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迷宮都市はオコジョびより 〜窓から捨てられた侯爵令嬢は、早く人に戻りたい〜  作者: くすだま琴


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18/24

第18話 お世話になって生きている


「……すまないが、どちらがルミアーナ嬢だろうか」


 カプリコルン公爵は約束の日より一日早く、人化固定薬を持ってきてくれた。

 地下迷宮管理組合ユニオンの前回と同じ部屋で、わたしと兄アレクサンテリと公爵は向かい合った。今日はクーノも同席している。


 困惑しきった顔のカプリコルン公爵。立派な山羊ツノも心なしか動揺しているように見える。

 カルッパ侯爵家の兄妹がお世話になって大変申し訳ない。


「キュー」

「こちらがルミアーナ嬢か。そちらもオコジョではなく、やはり獣人……。まさか獣化固定薬を?」

「キュゥ」

「チゥ」

「そうか……。よその領のことにあまり口出ししたくはないのだが、そんなにいくつも獣化固定薬があるとは思えないのだが、どうなっているのか……。いや、ひとまず薬の方を」


 クーノが小鉢を出して、人化固定薬を手にとった。


「——これが、領主が手づから移動させないとならない超貴重品の薬」

「落としたらおまえの十年分の給金が消える」

「伯父上……! 注ぐ前に変な緊張させないでください!」


 そんなことを言いつつも、危なげなく薬は小鉢に収まった。

 ここに来る前に、兄と話し合った。

 薬をどちらが飲むか。

 半分ずつ飲めたらよかったのだけど、ブロンブランが言うには獣化固定薬を一本飲んだら人化固定薬も一本飲まないと中和できないらしい。足りないとどう影響が残るかわからないと脅されている。

 兄と最後に一度、顔を見合わせた。

 わたしは兄の背を押した。


「えっ? ルミアーナ様……⁉︎」

「ルミアーナ嬢! それは次期領主が飲むべきだ!」


 公爵の言葉にもわたしたちは怯まなかった。テーブルの上で兄は薬を一口飲んで、床に跳び降りる。

 するとわたしに似た青年姿が現れ、残りの薬をあおった。

 シャンパンゴールドの髪と明るい青紫の瞳、顔の作りはわたしと本当に似ている。

 眉を下げ、なんとも情けない顔で兄はわたしを見た。


「ごめん、ルミアーナ」

「キュ!」


 今さらそれは言わなくていい。

 最終的にわたしが決めたことである。

 だって、兄よりわたしの方がオコジョ生活に適性があるのだ。

 それなら、わたしがオコジョでいるべきである。

 それにカプリコルン公爵も言った。それは次期侯爵が飲むべきだと。


「——ま、さか……アレクサンテリ殿……⁉︎」

「ご無沙汰しております、閣下。このような見すぼらしい格好で失礼いたします」

「え……アレクサンテリ様……? ええっ⁉︎ 亡くなったのでは⁉︎」

「恥ずかしながら生きておりました。まずはお礼をさせてください。閣下、この度は大変お世話になりました。高価な人化固定薬を融通していただき、本当にありがとうございます」

「……いや、いいのだ。そうか、生きていらしたか……。よかった……。お母上も天上でさぞかし喜ばれているだろう」

「……はい」


 母が亡くなったことも兄には伝えた。

 兄が亡くなり寝込んで弱った母が、階段から落ちて亡くなったとは言わなかった。事故でとだけ伝えた。

 でも聡明な兄はわかっている。

 自分が亡くなったことと無関係ではないって。


「……妹がいただいた薬、本来であれば私が飲むべきではなかったのですが」

「いや、いいのだ。ふたりで話し合ったのであろう?」

「情けないことに妹に助けてもらわなければ人化することもできなかった私より、ルミアーナの方がオコジョ暮らしに向いていたので……」

「たしかに、オコジョさんは楽しそうにしてましたね。毎日地下迷宮に通って。もう探索者登録も慣れたもんですよ」

「それは……なんと言うか……ルミアーナ嬢は柔軟であるのだな」


 クーノが余計なことを言うので、カプリコルン公爵がわたしを見てなんとも言えない顔をしているではないか。


「キュー!」


 わたしだって言いたいことも言えずに苦労しているのに。

 憧れのスローライフも地下迷宮都市ラビリンスシティグルメも満喫できてないのだ。

 まぁ、宝箱開錠はそれを補って余りある楽しさだけど!


「ルミアーナにはうちの人化固定薬を飲ませます」

「それであれば安心だ。落ち着いたら、ふたりで訪ねてきなさい。事の仔細も聞きたい」

「改めてお礼をいたしたいので、近いうちに必ず伺います」

「このようなことを言うのはあれだが……もし、早々に代替わりをするのであれば、力になる。遠慮なく言ってほしい」

「……それでは、お言葉に甘えさせていただいて——法律に強い方を回していただいてもよろしいでしょうか」

「もちろんだ。戻ったらすぐに手配しよう」

「本当に何から何までありがとうございます」

「ルミアーナ嬢のがんばりを見てきたからね。応援したいんだよ」


 兄は横に座るわたしの背を撫でた。カプリコルン公爵はやっと晴れ晴れとした笑みを浮かべた。




 ◇




「そう……帰っちゃうのね。寂しくなるわぁ」

「キュー」


 顔色の悪い魔人オネェ様と手を取り合った。

 兄はオコジョと筋肉オネェ様のそんな姿を見て笑っている。


「大変お世話になりました。ブロンブラン様、また改めてお礼に伺います」

「いいのよぅ。っていうか、あなた次期侯爵でしょ? 忙しいでしょうに」

「ですが、本当に助かりました。薬代のこともありますし、また後日必ず」

「そぉ? まぁ、本当に忙しかったら、気にしなくていいから。これかがんばってちょうだいね」

「はい」

「ルミアーナ様も、元気でね」

「キュ!」


 わたしはまた来る気でいっぱいだ。

 鉱山の視察に来たら、ここまではすぐなのである。

 時々顔を出していたら、そのうちリステアードたちにもお礼を言う機会があるかもしれない。

 いつか会えるだろう。

 そう思いながら、兄の肩に乗った。


 これからわたしたちは、ひとりの死者とふたりの行方不明者を出した家に帰る。

 そして父である領主を引きずりおろし、狡猾な従妹とともに断罪するのだ。


 スィリリヤ、重罪判決待ったなしだよ。覚悟を。






 水・土曜 更新予定です!(ギリギリになってしまった!)

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