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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第二章 黒
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第八話 頭と炎と闇


 私は今重要な責務を真っ当している。

 『黒の軍』討伐の隊長である。

 続々と自分の元に来る者達に指示を出していた。

 今丁度送り出した者達で、今回集まった全体の六割となる。

 たった一人に全てやらせるという明らかに過剰な責任だ。上手くやる自信はあるが、失敗をしないという確信はない。

 だがそれでも、やり遂げられると考えている。

 

「ミリア・リード、『タルマリ森林』周辺の動きに違和感を覚えます。増員してください」

「お前らは森に行け、異常があれば一人だけこちらに報告しろ」

 

 この隣で指示を出すエレン・コークの存在が、私に不安に陥らせない要因だろう。

 私は正直、こいつが全てやればいいと思っている。

 読みが的確過ぎるのだ。

 言葉通りに向かわせると、目に見えて軍の動きが向上する。

 普段から皇帝や 《カイズ》の団長の相手をしていればこうなるものなのだろうか。

 『良妻一歩』──妻が良妻であるかはたった一歩で変化する──という言葉があるが、『テミス』は異常だ。恐らく彼女の婚約者は必ず成功を勝ち得るだろう。というか、帝都が何らかの大事件に巻き込まれたとき真っ先にエレン・コークを疑うほど、黒幕が似合い過ぎている。

 

「お前は何で表に出ようとしないんだ?」

「はぁ?、外に出て来ていますが?」

 

 本気で意味不明なことを言われたと言わんばかりの表情を向けられた。

 

「表舞台だ、出世の欲は無いのか」

「出世ならしてるではないですか」

「…………確か皇帝直々にスカウトされたらしいな」

「はい、庶民の私めには到底あり得ないお誘いでした」

「あの『化物』───っ!?」

「あの方をその名で呼ぶことはお辞めください。少なくとも私の前では」

 

 反応はできた。

 向けられた剣先を瞬時に弾く。

 常時冷たい瞳は今、瞋恚の炎を宿していた。

 これで少なくともわかったことがある。

 こいつは、この女は、崇拝しているのだと。

 

 (だからこそ激務を耐えられるのだろうな…)

 

 殺し合いにならないことを分かっているためか、私が思ったのは他愛ないことだった。

 

「すまなかった、訂正しよう。あの『頂点』の目に止まったのだ、『テミス』がどれほど優秀か判るな」

「そうですね、陛下に選んで頂きました。その恩と期待に答えるためにも努力していますが、まだまだです」

 

 はっきり言って、これ以上仕事をすれば『テミス』は死ぬ。

 私ならばその前に倒れてしまっている。

 

「身体は壊さないようにな…」

「大丈夫です。陛下の御手を煩わせることになりますが、大体は治してくださるので」

「それが駄目だと言ってるのだ!?」

「はぁ…?」

 

 ああこれは手遅れだ。

 もう気にすることは止めよう。

 精々気を失うぐらいで済むといいな。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「バーナレクさん!」

「おうよ、スカーレットちゃん!」

 

「「【小太陽(ヴォルケーノバースト)】」」

 

 二人の魔法が重複し、集束する炎が球体となってその熱波を解放した。

 辺りに渦巻いていたモンスターの大群を一瞬にして焼き払う。

 同時に魔法を行使した男女は互いに顔を見合せ笑みを浮かべた。

 

「ナイスだぜ、スカーレットちゃん!」

「いえ、グレンさんもなかなかの魔法でした」

 

 両者炎を扱う者。

 軽々と特大魔法を使って見せた二人にそれぞれの団員が拍手を送る。

 

「団長達すげえよなぁ」

「スカーレットちゃん…」

「スカーレットちゃん…」

「スカーレットちゃん…」

「スカーレットちゃん…」

「スカーレットちゃん…」

「いやっ、お前らキモいなっ!?」

 

 何を隠そう。

 ギルド 《焔の旋風》は別名 《スカーレットファンクラブ》である。

 加入条件は炎魔力だが、もう一つはスカーレットを応援する者であるということ。どちらかを満たせばいいため炎魔力の者が多いが、実は結束力においてはファンクラブの方が強いのだった。

 

「まあ、『炎華』が戦ってる間は使い物にならないな。それより団長、きな臭いぞ」

「臭いか!?、消臭剤は持ってきていないぞっ。スカーレットちゃん、不快な思いをさせてしまったな。すまんっ!」

「多分、この臭いじゃないと……」

「団長、素晴らしい炎でした!。むさ苦しいこいつらがいるのは納得できませんが、これなら早く終わりそうです」

「こら、そういうこと言わないの」

「はいっ団長!」

 

 因みに、スカーレットが団長を努める《花憐の騎士》は全員が容姿端麗だが、団員の多くがスカーレット好きに変化してしまい、実質 《スカーレットファンクラブ》加入状態となっているのだ。

 二つのギルドがてんやわんやと騒いでいると、幹部では唯一正常な副団長がひきつった表情で遠方を見ながら口を開いた。

 

「おいおい団長、遊んでる暇、ないかもしれんぞ……?」

「あぁ?───全員配置につけ」

「皆さん、構えてくださいっ!」

『了解っっ!!』

 

 先程までは犬猿の仲といったような二ギルドは、示し合わせたかのように声が揃った。

 

「こりゃあ荒れるぞ」

 

 強い眼差しを副団長と同じ方へ向けるグレンの視界には、膨大な数のモンスターの大群が押し寄せる光景があった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「ふははははははははは、さぁ!、解き放て!──【爆ぜろ、失せろ、消えろ、潰えよ、滅せよ、滅べよ】!」

『【我の炎に身を焼かれ汝の魂解放せよ】!』

『【美なる我が闇に抱かれ深刻を呼び給え】!』

『【甘言を受け入れ惨憺たる悲劇を召喚せよ】!』

『【今ここに覚醒せよ】!』

『【来たれ暗黒絶滅翔煌】!』

 

 

『【恚靡鏤】っ!!』

 

 

 団長の起点を合図に団員が同時に詠唱を開始する。

 ギルド《暗黒魔導団恚靡鏤》に伝わる最強の儀式魔法。個々の魔力に関わらず詠唱に参加した人数によって威力や範囲が変動する極大魔法。

 それを全団員によって彼らは行った。

 その影響は凄まじく、円形に並んで唱えていた彼らの前にいた全てのモンスターが消し飛んでいた。

 

「我らの(かいな)に抱かれし怪物共、汝らの御魂に祝福があらんことを」

「鎮魂の唄、しかと聞き届けよ」

「明星の訪れに救いを求めよ」

「怨むなら、汝を呪うがよい」

 

『我ら 《暗黒魔導団恚靡鏤》、ここに創を遺さん』

 

 彼ら以外の防衛軍は奇々怪々な《恚靡鏤》の様子にそそくさと待避していたのであった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「あー、マジ?」

 

 気づけば、辺りには誰もいなかった。

 こんなことが前にもあった気がする。

 いや、誤魔化すのは止そう。

 忘れもしない、エリスさんに助けてもらい、俺が決意を固めたあの日だ。

 戦闘中なら方向なんて簡単に把握できるのだが、どうも方向感覚が弱いらしい。

 我ながら情けない。

 あと、状況が酷似しているため、何かに巻き込まれると半ば確信している。確かに防衛軍に参加している時点で巻き込まれに行ってはいるのだが、多分、黒魔導師と遭遇するのだろう。

 警戒を怠らないようにしなければ。

 

 

 ───ヒュン───

 

 

 先刻の自分を褒めてやりたい。

 

「ありゃ、外れちゃったか」

 

 右に顔を向けると、黒の装束に身を包んだ如何にも怪しげな存在がそこにはいた。

 

「まあ、どっちにしろ殺すからいいけど」

 

 さて、どうにも言いつけを守れなくなってしまった。

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