第13話 人化固定薬の行方
わたしはオコジョ獣人のルミアーナ。
カルッパ侯爵家の一人娘で次期女侯爵。けれど、実家では仕事を放棄している父に疎まれ、従妹で侍女のスィリリヤに嫌がらせをされ。挙句、獣化薬を盛られてオコジョ姿のまま捨てられてしまった。
その後、密猟者に捕まり、毛皮として売られそうな気配が濃厚なところを、黒髪黒瞳の貴公子リステアードに助けられた。
それから人化薬の材料を採りに地下迷宮へ行ってきて薬を作ってもらったのに、その薬では人の姿を保持することができなかったのだ。
盛られたのは獣化罪用の獣化固定薬だったのではと薬師のブロンブランに言われ、中和用の人化固定薬を作るための素材採取依頼を出すこととなった————。
ブロンブランの肩に乗り、地下迷宮管理組合へとやってきた。
相変わらずたくさんの人が行き交い、活気がある。
前に来た時に受付をしてくれたアイベックス獣人の青年が笑顔を向けた。
「ブロンブランさん、地下迷宮管理組合へようこそ。あれ、その肩の……オコジョさん、かな?」
「ええと、オコジョさんじゃなくて名前……あらやだ。さっき名前聞いたのに、いろいろ衝撃的で忘れちゃったわよぅ。クーノはこの子と会っているのね?」
「やっぱりオコジョさんですよね。ええ、リステアード様といらした時に、探索者登録とパーティ登録の手続きをしましたよ」
職員の青年はクーノというらしい。
オコジョにもちゃんといち探索者として接してくれる。
「それなら話が早いわ。採取依頼をしたいんだけど、個室とれるかしら」
「もちろんです。こちらへどうぞ」
地下迷宮管理組合はかなり大きい組織であるらしい。
賑やかなフロアの奥にも広い敷地を持っているようだ。
裏への通路は長く、先が見えないほど続いている。
空いていた個室のひとつに案内された。
「採取依頼でしたね。わざわざ個室でということは、むずかしいものですか?」
「この子————獣化固定薬を飲まされちゃったみたいなのよ」
ガタッと音をたてて、クーノが立ち上がった。
「や、やっぱり獣人だったのですね? ピアスはどうしたんですか?」
「なんでも侍女にだまされて取り上げられたって話だったわ」
「——うっ! 侍女って……」
クーノはひたいに手をあてて、上を向いた。
「カルッパ侯爵領に侍女がいるお宅ってひとつしかないと思うんですが、まさか、ルミアーナ様……」
「キュ!」
「そう! たしかそういう名前だったわよ!」
「本当に? いやでも侯爵邸であれば獣化固定薬もあるか……。大問題ですよ。ルミアーナ様は次期女侯爵じゃないですか。なんでそんなことに」
「まぁとにかくそういうわけだから、人化固定薬を作らなきゃならなくて」
ケルピーのたてがみがまた必要だ。
その他に固定の効果を出すために、レインボースターチスと魔力を帯びた柘榴石を使うとブロンブランは言った。
「キュ!」
わたしが空間庫からまた柘榴石を出すと、クーノは備え付けの魔導ルーペで確認した。
「——本当にどこから出してるんですかね……ええ、こちらは正しく魔力入り柘榴石ですね。さすがカルッパ侯爵家です。見事な品ですよ。こちらで買い取りましょうか? それともブロンブランさんに直接売ります?」
「ああ、それ柘榴石なのね。それなら、あるから依頼はいいわ。アナタは自分で持っておきなさい」
「キュ」
「残りの、たてがみと花の採取依頼をするわ」
「承知しました」
こうして人化固定薬の素材の手配は済んだのだけれども————三日後、違う方面から、人化固定薬の話が飛び込んでくることになるのだった。
◇ ◆ ◇
地下迷宮管理組合の一室。前回使った部屋よりも相当豪華な調度が並んでいる。
そこでわたしは壮年の男の人と向かい合っていた。
頭部にはアイベックスの山羊らしいツノが生えている貫禄あるこの方は、カプリコルン公爵ご本人である。
堂々とした佇まいだけど、決して偉そうだったり厳しい様子ではない。
頼りにならない父の代わりに書類のことについて教わったり、大変お世話になっている方だ。
「————本当にルミアーナ嬢か…………」
「はい、閣下。お久しぶりでございます」
人化薬で、一本分だけ人の姿に戻っている。
こんなおかしな話は、実際に見せた方が早いから。
組合の職員であるクーノは、カプリコルン公爵の甥だった。
依頼の後、すぐに公爵へ知らせに行ってくれたのだそうだ。
「すぐに来れなくて悪かったね。話を聞いてもにわかに信じられなくてね、すぐにカルッパ侯爵家を調べさせたのだ。結果、本当にルミアーナ嬢が行方不明だとわかった。あちらでも、騒ぎになっていて、探しているようだよ」
誰がどの面下げて探しているというのか。
あの父がまた悲劇の主人公のようにしているのかと思うと、ため息が出そうになった。
わたしは起こったことを公爵へ話した。
「他家のことはうかつに口出しできないが、あまりにもひどい……」
「ただ、今のこの状態じゃ戻れません……。獣化したまま戻っても、わたしに獣化固定薬を飲ませた犯人がまだあそこにいますし」
「そうだね。そこは慎重にした方がいいだろう。その姿の間はうちに来るかい?」
「いえ、せっかくなので、もう少し地下におります。獣化姿でしかできないこともありますし、後学のために」
「そうかい? まぁ、獣化姿でならそんなに心配もないだろうね。それではひとまず、私はルミアーナ嬢が地下にいることは知らないことにしておこう。そして、うちにある人化固定薬をこちらに持ってくる」
「え……いいんですか⁉︎」
「もちろん。こんな時のためにある薬だよ。ただ、国の規定で領主はかならず一本持っていなければならないものだからね。替えの薬を用意してからになるんだ。少し……一週間ほど待ってほしい」
「ありがとうございます!」
ああ、よかった!
これで元に戻れる目処がついた。
安堵とともにオコジョ姿に戻ってしまった。
獣化姿は獣化姿で自由でいいのだけど————やっぱり獣人姿が便利でいい。
あと一週間と思えば耐えられる。
言いたいことが言えない、ちゃんと説明できないというのは、本当にもどかしくてつらかった。
オコジョ姿のまま、カプリコルン公爵に深く礼をした。
公爵はまた獣化してしまったわたしを心配そうに見ながら、地上へと戻っていった。
いつも応援ありがとうございます!
二章に入りました。
次の更新は水曜日の予定です〜




