第21話 父との対決
「えー、領主家における薬品保存法、領主であるカプリコルン侯爵はご存知だとは思うのですがね。確認させていただきますよ。現在、危険であり貴重品扱いをされている重要薬品を、きちんと把握しておりますかな?」
法律官のネゴティムがそう言うと、父は顔色を悪くしてうなずいた。
「も、もちろんだ。ちゃんと把握している」
「そうですか、それは大変よろしいですな。では、薬品の管理簿と、薬品庫を見せていただきましょう」
「見せる必要ない! なぜ他領の者にうちの帳簿やらを見せなければならないのだ! たとえカプリコルン公爵閣下の遣いであっても、他領のことに口出し無用だ!」
「ハハハ、わたくしめが来ると都合の悪い方々は、みなさま同じことを言いますな。悪いことをしていなければ、何を見られても困らないはずなんですよ」
「——父上。見せられないと言うことは、ちゃんと保管されてないのではないですか?」
「している! なまいきだぞアレクのニセモノめ! 父上だなどと呼ぶな!」
ニセモノ呼ばわりされた兄は、一瞬眉毛をぴくりと動かしたが、顔色を変えなかった。
「そうですか。そちらは私の父ではないらしい。法律官殿、どうぞ法に従って裁いていただきたい」
「なっ…………!」
「かしこまりまして。では存分に」
バイソン獣人のネゴティムは恭しく一礼すると、シャツの袖を少し上げて手首につけているバングルを見せた。
するとバングルは虹色の光を放ち、リーマニア大陸紋章を空に描いた。
「そうそう、申し遅れました。カプリコルン公爵から遣わされてはおりますが、わたくし、リーマニア大陸法律官のネゴティム・オーロックと申します。他領の見届け人がふたり以上いれば、帳簿、保管庫を確認できる権限があるんですな」
大陸法律官になるには身元調査が厳しく行われる。由緒正しい血筋じゃないとなれない官職なのだ。
ネゴティムはバイソン獣人。バイソンは名門オーロック公爵領の保護獣。公爵家の正しい血縁の方ということである。
「そして私が見届け人であるカプリコルン政務官、レークス・カプリコルンです」
レークスも公爵家の者だった。
だというのに、父はここまできても足掻くらしい。
「くっ……大陸法律官だと……? いや、見届け人がひとりではダメだったよな! 見せられないから帰れ!」
なんということだ。
護衛の一番偉そうな人がライオン獣人だと気づいてないのだろうか。
バイソン獣人以上の人が出てきちゃうよ……。
と思っていたら、なんと貴公子が前に出てきた。
「リステアード・ミッテ・ドラーフだ。竜王家の第四子だよ。僕が見届け人になろう」
「なぜ……! リステアード様、そのような他領の者に味方するのであれば、我が家との婚姻は許可できませんが?」
————え。待って。
竜王家の第四王子って…………?
ええ⁉︎ リステアードって、殿下⁉︎
貴公子っていうか、王子様なのか⁉︎
びっくりして呆然と見ていたけど、父の我が家との婚姻という言葉で我に帰った。
スィリリヤとの婚姻の話が進んでいたのか。でももう無理だろうな……。
「見届け人になることが、罪になるって? まぁ、見届けてからだね。ライノアも僕の従兄だから王の甥にあたるよ。見届け人の数は十分じゃない?」
「ええ、そうですな。殿下、お骨折りいただきありがとうございます」
鷹揚にうなずく姿は王子殿下に見える。
なんとオコジョを勝手に触ったり構いたがるのが、竜人でしかも王家の者とはね……。
「さぁ、帳簿と保管庫を見せていただきますぞ」
観念した父は、いつも首から下げている侯爵家の紋章付きの大きなロケットを開けた。
その中からは、小ぶりな鍵がひとつ出てきたのであった。
検められた保管簿には獣化固定薬の入荷日が書かれいた。今年の日付だ。
そして鍵を開けられた薬品庫には獣化固定薬と書かれたビンが入っていた。
「……ふむ。獣化固定薬はちゃんとあるようですな」
「もちろんだ。いらぬ疑いをかけられて大変不愉快だ。この償いは誰がしてくれるのだろうか?」
不備がなかったとわかった途端、父は偉そうな態度になった。
こうも態度が変わるということは、中身をまったく把握していなかったのだろう。
どうなっているかわからないから、中を見せたくなかったのだ。
「正しい手続きを踏んだ検めは、法律で認められたものですよ。従って当然のことに文句を言われましてもね」
ネゴティムは薬品庫に入っている蓋付きの瓶を覗き込んだ。
「おや? こちら、空ですな」
「そんな瓶が空だからって、何が悪いんだ」
ネゴティムの目が細まった。
「こちらがなんの瓶かご存知ないのですか」
「薬を入れるビンじゃないのに、知ったことではないな」
「獣化固定薬は危険な薬ですよ。それを飲んでしまったら、獣化したまま戻れなくなる。命の危険が迫る薬ですな。その辺の川へ安易に流せないのです。だから、薬の効果がだいぶ薄れるまで三年間、この瓶の中に入れて保管しておくのですな」
それが、ない。
獣化固定の薬効がまだ残っているはずの薬が、一ビン行方不明であるということである。
さすがの父も意味がわかったらしい。
顔色が白く変わった。
「保管庫の確認は毎月行うものとされておりますが、保管簿にはなんの記録も残っておりませんな。どうなっておりますかな?」
法律官はなおも言う。
父はとうとう口にした。
「……ルミアーナが……ルミアーナが管理していた……。私は妻が亡くなって以来具合が悪く、執務は娘であるルミアーナが担っていたのだ。ルミアーナのためを思って言わないでいたが、もうだめだ。ああ、今どこにいるのかわからない、ルミアーナ。もしやこの不正を行い、薬を持って逃げ出したのかもしれない……! なんということだ…………!」
「……キュ……」
父親というのはいったいなんなんだろう。
子に仕事をやらせ、自分の立場が悪くなったら罪を押し付けて切り捨てるのだ。
都合よく使うための道具ということか。
ああ、前世の会社といっしょか。
獣化されたうえに、獣化固定薬の持ち出しの罪をかけられている。
いや本当に、なんということだである。わたしの方こそそう言いたいよ。
死人に口無し、オコジョに言い返す術はないというのにねぇ……。
水・土曜 更新予定です!(今日はちょっと過ぎちゃった! ごめんなさい!)




