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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第二章 黒
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第十一話 状況終了

想像力が豊か過ぎて文章のみでも気持ち悪くなる方がいるかもしれないのでご注意下さい。直接的な表現ではありませんが軽いグロ系があります。


 突如として目の前に現れ危機を救った少年──ジャック。

 その身体は小さくとも、背中は大きく見えた。

 自分の約二倍はある巨鎌を携え、破壊の権化に立ち向かう姿は、仲間であるアンナとレオを想起させる。

 

「俺はまだ──」

「止めときなよ、自分の常態が分かってないようだね。確かに回復薬(ポーション)で外傷と体力は戻ったと思う、でも内臓は? 骨は?、見たところ君も回復を使えないみたいだ。僕は闇魔力だしね。今は痛みを感じてないだけで、相当な重症と見える。怪我人を動かせるはずないよね?」

 

 ───っっ、そういうことらしい。

 事実、意識した途端激痛が全身を走った。

 

「大人しく待っておくといい。大丈夫だから」

 

 会ったばかりの他人の何を信頼しろと言うのだろうか。

 俺の身体の状態を見抜いたのとあの怪物を弾き飛ばしたことが力については語っている。しかし誰が、何度も言うようだが、初対面の相手に命を預けるのか。

 一切解らない。

 ただ、その考えは周囲に意識を向けると大きく変わった。

 長く話し込んでいたというのに、既に立ち上がっている怪物がこちらを襲って来ないのだ。

 よく見ると、粟立っていた皮膚が鳴りを潜めている。

 

 (───怯えている?)

 

 その可能性が脳裏を過る。

 

 (誰に?)

 

 (………この男に?)

 

「さて、意外と理性が残ってるみたいだね。さっさと始めようか。──【霊装──タナトス】」

 

 姿が変わる。

 神器と同じだ。

 紫の髪は灰色に、巨鎌は歪さを増し、灰色の衣を纏う。

 話は聞いたことがある。

 精霊という存在から授けられる武器を使う『霊器使い』のことを。

 通常は一つしか持てない魔力を追加で手にすることができ、異能を行使できる精霊由来の武器──『霊器』。

 『神器』はその魔力を鍛えた者への神からの贈与、片や『霊器』は精霊の気紛れ。

 珍しい存在を目にすることができた。

 姿を変えたジャックは流れるように鎌を振り上げ、何事かを呟く。

 すると、振り下ろされた鎌から一つの黒輪が放たれた。

 それはキュインと初めて聞く音を立てながら急進し、怪物の首元へ到達、撥ね飛ばした。

 綺麗な断面からは膨大な量のどす黒い血液が噴き出し、醜悪な生首はボトリと怪物の背後に堕ちた。

 

「──うっ……」

 

 そして最悪なことに、『黒』が抜けた後には至るところが破けた女性の体と片眼が破裂した女の生首が残った。

 見慣れない人の無惨な死に込み上がってくる吐き気に思わず口を右手で押さえる。

 

「さて、君を陣に送らないとね。歩けるかい?」

「………ああ、確かにあんたの言うとおり中身がやられてるようだけど、歩けるな」

「なら行こうか、そろそろこの討伐も終わる頃だよ」

 

 治癒力を向上させる目的でもう一本薬液を喉に流し込んだあと、俺たちはゆったりとした足取りで隊長が指揮を振るう後方陣営へと向かった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「決めるぞ!、カイト!ジャスミン!」

「わかったっ、カイト行くよ!」

「ああ!──【ウエポンバースト】!」

「【────焼き付けろ】【向日葵(サンフラワー)】」

 

 五振りの片手剣が炸裂し、伸びた花の雌しべから緑の魔力光が照射された。

 大型の熊のモンスターに浴びせられる魔法はその体躯を容易く傷つけ、絶命の時が近づく。

 

「これでも倒れない、か」

「きー!、めんどい!」

 

 確かな手応えを感じていた二人は対峙するモンスターの強靭さに歯噛む。

 戦闘開始から三十分。群れを殲滅した後に姿を現した熊のモンスターと戦い始めてからさらに二十分。流石に疲れが表面に出始めていた。

 

「みんな、退()いて!」

「──【氷爆(フロストノヴァ)】」

 

 魔導師の男性が放つ氷属性特大魔法───【氷爆(フロストノヴァ)】。指定範囲を急激に冷やし、次いで爆発を起こし、その風圧で生み出された熱量を使って爆発の威力を高める範囲魔法だ。加えて氷の影響も受けるため衝撃が逃げない。

 殺意増し増しの魔法である。

 そしてそれを食らった熊はというと、全身の体毛に霜を降りさせ、動きを止めていた。

 

「今後こそ終わりだ、カイト」

「そうだな、わかってるさ」

「「せぇー───のっっ」」

 

 斧を肩に担ぐ厳つい男と、手の中に巨剣を生み出すカイトが、身動きを取れない熊の前に躍り出る。

 両者共に大型武器を振りかぶり、示し合わせなくとも揃ったタイミングで飛び上がる。

 大きく助走と溜めを作った二人は同時に喉を震わせた。

 

 

「「砕け散れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」

 

 

 斧と剣、その二振りは狙った頭部へと吸い込まれるように叩き込まれ、頭蓋骨をかち割って身体ごと破砕した。

 命の灯火を途切れさせた熊はそのまま『黒』の粒子となり肉体を消滅させる。

 

 ピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!

 

『よっしゃぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!』

 

 五人で拳を突き上げ、跳びはね、抱き合う。

 全員で喜びを讃え合い、後方陣営への帰還を始める。

 先程の笛は状況終了の合図なのであった。

 

 

 

 

 

「アディン、大丈夫かな…?」

 

 そう呟いたのはジャスミンだ。

 陣営まで戻ってきたジャスミンとカイトは三人の仲間と別れ、途中で迷子になったであろう仲間の帰りを待っていた。

 

「怪我してなかったらいいけど…」

 

 明らかに心配し過ぎである。

 アディンも冒険者、怪我を恐がっているはずもない。どこかには傷を作っていることであろう。

 

「噂をすれば、だな」

「──えっ?」

 

 ニヤついた表情のカイトに肩を叩かれた彼女は一瞬困惑を見せ、すぐにその言葉の意味を理解すると指される方向へ顔を向け、喜色に相貌を染めた。

 

「アディン!」

 

 叫び声に近い呼び掛けに、子供に支えられる少年が苦笑しつつも手を振った。

 三人の中で一番足の速いジャスミンがそれを見せつけるかのように疾駆し、アディンに突撃した。

 それを見たカイトは「怪我人だろうに…」と同情の視線を向ける。

 案の定、傷に響いたのか少年の絶叫が陣営に響き渡った。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「で、もう一回言ってみなさい?」

 

 今の構図を説明しよう。

 まず、ジャスミンと一悶着あってからすぐにアンナ達が帰ってきて、事の顛末を伝えた。

 その話の途中、黒魔導師、つまりあの女と戦いジャックに助けられたことを口に出したところでアンナが低い声で再度の説明を求めてきた。

 

「いや、だからこいつ──ジャックに助けて貰ったんだって」

「それはありがとう。でもそっちじゃなくて何で逃げなかったか聞いてるんだけど?。私が治せたからいいけど、あなたどれだけの怪我をしたか分かって言ってるわけ?」

 

 それについては本当に反省している。

 現にジャスミンを泣かせてしまっているわけであるし。

 

「まあいいわ、今後、ちゃんと私達の言ったことを守りなさい。いいわね?」

「わかった…」

 

 有無を言わせない口調と態度に、全面的に自分が悪いこともあり素直に首を縦に振るしかない。

 

「でだけど、貴方」

「何かな?」

「見たところ小人族(ピクシー)みたいだけど、何か言いたいんじゃないの?」

 

 何かの雰囲気を悟ったのだろう。

 アンナは何か言いた気なジャックにそれを明かすよう催促する。

 

「あー、凄く自分勝ってなことなんだけどいいかな?」

「どうぞ?」

「僕を君たちのギルド──《蒼の双星》に入れて欲しい」

 

 ……………。

 ───え?

 

「はぁ?」

「疑問は解るよ。でも、彼を見て思ったんだ。彼のような人間が育つ、或いは所属しているギルドならば、僕は失望を抱かないで済むんじゃないのか、ってね」

「失望?」

「そうだね。僕は何度かギルドに入れてもらったことはあるけれど、実は全部抜けてしまったんだ。理由は簡単。僕に恐怖を感じてしまうらしくてね。輪を乱さないためにも居ることはできなかったんだ」

 

 恐怖?

 彼が戦っている姿を間近で見ていたが、そんなものを感じることはなかった。恐らく今までのギルドの者達は対峙するモンスターへ向けていたのではないだろうか。

 

「アディン君の反応からわかる通りだよ。君達は僕に恐怖を抱かない。僕の霊器は特殊な魔法を使えてね、それの影響が仲間にも及ぶようなんだ」

「───霊器ですって?」

「これだね」

 

 そう言ってジャックはあの黒魔導師を瞬殺した巨鎌を出現させた。

 あまり実感はなかったが、アンナやレオの驚きようを見ると相当稀少なものらしい。

 

「強さは保証するよ、アディン君も知っている通りにね。あとは《蒼の双星》の皆さんの感情次第だ」

 

 自信、余裕、臆病。

 彼は幾度となく一度は仲間となった者達に恐怖を向けられた。

 一種の孤独を感じていたに違いない。

 俺は感じなかった。

 見たところみんなも感じていない。

 彼の居場所は、ここにしかないかもしれない。

 そう思うと、自然と口は動いた。

 

「俺はジャックと一緒にやっていきたい。助けてくれたしな」

 

 すると、俺の言葉を皮切りに次々とみんなが言葉を紡ぎだした。

 

「──ぐす…、私も、アディンを助けてくれた人を助けたい…」

「ジャスミンに賛成だ。アディンの命を助けた───俺らにとっても恩人だ。彼を迎えることに異論はないかな」

「そうだな、性根が腐ってるようにも見えねぇ。上手くやっていける、とは思うな」

 

 四人の賛成、一人の懇願。

 残ったのは青髪の美女だけとなった。

 全員に顔を向けられた彼女は深いため息の後、瞑目していた瞼を持ち上げその美しいひとみを見せた。

 

「いいわよ、ここで断ったら私が悪者だもの。───歓迎するわ、ジャック。《蒼の双星》へようこそ。小人族(ピクシー)の死神?」

「───っ!?………これは一杯食わされたね…。知っていて試したわけだ」

「「「?」」」

「まあ、有名っちゃ有名だしな。『死神の如く大鎌を振るう闇の小人族(ピクシー)』、ギルドを転々としその全てを恐怖に陥れる悪魔。実際問題会ってみれば何てことないガキみたいな大人だがな」

「ガキって……、これは種族の特色だよ」

「ああ、悪い悪い」

 

 知る人ぞ知る、といった類いの人物だったようだ。

 

「とんだ茶番かよ」

「酷いな、僕はこれでも必死だっていうのに」

「ねーねー、本当に子どもじゃないの?」

「ジャスミン、彼は小人族(ピクシー)といって成人でも凡人族(ヒューマン)の子ども程までしか成長しない種族で、視力が良く手先が器用という特色も持つんだ」

「それじゃ、ジャックの能力とか聞かせてもらうわよ」

「勿論だよ。僕は───」

 

 

『皆様、今朝お集まり頂いた場所へ集合を掛けます』

 

 

「───どうやら、先にやることがあるみたいだね」

「じゃあ、行きましょうか」

「何だろうねー?」

「さぁ、多分皇帝陛下のお言葉とかじゃないか?」

「ユーリの話か、また胃が痛くなりそうだ。アンナが」

「そうね、普通にしてくれるといいんだけど……」

「朝のやつ見たところそんなこと無いと思うがな」

「ま、アディンの言う通りになるような気がするよ」

 

 互いに会話を楽しみながら、有能秘書に指定された場所へと、《蒼の双星》及び新たに加わったジャック・ヒュートはゆったりと歩いていった。

 

 

 

 

「明日、舞踏会を開きますっ!」

 

 

 

 

 元気一杯の皇帝に、波乱が起きるだろうと眉間を揉み解すアンナの姿がやけに印象に残ったのであった。

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