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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第二章 黒
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第二話 帝都緊急議会


「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

 男は荒れる息を止められないでいた。

 それは疲れからではなく、許容しえない恐怖によるものだ。

 原因はたった一つ。

 背後から追いかけてくる怪物の存在である。

 一瞬見ることができたその姿は忌々しく、黒い体躯に複数の触手を生やした狼のような形であった。

 自分は商人だ。

 共にいた他の者達は既に食われ、残ったのは商売道具の一頭の馬だけ。

 馬も恐れを感じているのか、いつもとは比べ物にならない速度で駆けている。たが、既に体力の限界が過ぎていることは自分にはわかっていた。

 自分を救うためか、馬自身が助かるためかは知らないが、今は大いに命を長引かせている。

 森を抜ければ、奴らは追ってこないはずだ。

 自分で走ってもいないのに大粒の汗を垂らす。

 ───見えた!

 光だ。

 町の光だ!

 

「バードゥン、行くぞぉぉぉぉぉっっっ!!!!」

 

 彼も力強い嘶きを返してくれた。

 自分達なら、やれる!

 

「【風よ、我が意に従え】──【ガスト】ぉっ!」

 

 自分達の背後から突風が吹き荒れる。

 追い風に押されたバードゥンは加速し、そのままの速度で町の門を飛び越えた。

 

「助けてくれっ!、いや、伝えてくれ!」

 

 

 

「黒の軍が来るっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁ………」

「またため息か、今度はどうしたんだ?」

「召集…」

「ドンマイ…」

 

 召集とは、帝都の議会に呼び出されることである。

 年に一、二回あるものだが、毎回毎回小言が多く億劫になってしまうのだ。

 

「カイト行ってきてくれない?」

「俺が?、呼ばれたのはアンナなんだからちゃんと行かないと」

 

 私の隣で苦笑するのはカイト、黒い髪に黒い瞳という珍しい容貌の少年だ。

 彼がここ《蒼の双星》に訪れてから三年、一四歳になった彼は成長し、今では私の目線ぐらいの背になっている。今は座っているけれど。

 

「私も一緒に行っていいの?」

「いや、それは駄目だろジャスミン」

 

 まだ知能が遅れているのか、そんな能天気なことをいう彼女の変化がこの三年で大きかった。

 一切手入れされてなかった長い癖のある髪は理髪店で肩ほどで切り揃えられ、薄汚れた野生児から活発な美少女へと昇格していた。

 

「アンナのことだ、どうせどうでもいいことなんだろ」

「どうでもよくないわよ…」

 

 どうでもよければため息までついて嫌がりません。

 私を苛つかせたこの男がアディン。一三歳になった彼が一番内面で変化があっただろう。三人の中でも強さに貪欲に、私たちに食らいついてくるようになった。持ち前の戦闘センスというものが発覚したあとはそれがより顕著になっていた。

 二人も特色があり今《蒼の双星》はかなりバランスのいい構成になっている。

 私が魔法による火力担当。

 カイトが遠隔で動かすことができる武器で前衛を援護。

 レオが大剣でバッタバッタとモンスターを倒し、ジャスミンが速さと身軽さを活かして遊撃。

 アディンが召喚を用いた連携で私たちの穴を塞ぐ。

 相当な完成度である。

 

「そろそろ鐘が鳴るわね、行ってくるわ」

 

 都内で流石に【付与(エンチャント)】を使うわけにもいかないため、正午を告げる鐘に合わせて行こうと思ったのだ。

 三人に見送られ、私はギルドを後にした。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「それは事実ですかっ!?」

 

 一人の女性が勢いよく立ち上がり、椅子を倒れさせながら叫んだ。

 彼女はレットちゃんことスカーレット・クライス、ギルド《花憐の騎士》の団長である。そんな彼女が声を荒らげたのは、突如召集を掛けて開かれた議会にあった。

 議会とは、帝都の中枢人物が集まり今後の方針を決めたり重要な報告と意見交換の場だ。

 そして、今回の議会は緊急召集であった。召集が掛かったのは朝、アンナも早朝に起こされて不機嫌なままここに来ていた。

 

「──はい。今朝、ある商人の方が帝都の北西方面にある『タルマリ』で"「黒の軍が来る」"と言ったと確認が取れています。事実関係も破綻しておらず、狂言ではないと判断しました」

 

 その商人とやらは仲間を皆殺しにされたらしい。

 特に驚くことはない。

 黒の軍、つまり黒に属する者が攻めてくるというのはそういう次元の話なのだから。

 

「……規模は?」

「はい。この場にいるギルドの構成員で対処できるほどと推測しています」

「お兄ちゃんは?」

 

 議会長がレットちゃんの質問に答えていたところに私は口を割り込ませると、全員がこちらに視線を向けてきた。

 

「《蒼の双星》のアンナ・ハリス、陛下の妹様ですね。陛下は南の軍勢を相手します。私達は先程述べた北西の相手です」

「そう」

 

 なら南は安全だろう。

 私達で対処できる、というのは一部分だけの話だ。流石にお兄ちゃんでも帝都を一人で守りきることは出来なくないかもしれないが、負担が大きすぎる。消耗したところを敵に狙われればお兄ちゃんはともかく周りの人間が被害に遭うだろう。

 

「今回指揮は《イカヅチ》団長ミリア・リードにお任せします。前回の指揮を担当してくださった方はもう居りませんので」

 

 議会長と言ってはいるが彼女はお兄ちゃん──皇帝直属ギルド《カイザー》の副団長エレン・コークだ。皇帝の右腕の座を欲しいままにしている。いや、言い方が悪い。誰もが認める凄腕秘書ってこと。

 

「私達《花憐の騎士》は全力で殲滅に当たります。どうぞお申し付けください、ミリア・リード」

 

 レットちゃんはファンクラブがあるほどの人気があり、誠実で清楚で少しドジっぽいところが胸に来るとのこと。わからなくもない。事実、《焔の旋風》団長グレン・バーナレクは雄叫びを上げて拍手している。彼はファンクラブのオーナーである。

 

「静粛に。クライス、私も出来うる以上の働きをしよう」

「グレン・バーナレクは煩いですね、摘まみ出されたいのですか?」

「いえ!、すみませんでしたっ!」

「では話を続けます。《イカヅチ》の幹部には部隊長をやってもらいます。防衛軍の配置はミリア・リードがやるように。皆様は団員に《イカヅチ》の指示に従うようにお伝えください。出発は明日です。議会はこれにて閉会します。詳しい内容は『タルマリ』にて決定してください」

 

 恐らくどれだけの参加があるか判明していないための処置だろう。

 帰りしなに渡された冊子には色々と書いてあった。

 皇帝の配置、参加ギルド、『タルマリ』での行程等々。

 以前は参加しなかった《蒼の双星》に求められている役割はないか、私は歩きながら思考を巡らせるのであった。

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