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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第二章 黒
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第九話 一騎討ち


「【魔球(ボール)】」

 

 対話を試みようとした俺への随分な挨拶は、魔法だった。

 

「【我が身を喰らえ】」

 

 刀に手を添えて強化魔法を発動する。

 そのまま抜き放ちながら左手を突き出し唱える。

 

「【召喚──『白鬼(ホワイトオーガ)』】」

「変な魔法を使うね、それに召喚魔法もか。危険な香り。やっぱり殺さなきゃ!」

 

 ──女?

 

 仮面を着けていて素顔は見えず、声もくぐもり、分厚いローブを身につけているため判明しなかったが、素早い動きで一瞬見えたローブの中身が女性に近い丸みを持っていたため、そう思った。

 

「黒魔導師を前にしてその余裕、随分と自信があるみたいだねぇ!」

 

 レオで慣れてるのだ。遅い斬撃に慌てるほど腐っちゃいない。

 余裕があるのは事実だが、油断はしていない。

 『黒魔導師と戦うな』という二人の言い付けは守れなかったが、注意深く観察することは怠っていないからだ。

 

「自信はないが余裕はあるな。お前の動きはレオより粗い」

「はは、馬鹿なの?」

「ぁあ?───っ!?」

 

 気づけば、背中を斬られていた。

 

「その師匠とやらはあまり君に期待してなかったみたいだね。何も教えなかったかい?」

 

 ああ、本当に馬鹿だ。

 つもりだった。

 油断してしまっていた。

 

「【我が身を喰らえ】」

 

 回復魔法は使えない。

 せめて身体能力を強化することしか俺にはできない。

 

「じゃあ死んでよ──【魔槍(ランス)】【魔斬(スラッシュ)】【魔矢(アロー)】」

 

 三連続で放たれる魔法。

 どうにか避けるも最後の【魔矢(アロー)】を肩に受けてしまう。

 

「なかなかやるね、でもこれはどうかな?──【砲撃(ブラスト)】【竜巻(ストーム)】【光線(レーザー)】【黒雨(ブラッディレイン)】」

「──っ【我が身を喰らえ】ぇ!」

 

 三重目の強化。

 しかし、向上した身体能力であっても避けきることはできなかった。

 

「──か、はっ……」

 

 魔力弾が雨のように降り注ぎ、体を滅多打ちにされる。

 吐血。

 全身打撲。

 肋の骨折。

 ざっと顧みてもそれだけの負傷を感じた。

 召喚したモンスターもいつのまにか消えていた。

 身体中が痛い。

 手に力が入らない。

 膝が崩れそうになる。

 通用しない。

 倒れる。

 勝てない。

 負ける。

 それすなわち───『死』。

 今のままなら。

 

「へっ………おたく、そんな悠長に構えてて大丈夫か……?」

「挑発のつもりかな?、そんな死に体で何をほざいてるんだい?」

 

 相手は油断している。

 俺を舐めている。

 自分が絶対的優位だと信じて疑わない。

 ならそれを利用するまでだ。

 

「いやな、俺が手の内を晒してないことに気づかないのなってな」

「手の内?」

「ああ、まさか俺が召喚と強化魔法だけでこれに参加すると思うか?」

「いや思うけど……、というより時間稼ぎかな?。それなら無駄だよ。僕は今から君を殺すからね」

 

 ははっ────掛かったな。

 

「時間稼ぎか、なら何でこっちに来ない?。何か警戒してるんじゃないか?。俺が隠してるんじゃないかと」

「もういい、黙っておきなよ」

 

 寒い……毒でも塗ってあったのだろうか。

 

「俺は一回も魔法を使ってないよなぁ?。おかしくないか?。召喚が使えて魔法が使えないわけないよなぁ?。それに気づいてるんだろ?、俺の刀の力に」

「黙れ、黙れ!。死ねっ!」

 

 よかった、沸点の低い奴だったらしい。

 激昂して大振りでこちらに迫ってきた。

 

「【我が身を喰らえ】」

 

 四重の強化。

 油断、止め、怒り。

 全て視野が狭くなる要因だ。

 だから気づけない。

 背後から迫る俺の仲間に。

 

「──がっ……」

「【我が身を喰らえ】【我が身を喰らえ】──」

 

 追加で唱えることその数──五。

 初めて行う三を超える重複強化に、多大な負担が身体を襲う。

 だが、代償を払った見返りは大きかった。

 

「──はっ!」

 

 一瞬で加速し肉薄。

 黒魔導師を袈裟に斬りつけ抜き去る。

 背後に置き去りにした黒魔導師はドサリと音を立てて崩れ落ちた。

 

「──はぁ……」

 

 強化を解き、大きく息を吐く。

 ホルスターから二本の試験官を具現し、片方は飲み干し、もう片方は背中に撒いた。

 

「──っ…」

 

 傷口に染み込んだ薬液が軽い痛みを引き起こす。

 ただそれが効いている証拠だと確認すると共に、使用した試験官をホルスターに戻した。

 せめて自分が殺した相手の姿を見ようと、振り返った。

 

「なっ…」

 

 しかし、そこに死体はない。

 

「僕をお探し?」

 

 ───無傷。

 あり得ない。

 致命傷だ。

 いや、確実に心臓ごと斬ったはずだ。

 何故。

 いや、どうやって?

 

「怪訝な顔してるね~。流石に僕も驚いたよ。だから、本気を出そうと思うんだ。ごめんね?」

 

 木々がざわめいている。

 自分には魔力探知及び魔力感知ができない。

 けれども、分かる。

 今は奴の魔力は周囲に影響を及ぼすほど高まっているのだと。

 

「じゃあ、今度こそ死んでね?」

 

 三年前のあの時より、濃厚な『死の気配』が俺を蝕んでいた。

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