絶体絶命…?
「ソイツを渡せ!!」
「嫌です!!」
血走った目の侍女が僕の髪を根本から掴んだままガツガツと揺さぶってきます。わけもわからないまま、僕はルチアさんがナイフに当たらないように強く抱きしめ続けています。
攻撃してくる侍女の他に二人の侍女、三人の兵士に囲まれた状態。この人数から今逃げることは不可能でしょう。
「今ソイツを渡せば、貴様の命だけは見逃してやる!!」
「お、おい!狙いはこの国の王族だけだって話だろ!?」
兵士が止めに入るようなことを話しています…?侍女は全く止まりませんが。髪が痛いです。それに血走った目をした侍女とは違い、兵士は意外と落ち着いています。
ん?なんか話が噛み合っていらっしゃらない?敵同士が団結しきっていないなら、もしかしたらチャンスがあるかもしれません!
「何が目的ですか?」
「貴様には関係ないだろう!!さっさと渡せ!!!」
「お断りします!!」
僕がそう言うやいなや、ナイフの切っ先はルチアさんから僕へと向きました。僕はこの隙を狙って、ルチアさんを腕の中に覆い隠しました。
「私は本気だぞ?」
「こちらも本気ですよ」
目をかっぴらいた状態の侍女と向かい合い、決して目をそらしません。彼女がルチアさんではなく僕を狙った状態ならば、仲間割れをする可能性があります。今はとにかく時間を稼がなければいけませんので。
「何?」
「僕たちは王命で決められた見合いをしているのです。つまり、彼女は将来僕の妻になる可能性のある女性。貴女ごときに簡単に渡せるわけがありません」
侍女がナイフを近づけた状態で僕を睨みつけています。
僕だって、僕だってこんなこと言いたくありませんよ!僕は破談にしたいんですから!!何が悲しくて三歳児との見合いに乗り気なヤバ男演じなきゃいけないんですか!!!
「ふざけるな!!」
「ふざけているのはどちらですか。一介の侍女に何の権限があると?王家に仕える者であるならば、礼儀を弁えなさい」
興奮した侍女が、ナイフを首元から顔に移動させました。このときに頬に当たった感覚があります。確認できる余裕はありませんが。
声が今にも震えてしまいそうなのが自分でもわかります。一瞬でも気を抜けば気絶しそうです。それでも、僕はルチアさんを離すわけにはいきません。
「え、妻?」
「この男、本気ですか…?」
おいそこヒソヒソするな!真面目なトーンで引くな!!そんな暇があるならお仲間止めてくださいよ!!!
そんな心の叫びが届いたのか何なのかわかりませんが、侍女が僕の髪を掴んでいた方の手で殴ってきました。思い切りのよかったそれによって僕の体勢こそ崩れましたが、その拍子でナイフを持った彼女から離れることができました。
ルチアさんはしっかり抱えたままなのできっとお怪我はないはずです。今は確認する時間すら惜しいから。
「この国の王族は、皆滅ばなければいけないのだ!!邪魔をするな!!!」
「……どういうことですか?」
突然の叫びに浮かぶのは疑問符ばかりです。仇かのように睨みつけてくる侍女に合わせ、僕も睨むような視線を返すことしかできませんでした。
地の文で兵士、侍女と呼び捨てにしているのが暗殺者たちです。敵じゃない兵士や侍女は「兵士の方々」「侍女さん」など何らかの敬称をつけています。




