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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第二章 黒
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第三話 示される意志


 議会に召集され、『黒の軍』の出現を伝えられたアンナはギルドに帰り、事の経緯をレオ達に話した。

 

「ということなの」

「また奴らが来るのか…」

 

 相貌を歪ませるレオと嫌悪を隠さないアンナ、それを二人は暗い表情で見つめていた。

 全員、経験があるためだ。

 四年前、全く想定もしていない状態の世界に大規模の『黒の軍』の進軍があり、これにより甚大な被害を人類は受けた。

 アディンのみが首を傾げている。

 

「前は私達は防衛軍に参加してなかったけれど、今回はそうはいかないの、レオ」

「わかってる。だが問題は……」

「私、行くよ」

 

 決然とした眼差しでジャスミンがレオとアンナを見つめる。

 

「俺も行くよ、我慢ならないしね」

 

 カイトも彼女に続いて二人に笑いかける。

 

「話は聞いた、俺も行く。ここでやらなきゃ何のために強くなろうとしてんだか」

 

 記憶の無いアディンはその襲撃を知らない、が、彼は努力をしてきた意味がないと強い口調で言った。

 

「お前ら…」

 

 三人の成長した姿に、レオは唇を引き締めた。

 しかしそこに、口を挟んだのはアンナだった。

 

「貴方達、意味分かって言ってるのかしら?」

「おいアンナ…」

「本当はわかってるはずよ、足手まとい、役立たず、死ぬって」

 

 その言葉に、三人は俯きレオは目を見張ってアンナを睨んだ。

 アンナは身の程を知れと言っているのだ。『黒』の恐ろしさを見に染みて知っているからこそ言える言葉だった。一瞥されて口を閉ざしたレオも同じく『黒』の悪辣さを知る一人だ。

 

「意地悪で言ってるんじゃないの、貴方達にあいつらの相手は務まらないって言ってるだけ」

 

 辛辣に、突き放すように、厳しい言葉を吐くアンナ。彼女は軽々しく『黒』に対峙すると言った三人を冷めた目で見据えている。まるで失望するかのように。

 

「それは……」

「ほら、答えられないじゃない。貴方達はここに残りなさい。私達大人が片をつけてくるから。レオからも言ってやりなさい」

「……………お前ら…は、……ここにいろ」

 

 自分の甘さを悟った彼は奥歯を噛み締めて視線を下げた。

 

「返事は?」

「……………」

「だんまりね、いいわ。レオ、明日の準備するわ──」

 

 

「アンナっっ!!」

 

 

 腰を上げ、居間から立ち去ろうとしたアンナ。その背に声をぶつけたのはアディンだった。

 

「俺は……俺達は、二人に比べたら弱いかもしれない。でも!、俺らは努力してきた、みんな想いがあるんだ!。二人の過去なんて知らない、ジャスミンとカイトの過去だって知らない。でも、だからこそ、俺は自分が見てきた仲間を信じられる!」

 

 眦を吊り上げ、口を大きく開き、想いを叫ぶ。

 

「そうだよ、俺達は二人のいないところでも鍛練は欠かさずやってきた。何より二人に教えてもらってたんだ、そこらの冒険者より十二分に強いはずだよ。それだけは、俺は自信をもって言えるよ」

 

 何も考え無しに口走ったことではない、意思をもって行くのだと。

 

「私達は歩いてきた。二人に教えられた通りに、二人の期待に答えようと、二人の予想を越えようと!。裏切らないよ、絶対に。二人に心配なんて掛けない。自分達で出来るんだからっ!」

 

 二人を信じている。仲間を信じている。自分達は二人の隣に並ぶ資格があると。

 胸の内を吐露した三人は、有無を言わせない眼差しをアンナに向けた。

  

「………覚悟はできてるのよね?」

「勿論だよ」

「お話の戦いじゃない、戦争よ?」

「そんなのわかってる」

「あんな屑共に殺されるかもしれないのに?」

「ないな、俺達は絶対に勝つ。そんなの二人の方がわかってるはずだ」

 

 断固として譲らない、そんな意思を示す。

 それを認めたアンナは三人の顔を見回し、一度も変わることのなかった相貌に笑みを浮かべて言った。

 

「わかったわ………」

「それじゃっ」

「ごめんなさいね、試して。元から一緒に行くつもりはあったんだけど、反応見てから決めようってね?。レオには悪いことしたわね、ふふっ……」

「なっ!?───お前ぇ!」

「──ふふっ、──あははははははっっ!!」

 

 どれだけ滑稽なことをしていたのか、それがわからないほどレオは馬鹿ではない。すぐに虚仮にされたのだと理解した彼は羞恥と怒りに顔を真っ赤にさせ、アンナを睨み付ける。

 

「そんな顔したって無駄よ、ほら、三人とも固まってるじゃない!。ほらみんな、笑って笑って!」

 

 手の平の上で転がされたのだと完全に悟った四人。悪ふざけではないとしてもやはり許せるものではなく、このとき、四人全員の想いが一つになった。

 

 

『ふざけんなっ!!』

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「────ふぅ、笑った笑った、久しぶりに腹抱えて笑ったわー」

「コイツっ…」

「まあそれは良いとして、持ってく魔道具の説明はしとかないといけないわね」

 

 「魔道具?」と首を傾げるジャスミン、対してカイトはポンと手の平を拳で叩いた。そうしている内に、一つのベルト型小鞄(ポーチ)を持って来て、アンナは三人の前に座った。

 

「これが六次元鞄(ヘキサホルスター)、それでこの紫のが薄闇の外套(ノワールマント)、緑の試験管が回復薬(ポーション)、青の試験管が蓄積薬(マナチャージ)六次元鞄(ヘキサホルスター)には六個物が入れられるから、外套、回復薬(ポーション)が四本、蓄積薬(マナチャージ)を一本だけ収納しておくわ。明日これを一人一つずつ渡すけど、蓄積薬(マナチャージ)は高いから使うのは慎重にしなさいよ?」

「マナチャージ…」

 

 その価値を、カイトだけがわかっていた。

 

「伝が、あるのか…?」

 

 蓄積薬(マナチャージ)。それは消費したマナ、いや、それを超過しても回復することができる特別な薬。副作用もなく、一流の冒険者なら一本は必ず確保している代物である。

 つまり、とてつもなく高価なのだ。

 はっきり言って五本も用意できることがおかしい。もしそれを可能とするなら、製作者と繋がりがあるとしか説明できないとカイトは考えた。

 

「お兄ちゃんよ」

「なるほどね…」

 

 アンナの兄──皇帝ユーリ・ハリス。世襲制ではなく、現皇帝が次の皇帝を選ぶ仕組みになっていてる。故にユーリの名は変わることはなかった。

 皇帝が製作者なら納得、とカイトは頷いた。

 どんな歴戦の剣士も、どれだけ修羅場をくぐった者でも、天才と謳われる魔導師だとしても、現皇帝の名を聞けば全員が『化物』と称すほどの桁違いな実力の持ち主。

 故に彼の二つ名は『頂点』。

 最も強いのではなく、その事柄を極めた王でもなく、何者かの名を冠することもない。正真正銘の頂き。対峙する者などいない『絶対』。

 

「アンナの兄ってつまり皇帝だろ?、そんなもの作れるのな」

「へぇー、アンナのお兄ちゃん凄いのね」

「あのな、蓄積薬(マナチャージ)ってのはそんな簡単なものじゃないんだ。人それぞれ魔力も違えばマナも違う。それを回復させるっていうのは、万人のマナに適応するように作られてるってことだぞ?」

 

 カイトの懇切丁寧な説明により、アディンとジャスミンの顔色が変わった。

 

「飲んでいい!?」

「だから馬鹿高いって言ってるだろ!?」

「あー、実は俺も飲んでみたい」

「いやだから──」

「はいそこまで、無駄遣いしたら承知しないわよ?」

 

 笑顔。ただし目の奥が笑っていない。

 二人はブルリと身を震わせ、それぞれ謝罪の言葉を述べた。

 

「魔道具は良いとしてだ、明日の行程をもう一回確認しとくぞ」

 

 アンナが議会から持ち帰ってきた冊子。その詳細は今回の防衛軍、討伐軍、迎撃軍と色々と呼び名があるがここでは防衛軍として、その全参加者に対する行程の明示だった。

 まず、北門に停めてある馬車に乗り『タルマリ』へ向かう。

 そこで一泊明かし翌日皇帝挨拶の後に防衛軍始動。

 討伐を終えると『タルマリ』の大会館で自由参加の舞踏会を行い料理のもてなしを受ける。

 報酬は皇帝挨拶にて伝達。

 軍隊長はミリア・リード。

 部隊長は《イカヅチ》幹部が勤め、その他ギルド及び参加者は従うこと。

 討伐が終了次第部隊長の指示に従い『タルマリ』へ帰還。

 安否確認の後に係員先導のもと大会館へ移動、舞踏会を行い祝勝会を開始する。

 翌日、皇帝の定めた報酬の授与を行う。

 

「よし、理解したな?。じゃあこれで終わりだ。もう遅い、さっさと寝て明日以降に備えるように」

「私達は夜更かしの責任までは取れないわよ?」

 

 からかい混じりのその言葉に三人はコクリと頷き、彼らはそれぞれの自室へと足を向けた。

 

「「「おやすみ」」」

「ああ、しっかり寝ろよ」

「体調不良は聞かないわよ」

 

 こうして、アディン達三人は黒の軍との戦争に参加することとなった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「本当に、よかったのかしら」

 

 人気の少なくなった居間に、ポツリと呟きが落とされる。

 

「あんだけ啖呵切ったんだ、相応の覚悟はできてるんだろうよ」

 

 レオの脳裏に想起されるのは、二人の前で自分の意思を語った三人の相貌。それはどれも一人の人間として一人前と言っても過言ではないほど決意に彩られていた。

 あの顔を同じ歳の自分もしていたな、と懐かしさに笑みを浮かべる。

 

「ニヤニヤして、気持ち悪いわよ?」

「うるせぇ、お前だってらしくもない心配してるじゃねぇか」

「何よ、煩いわね」

 

 アンナは昔日に思考を飛ばした。

 アディンとジャスミン、どちらも身寄りの無い子どもだった彼らは、自分達のギルドに入ってから見違えるように感情を見せていった。親も兄も、家族が存命している自分には二人の心境など理解できない。軽々しく『解る』など口が裂けても言えない。

 二人はもう大人に近い。

 あの歳の自分が、決然とした顔を、意志をもって言葉にすることができていただろうか。

 

「アンナ」

「何よ…」

 

 思考に耽っていたアンナの肩をレオが軽く掴み、彼女の顔を自分へと向けた。

 

「信じてやろうぜ?」

「───っ、勿論よ。じゃないと一緒に来させないわ」

「それならいいが。………自分と比べるな、置かれた環境が違うんだ」

「別に自虐は考えてないわ。成長が早いって思ってただけよ」

 

 お節介をやきたがる性格でもない筈なのに、ここ三年で面倒見のいいお兄さんになってしまっているレオである。

 

「でもまあ問題なのは…」

「ええ、『黒』を甘く見てるかどうかよ」

 

 一抹の不安が過る二人は、明日に絶対話しておかなければならないと思うのだった。

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