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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第三章 エメラルドラビリンス
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第二話 Floor 0


 青の燐光が散らばる大通路。

 重い胴体を引き摺るかのような不快音が反響し耳朶を震わす。

 踏み締められる赤褐色の土は硬い靴音を響かせている。

 軽く同色の壁に剣が小突かれると、カンカンとやはりこちらも高い音が聞こえてくる。

 歩みを少し緩めた三人は話を始めた。

 

「やっぱり洞窟とかとは全然違うな」

「壁とか床も凄く硬いもんね」

「ああ、これをぶち破ろうとした奴の気が知れねぇ」

 

 百聞は一見に如かず。

 

「カイト、さっきから黙ってどうしたのよ?」

「何でもないぞ」

「どこが何でも無いんだ、隠すなよ」

 

 既に足は止まっていた。

 先程の彼とアンナのやり取りを知っているだろうに、彼らは気兼ねなく踏み込んでくる。

 それを失礼とは思わない。むしろありがたいことだとカイトは感じ、これ以上黙りを決め込むのは得策ではないとその心の内を吐露した。

 二人が黙ってその告白を聞いていたため、どんな反応が反ってくるのかと心拍を高めていたカイトだったが、次のジャスミンの言葉に絶句した。

 

「何よ、そんなどうでもいいこと気にする必要ないじゃない」

「どうでもいい、だって……?」

「そうよ、忘れたの?私達が《蒼の双星》に入るとき、アンナが最初と最後に言ってたこと」

「流石に忘れたとは言わせねぇぞ……」

 

 記憶を遡る。

 アンナが言っていたこと。

 二人が常に胸の内に留めていること。

 

 ────……

 

 『強さを求めること。裏切らないこと。仲間を大切にすること。最後に、絶対に死ぬことは許さないわ』

 

「───っ」

「思い出したみたいね」

「わかったか?」

 

 コクリと首を縦に振る。

 忘れていたというわけではなかった。ただ、頭の片隅に常に留めておくことを怠っていたのだ

 だが今、二人がアンナの言葉にすぐに従った理由が判明する。

 

「強くなる、裏切らない、そして死なない、か」

「そうだ、アンナ達は俺達三人で攻略できる、そう思ったからこそ挑ませるんだ。死ぬなって言ってる奴が絶対に生きて帰れない場所に送り出すわけがないだろ?。まあ、楽じゃあないだろうがな。強くなるために行かせるわけだし」

「忘れてたわけじゃないんだけどな…」

「まあ、今気付いたってことにしときましょ。それより、どんな封器なんでしょうね?」

「いいな、うじうじしてても仕方ねぇ。ジャスミンに倣って明るい話だ!」

 

 強引な話題転換、しかしそれが今のカイトにはありがたかった。

 

「封器か………武器は自分で出せるし、俺には必要ないかな」

「まあカイトはそうだろうな。多分ここの封器はジャスミンの物になるだろうよ」

「──?、なんで?」

 

 コテンと首を傾げる仕草に短い髪が揺れる。

 

「俺にも『漆鉄』がある。カイトだって武器は必要ない。となるとジャスミンだけってことだ、特殊な武器を持ってないのは」

「───?」

「え、まだわからないのか…?」

「んー?、二人は他の武器は要らないの?」

「要る要らないの話じゃなくてな……」

「ジャスミン、アディンはこう言いたいんだよ。俺には自分の思うように武器を作れる魔力がある。アディンには唱えるだけで重複の負荷が付与(エンチャント)より少ない強化魔法を使える刀──『漆鉄』がある。となるとジャスミンだけが強力な武器を持ってない。何かしら特色がある二つの武器に対してジャスミンが持つのは単なる短剣、それじゃ今後通用しないってことだ」

 

 ふむふむ、と頷いて聞いていたジャスミンはその最後の言葉にムッとした表情でカイトとアディンを睨んだ。

 

「何よ、『パーセシヴル』が気に入らないって言いたいわけ!?」

 

 『パーセシヴル』とはジャスミンが愛用する短剣の名である。十一歳のときに自分で選び、それをレオに褒められそれからずっと使い続けている短剣は、今のジャスミンの実力に伴うものではなく、《蒼の双星》の中で一番火力が低いのは現状ジャスミンなのであった。

 だがそれを自分の未熟さ故と勘違いしている彼女は『パーセシヴル』を貶され不機嫌になったのである。

 

「自分でも分かってるんだろ?、もうその剣は使い物にならないって」

「何よっ!!」

「何でそこで言い合いになるんだ……?。封器の能力について話すんじゃなかったのか?」

「もういいわ!、アディンとなんか話す気無いもの!」

「へっ、ガキかよ」

「何よ!、そう歳も変わらない癖に!」

「はいはい、二人とも落ち着け。来るぞ」

 

 

『ガアアアアァァァァァ!!!!』

 

 

「「────ッッ!」」

 

 

「騒ぐのもいいが、アイツを倒してからにするんだな」

 

 けたたましい雄叫び。

 それに同時に顔を振り向けた二人は互いに得物を抜き去った。

 既に三振りの剣を浮遊させるカイトの前に並び、構える。

 

「ジャスミン、話は後だ。ちゃっちゃと始めるぞ」

「同感、ヘマはするんじゃないわよ」

「はぁ、どうせこのあとは仲直り。この役回り何とかならないのか……」

 

 現れた彼らと同数のモンスターを前に、三人は戦意を迸らせるのであった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「アンナ、何であんな嘘を吐いたんだい?」

「何のこと?」

 

 時を同じくしてダンジョンの外。半日以上は掛かるであろう彼らを迎えるため、残った三人は天幕(テント)を設置し寛いでいた。

 

「このダンジョンの封器、既に知っているんだろう?」

「…………はぁ、何でわかったのよ」

 

 黙りを決め込むつもりだったようだが、アンナは真っ直ぐとこちらを見据えてくる紫の瞳に押し負けた。

 

「ええ知ってるわ。攻略したもの。封器は取らなかったけど」

「どうしてだい?」

「合わなかったのよ、私達には」

「封器の効果は攻撃を加える度に力と敏捷が上昇するやつだ。解放すればその効果が上がるシンプルなものだな」

「上限は…?」

「無いわよ」

「………強くないかい?」

「レオも私もその時点でどっちも『器』を持ってたのよ」

「………ん?、なら何でここに?」

「………別に」

 

 ジャックがそれを尋ねたとき、アンナとレオの雰囲気が一瞬変化したことを彼は見逃さなかった。

 だが、言いたくない、そんな感情が感じ取れたため問い詰めるようなことはしない。

 聞いても教えてくれることもないだろう。

 悪くなった空気を誤魔化すため、ジャックは話題を変えた。

 

「となると、その封器に合うのはジャスミンかな?」

「そうね、それを見越して連れてきたわけだし」

「アディンとカイトには武器がある。だがジャスミンにはない」

「武器というか伴ってないのよ、あの娘の実力に。ならいっそ封器を持たせればいい、って思ったわ」

「へぇ、確かに、ジャスミンの敏捷の高さと剣の腕を顧みれば納得の采配だね。で、このダンジョンの迷宮主の名前は?」

 

 

「『ヘリオライト』よ」

 

 

 ジャックの努力虚しく、アンナの沈んだ雰囲気が立ち直ることはなかった。

 いつもは嗜める役のレオでさえ、言葉を発することはない。

 どうやら並々ならぬ事情があるらしい、とジャックは口をつぐむのであった。

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