第14話 オコジョ一匹、地下迷宮へ
人化固定薬が来るまであと一週間ほど。
ブロンブランが食事くらい出してあげると言ってくれたので、ありがたくお世話になりながら、わたしは地下迷宮に潜ることにした。
あわよくばケルピーのたてがみを手に入れたい。
わたしは運よく人化薬を手に入れられたし、人化固定薬も譲ってもらえることになっているけど、いろんな理由で困る人がまた出てくるだろう。
それなのに地下には今、ほとんど人化薬がないのだ。
そのことに関して、気づいてないわけではない。
貴族が買い占めていったというのと、タイミング。スィリリヤが関係しているのではと思ってしまう。
証拠もないし、決めつけられないけど、疑ってないわけではないのだ。
もしそうだとしたら、うちのせいで困る人が出たら申し訳なさすぎる。
「本当に一匹……ひとりで行くのね?」
「キュ!」
「侯爵令嬢がひとりで行くような場所じゃないわよぅ?」
それは重々わかっているのだけど、できる限りのことはしたい。
わたしの決意が固いのを見て、ブロンブランは短くため息をついた。
「わかったわ〜。それじゃ、何かあった時のために人化薬を二本分、器に入れてあげるから持っていきなさいよ——ああ、柘榴石はいいから。魔力入りは結構な値段なのよ。この間もらったもので十分よ」
「キュー」
「あとはお弁当と、地下迷宮使用料の銀貨。適当なところで戻ってらっしゃいよぅ」
いたれりつくせり。なんていい人なのか。
魔人オネェ様は面倒見がいいんだな。
深々とお辞儀をして、出かけた。
踏まれたりしないように(魔力で弾くから本当には踏まれないけど)、通路の端をヒョロヒョロと行く。
時々、道ゆく人が二度見するけど気にしない。
地下迷宮管理組合に入って、カウンターの上に乗った。
クーノがわりと近くにいたので、片手をあげた。
「キュッ!」
「ちょ、ちょっとルミア……オコジョさん、なんですかその銀貨! また謎なところから出して……。しかも迷宮使用料と同じ金額じゃないですか。え、まさか……。だめですだめです! 危ないからどこか安全なおうちにいてください!」
「キューゥ……」
「ううっ……! 罪悪感っ! 後ろ足だけで立ってうるうるした目で見ないでください! 自分がとんでもない極悪非道人な気がしてます!」
銀貨を差し出すと、クーノはものすごい葛藤の末、受け取った。
「あああああ……オコジョさんに何かあったら俺の首が飛ぶ……。次期侯爵様を危険な目に合わせたって物理的に飛ぶ……。絶対に戻ってきてくださいよ? 明日までに戻らなかったら、捜索隊出しますからね?」
オコジョ捜索隊って……。幻の珍獣になった気分。
明日までには戻るつもりだから、大丈夫だけどね。
魔法陣の描かれた魔導具に手を載せ、探索者登録を済ませる。
この登録された魔力を辿って、捜索することができるのだとか。
犯罪者も遭難者も地下迷宮では見つけやすいようだ。
前回来た時はリステアードの肩に乗って駆け抜けた(飛び抜けた?)ので、どの通路を行けば階段に通じるのかがわからない。
どうしようかなと思って、なんとはなしに空間をうかがうと、その通路の先が長いか短いかは感じられるような気がした。
試しに行ってみると、短い気がした通路は短く、長いと思った通路は長かった。
そして一度行けば、通路は覚えられた。
これも空間魔法なんだろうね。便利だなぁ。
前回降りた階段だったかどうかは覚えてなかったので、他力本願はよくないと思った次第。
一階層は魔物がほとんどいないようで、まったく会わなかった。
進んでいるうちに辿り着いた階段を降りてみたら、様子の違う場所に出た。
タイルの床だったのが、土。それに、少し先に光が見えている。
進んでみると、アーチ型の出口があって、その外は眩しい。
「キュー……」
青空の下、広がる草原。ところどころに木が立ち、気持ちの良い風が吹いていた。
って、ここ、地下。
しかも地下迷宮。
本当に外の景色にしかみえない。
不思議だなぁ……。
さわさわと草が揺れる淡緑色。遠くに探索者パーティが見えていた。
伸び上がって遠くを見ていると、うしろからまた探索者たちが草原へと降りてきた。
「え、なんかいる⁉︎」
「魔物⁉︎」
「イタチ?」
「あら? ニョロちゃん?」
ニョロちゃん?
くるりと振り向くと、女の子たちの四人組パーティがいた。
「ニョロちゃん……じゃないわよね。似てるけど、この子の方が綺麗かも」
「ニョロちゃんって何? 確かにひょろーっとしてるけど」
「うちの近くに似た子がいるのよね。かわいいからソーセージとかあげてるんだけど」
「えー! 一年パーティ組んでてそれ知らない! あたしもソーセージあげたい!」
「あなた、ソーセージ食べる?」
「キュー」
「「「「かぁわぁいい〜〜〜〜」」」」
早めのお昼休憩をとることにした女子たちに混じって、ソーセージをいただいた。
ふむ、香草が効いていて大変美味ですねぇ。
アンナさんのベーコンに負けてないよ。
女子会って久しぶり。まだ母が生きていた時に子どもたちのお茶会があった。その時以来。
スィリリヤとは、こういうなごやかなのはなかったからなぁ……。
お茶も飲む? と紅茶までいただいた。
うれしくなってブロンブランにもらったクッキーのお皿を空間庫から出して女子たちにすすめてみた。
「お皿にクッキー……い、いただきます」
「これ、[月夜のカラス]の薬草クッキーじゃない?」
「ええ? 白ニョロちゃん、お金持ち? うちのちかくのニョロちゃんはいつもお腹すかせてるのに」
「ありがとう。わぁ、目が半月みたいになった! かわぁいい」
ブロンブランのクッキーは大変好評だった。
薬草クッキーだなんて初めて知ったよ。疲れがとれるらしい。
オネェ様ったら、手広くやってるね。
ワイワイしたお昼の後、「バイバイー」と楽しい女子パーティと別れ————ちょっと離れた距離から後をつけた。
いつもお腹を空かせている、わたしと似たニョロちゃんって。
嫌な予感しかしないよね。
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