第6話 「中身がコーラ」
目が覚めると、天井が白かった。
頭が重い。左足に包帯が巻かれていて、鈍い痛みがある。ベッドの脇に点滴のスタンドがあり、窓から午後の光が差し込んでいた。
病院だ。
右隣のカーテンの向こうから、子供の声が聞こえてきた。
「これ、中身コーラなんだってさ」
「え、うそ!?」
悠希は目を閉じた。
その声を、知っている。
もう一度、開ける。
カーテンをそっと引くと、隣のベッドに小学生くらいの少年が点滴をつけて横になっていた。そのベッドのそばに、もう少し小さい男の子が椅子に座って、真顔で少年を見ていた。
小さい方の男の子が、こちらに気づいた。
「お兄ちゃん、起きてる?」
返事ができなかった。
ベッドの少年の顔を見ていた。
「……航平」
思わず呟くと、椅子の男の子——幼い悠希が、目を丸くしてこちらを向いた。
「お兄ちゃん、俺のこと知ってるの?」
悠希は目を閉じた。あのボルトに刻まれた日付。2015年8月13日。
今日の日付だ。
戻れなかった。トイレのドアに触れたところで意識が途切れた。ボタンを押せなかった。そして今、同じ病院の同じ部屋に自分が二人いる。
「大丈夫?」と幼い悠希が聞いた。
「大丈夫だ」
「そっか。俺、三輪悠希。お兄ちゃんは?」
「......同じ名前だ」
幼い悠希は目をぱちぱちさせた。それから「すご」と言った。
航平がカーテンの端から顔を出した。
「お兄ちゃん、どこかから来たの?」
「遠いところから」
「遠い? どのくらい遠い?」
「ずっと先の方から」
航平は少し考えてから「ふーん」と言って、また点滴の管を眺め始めた。
悠希はもう一度天井を見た。
過去に取り残された。どうやって戻るかは分からない。でも今この瞬間は、足が痛くて、頭が重くて、隣で幼い自分と航平が話している。それだけが確かだった。
ふと左隣のカーテンがいつの間にか開いていたことに気がついた。
肩に包帯を巻いた少女だった。高校生くらいで、少し緊張した顔をしている。
少女は悠希をじっと見つめていた。目が合った。
「……あ」
少女の顔から血の気が引き、次の瞬間、耳まで赤くなった。
「ごめんなさい! あの、その——
言葉が出てこないらしく、何度か口を開けては閉じた。それからようやく、深く頭を下げた。
「ほんっとうに、ありがとうございました。私を——身を挺して助けてくれて。ずっと、お礼が言いたくて」
声が震えていた。
少女——中学生の月城美空は、泣くのをこらえていた。
「よかった、無事で」




