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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第三章 エメラルドラビリンス
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第六話 逃避行


「逃げるぞ、正面突破だ」

 

 何を血迷い事を、とジャスミンとカイトは思った。

 ダンジョンから脱出しようとした彼らの退路を遮ったモンスター。

 怪物達から逃げるように奥へ入ってしまった三人を待っていたのは、ダンジョンの獲物を逃がさないという悪意に満ちた怪物行群(パレード)の歓迎であった。

 それを目の当たりにしたアディンが半狂乱を起こし、先程の馬鹿げたことを口走ったのである。

 恐らく冷静な判断が出来ていないのだろう。前進か後退か、いち早く立ち直って二人を導いてくれたのはアディンで、その分多くの負担を掛けてしまった。これがつけが回るということなのか。

 

「突破って言ったって…」

「グズグズしてる暇ねぇんだ!、さっさと用意しろっ!」

「───っ、わかった…。ジャスミン…」

「え、えぇ…」

 

 アディンの剣幕に従わざるを得ないと感じたのか、二人とも渋々強化を自身に施す。

 

「もう一回だ!」

 

 こうなるといよいよ真実味が帯びてくる。

 二人を叱咤するためではなく本当にあの大群を抜けるつもりなのだと。

 

「───【来たれ業火の剣】」

 

 唐突に詠唱を始めた。

 カイトは彼のその行動に顔をしかめる。魔法を使う魔力でもないのに、そんな起死回生の一手を持っているとは考えられない。

 焼け石に水でしかない。

 すぐに止めようとする。

 

「【炎激の波動を呼び起こせ】」

 

 しかし咄嗟のことでカイトも動きが遅れた。

 意識の違いが決定的な差を生み、アディンの詠唱が止まることは、ない。

 

 「────【召喚『壊炎剣』】」

 

 とうとう完成してしまった魔法。

 翳した手のひらの前に切っ先を下に向けた長剣が召喚される。

 もう好きに撃たせるしかない、仕方ないと下唇を噛んだ。

 そして次の瞬間、彼は自分の目を疑うことになる。

 

 

 

 

「───【焼き尽くせ(バーンアウト)】」

 

 

 

 

 袈裟に一閃。

 振り抜かれた剣身から爆炎が吐き出された。

 

「───なっ!?」

 

 一瞬にして、モンスターが灰へと変わる。

 こちらに迫ってきていた計六体が焼き尽くされた。

 更に二閃、放たれる炎は凄まじく、火の粉が視界を埋め尽くす。

 圧倒的な熱量を前に、二人は開いた口が塞がらなかった。

 

「行くぞ」

 

 こちらを肩越しに見やるのは、何一つ血迷ってなどいない、確たる力をもった先導者だ。

 反論など当にない。

 退路はもはや不要。

 気概が復活する。

 舐めた真似をしてくれた迷宮に牙を剥く番だ。

 絶対に攻略してやると渦巻いた感情に従い、二人は首を縦に振った。

 負けることの許されない強行軍が始まる。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「ジャスミンは索敵、発見次第報告、お前には封器を取ってもらう、無駄遣いするな!」

「俺とアディンでジャスミンが切り開いた討ち漏らしを殺る、とにかく進め!」

「五体来た、二、落とす!」

 

 自分達を追いかけてくる怪物には目もくれず、進行の邪魔をするモンスターのみにだけ絞って相手をし、何とか五階層まで到達することができていた。

 残留物(ドロップアイテム)云々など気にしている暇もなく、警戒もせずただ前へ進むことだけを考えた彼らへもたらされた恩恵は計り知れない。

 六階層を目前にして、全員無傷。

 ジャスミンにマナを浪費させることなく、更には魔道具の使用までなかった。アディンの召喚した剣に込められた力も凡そ半分は残り、一番魔法を使っているはずのカイトでさえマナが半分を切らなかった。

 息切れや疲労により速度が微かに落ちたことだけが三人の気掛かりである。

 

「───今のところ近くにはいないみたいだわ」

「速度を弛めるなよ、最速で一番下まで行くぞ!」

「ずっと強行してんだ、少しぐらい休んだって……」

「駄目だ、このままじゃ全員お陀仏なのが目に見えてる。時間掛ければ掛けるほど俺達の不利になるだけだ。奴らは無尽蔵なんだからな」

 

 そう言われてしまえば返す言葉がない。

 今もこちらからマナを吸い摂り、魔法を使ったあとの残滓も食らっているのだ。ジリ貧になるのは確かなことだった。

 打てる手が一つしかない、ということでは無いのだろうが、全ての目的を達成するためにはアディンの言う無理矢理ダンジョンを突破することしか無いと思い始めているのも事実。

 目的とは封器を手に入れるのと生還することだ。

 当初の全員の成長は既に果たされているようなものなので数えることはない。

 

「そろそろ階層主の場所だ、どうする?」

「俺が燃やす、カイトは炎を増幅させてくれ」

「………風を使うってことでいいんだな?」

「時間が惜しいからな、俺らのマナはどうでもいいがジャスミンに後々響く」

「了解、着く頃に出しておくぞ。タイミング合わせて消し飛ばす」

 

 そして一時間、三人の前には黒焦げとなった階層主が徐々にその身をマナへと変えていた。

 

「その剣、とんでもない威力だな…」

「何で初めから使わなかったのよ」

「使う必要がなかったからな。ダンジョンで成長なんて四の五の言ってられる状況じゃなくなった時点で使うって決めてたんだ」

 

 つまり、どんな危機に陥っても立て直せる起死回生の切り札を既に切ってしまっているということだ。

 その事実に不安が再燃する。

 

「そんな顔すんな、まだあと一回分のマナは残ってる。……お前ら大丈夫か?」

 

 そんなわけない、逆にアディンが心配なのだ。

 半狂乱に陥りすぐに立ち直ったかと思えば冷静沈着な指示を飛ばし、二人を率いている。今までリーダーシップなど見せたことなかった人間がこうも働き出せば心配にも不安にもなるというもの。

 それに、五階層のモンスターはカテゴリー Ⅲ、敵としての心配はない。また六階層でやっとカテゴリーⅣという苦戦する相手になるが、無限に湧いてくる雑魚に手こずることなどない。刻々と背後から大群が迫って来ているとは言えども、自分達の進行速度には追い付けることはない。

 故に、彼ら二人の精神を削っていたのはアディンであった。

 彼のちぐはぐな言動は彼を知る二人にとって異常であり、迷宮という場所も加えてアディンの気が触れたのかもしれない、過度の無理をしているのかもしれない、アディンがこのままでは壊れてしまうかもしれない、と気が気でなかったのだ。

 

「もう十分休めただろ、行くぞ」

 

 立ち止まっているかと思えばこれだ。

 明らかに今までと様子が違う。

 まるで別人のアディンに困惑を禁じ得ない。

 それでも頼りになることには違いないので、二人は従うしかないのだ。

 彼が落ちれば遅からず自分達は瓦解する。

 殲滅力を持つのは現状アディンしかいないのだ。

 戦力としても親友としても失うわけにはいかない仲間に、彼だけは守ろうとカイトは決意を固める。

 アディンに無理をさせ、カイトには負担を掛け、一番楽をしているのは自分だ。負けることは許されない。二人を地上に帰すためにも絶対に勝つとジャスミンは決意を固める。

 二人の変化に気づくこともないまま、アディンは恐らく最下層であろう、七階層への階段に足を踏み入れた。

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