罪…?
「ああ!教えてやるよ!!!この国が如何に腐っているかをな!!」
侍女が自らの髪をぐしゃぐしゃにしながら、ただこちらを見つめています。僕を見ているのか、僕の腕の中にいるルチアさんを見ているのかまではわかりませんでしたが。
「この国の…前の国王はとんだ愚王だった!女を侍らせ贅の限りを尽くすクズだった!!」
「そうだ!そのせいで俺の妹は…!」
「私の兄だって!!」
「治安が悪くなったせいで、暴漢に哀れな姿にされた奴らがどれほどいたか!!!」
侍女に続き、そうだそうだと声があがっています。事情は違えど、少なくともこの国への恨みは本物のようですね。
「私の両親もだ!!愚王の重税に耐えかね、私を残して首をつった!!!」
侍女はナイフを、そしてルチアさんと僕を睨みつけながら涙を流しています。大樹の王国の問題…そうか……。
「『大樹の悪夢』ですか?」
「さすがに他国の者でも知っているか」
『大樹の悪夢』。今からおよそ七年ほど前、大樹の王国の王族…その大半が国民の反乱により命を落とすというおぞましい…内戦が起きました。
僕もそこまで詳しいことを知っているわけではありませんが、どうやら先代国王は好色家であり現代には珍しくたくさんの側室を娶っていたそうです。そして国民には重税を課し、他国から見ればありえないくらいの貧富の差が生まれていたとか。
内戦は大体三年ほど前にようやく終結した、と報道されました。現在は、先代国王の長男が国王に即位し、唯一生き残った王弟やわずかな分家と共に切り盛りしている…とのことです。
直接的な原因が何かまではわかっていませんが、積もりに積もった国民の怒りが事件につながったのではないか…と言われています。大樹の王国が公式に発表したわけではないので実際のところはわかりませんが。
「王弟ルキウスはその生き残りだ!大人しく死んでおけばよかったものを、忌々しくも子を為した愚か者め!!」
それは、ルチアさんのことでしょうか。腕の中にいる彼女を抱きしめる力が、つい強くなってしまうのがわかります。でも、侍女を見ていなければ殺されそうなので、ルチアさんの表情はわかりません。
「この国の王族は滅ぶべきなんだ!!そうでなければいけないんだ!!!私の両親を死なせた王族を!!私は絶対に許さない!!!」
侍女は再びナイフを向けてきました。ジリジリとにじり寄ってくるたびに一歩後退りますが、お仲間の兵士や侍女に道を塞がれます。
「奴らのせいで何人の罪なき民が死んだと思っている!?ソイツを庇うなら、貴様も加担したとみなすぞ!!」
「落ち着け。そこまでしなくても、彼が『大樹の悪夢』を知っているなら王弟女を引き渡すだろう」
ナイフを見せたままにじり寄ってくる侍女に対して、兵士が落ち着かせるような言葉をかけています。あの、勝手に決めないでもらえませんか?
罪…確かに、そこまでの暴動が起きて尚この国が他国から滅ぼされていないのは、許されざる圧政があった何よりの証拠だ。
罪…そうだろうか?僕のコートを強く掴む小さな手が、今さら腕に感じる小さな全身の震えが、それでいて泣き叫ぶことすらしない小さな小さな子どもが。他でもない彼女の体温が、僕を正気に戻してくれた。
「そうですか」
「そうだ!だから早く…」
「それなら教えてください」
これが最後のチャンスだろう。僕は静かに深呼吸をし、侍女と目を合わせた。ルチアさんを、怖がらせないように。
「彼女の罪を教えてくださいよ。具体的にお願いしますね」
罪は、誰のものでしょうか?




