筈だ。

 現に今の思考の内に五体のモンスターを屠っている。

 これにはもう私でも解った。

 封器だ。この封器が私を速くさせているのだ。恐らく効果は単純な身体強化。攻撃を受けていないため耐久の上昇の確認はできない。魔力も同じだ。

 しかし力と敏捷は確実に高くなっている。

 意識を身体に傾けていると、些細な変化を感じることができた。

 徐々に、微々たる量だが力と敏捷が上昇していっている。なるほど、これは気が付かないだろう。何せ人間は自身の身体に起きている微小の変化を感じ取ることは難しい。やたら過敏な神経でないと気にすることもない。

 それが攻撃を加える度に起きているのだ、知らなければ盛大な勘違いをしていた。

 だが真実を知ることができた今、意識の改善を行うことができる。【付与(エンチャント)】を多用しなくともこの封器さえ振るえば肉体の向上が見込めるのだ。

 敏捷が他の力、耐久、体力、魔力、精神に比べて互いため、この封器の効果は打ってつけであり私にピッタリと合った。

 ここまでの適合は流石に偶然とは言い難い、アンナ達は知らないと言っていたアレも嘘だったのだろう。

 別にそれに関してはどうでもいいが、それよりも感謝を送ろう。

 

 (そのためにも、こいつらをブチのめなさないといけないわね)

 

 加速した、強くなった肉体を以て怪物の蹂躙を開始する。

 人間、すぐ目の前に成長が見えるのなら、これほど楽しいことはない。

 振るえば強く、振るえば速く。

 今私は興奮の絶頂に登っていた。

 戦えば戦うほど感じられる成長の実感、それが私にもたらしたものだ。

 気付けば、笑っていた。

 

 (これが(うつわ)、これが封器、これが力っ!)

 

 楽しい。

 目の前の命を刈り取るのが楽しい。

 もっと。

 もっと。

 もっと───

 

 

 

 

「───あれ?」

『どうやら全て倒したようだな、誉めて遣わす。では我自らが相手してやろう』

 

 ズン、と身体の奥を響かせた振動。

 それが狼の踏み込みであると理解したのは眼前に迫る巨剣に殴られるようにして吹っ飛んだあとだった。

 

「────カッッハッ………」

 

 咄嗟に自分と剣の間に短剣を割り込ませられたことは奇跡に近かった。

 強烈な一撃に視界がチカチカと明滅している。

 

『軽い軽い、これでは先が思いやられるぞ』

 

 次は私の番だとばかりに狼は動きを見せない。

 その事実に頭がカッと熱くなるが、先の一撃を受けたことによりビリビリと痺れる両手に一歩踏み出すことができない。

 

『まだ来ぬか、ではもう一度我から行かせてもらおう』

 

 遊んでいるつもりなのだろう。事実実力と能力の差を考えればそれに等しいのかもしれない。

 けれども、ここで大人しくしていることなど、私には出来ない。

 恐怖など既に消えた。

 私は戦意を滾らせて迫る巨剣を見据え、身を翻した。

 背中を僅かに霞む風。

 思い通りにギリギリで避けて狼とは反対の壁へ駆ける。

 

『逃げ場など何処にもないぞ?』

 

 その一言を鼻で嗤う。

 

 (誰が逃げるですって?)

 

 高い敏捷を以て壁まで走り、衝突寸前で足を蹴り上げた。

 柔軟な身体を使って膝を顔スレスレまで近づけそのまま脚を振り下ろす。

 私の足裏が踏んだのは壁。

 半球型の巨大空間を逆手に取り壁を駆け上がる。

 重力に速度が負ける瞬間天井を蹴り狼の頭上から急襲、時間があったためか既に掲げられていた巨剣に防がれる。

 だが、私はこの瞬間を待っていた。

 

「掛かったわね!」

 

 巨剣に左手の短剣を叩きつけその反動で体勢を整える。

 そしてそのまま狼の体躯を縦横無尽に動き回り全身を短剣で切り裂いた。

 小回りの難しい巨剣の安全圏はその懐、狼は間合いを取るか剣を手放すか、私を相手に攻撃を加えるにはどちらかの選択肢を選ばなければならない。

 元々敏捷に自信のある小さい私と巨体の狼とでは明らかに小回りの点で差がある。それを失念していた狼の天秤が上へ傾いたのだ。

 

 (さあどうするっ!)

 

 圧倒的優位。

 それでなお私は油断することなく狼の隙を狙う。

 肉体に対して短剣が如何に矮小であろうとも、続けていれば必ず倒れる。それに私にはこの攻撃すればするほど強く速くなる封器──『ヘリオライト』がある。

 負けることは───無い。

 既に戦況は我慢比べ。

 根性では負けない。

 だから絶対にか───

 

 

 ──そして、視界が揺れた。

 

 

 一瞬の思考停止、しかしすぐに立ち直らせた私は状況確認を怠ることなく、そして青ざめた。

 

 落ちる私。

 天井に存在する巨体。

 その巨腕は振り上げられ、巨剣に力が集結していた。

 

 (あ───)

 

 時は一瞬。

 急落する狼が振るった一撃は、私を紙屑のように吹き飛ばした。

ガッツリ単独戦闘です。複数人での戦闘だとどうにも大雑把になってしまうのが難点です。

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