猛虎の来訪
新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
前回のあらすじ
フレアが事務仕事に追われている。
書状の差出人がリコ姫と知り、危険を感じたフレアは慌てて書状を床に投げ捨て、少し距離をとって様子をうかがう。
異変が無いか、慎重に確認しながら危険物の処理方について、フレアが考え込む。
(さてと、どうしようかなぁ。狂人の書状だから、間違いなくトラップが仕掛けられてるはず。今回は爆発かな? いや、毒とか呪いもあり得る。うかつに鑑定スキルを使うのも危険だな。スキルに反応して、ドッカンと爆発するかも…………いっそのこと開封せずに燃やすか?)
しばらくの間、思案を続けていると、床に放り投げていた書状が突然、炎上して煙を噴き上げる。
「チッ、これは時間差トラップだ!!」
煙には強力な催涙効果があるらしく、毒耐性を持っていても少し目が痛い。
「ゲッホゲホッ、いい加減にしろ、バカ姫! ────ゲホゲホッ、今度会ったら、絶対に引っ叩いてやる!」
トラップを回避出来なかった悔しさと目の痛みで、フレアの怒りが高まっていく。
(くそっ、煙がキツイ。だけど、動転して外に出るのは愚策だな。おそらく、奴が待ち構えてる。煙で外に追い出し、得意の飛び膝蹴りで攻撃してくるはず。はぁ~、あのバカ姫は、本当に昔と変わらない)
テントの中が煙で充満していく中、フレアは迷惑な友人との出会いを思い出す。
────
今から12年前。
フレアの実家にある練兵場では、朝から訓練をする多くの私兵たちで、活気に満ちて騒々しかった。
練兵場の中央付近に、壮年男性と少女の2人が無言で立ち尽くし、訓練の様子をジッと眺めている。壮年男性の目つきは鋭く、立ち振る舞いも隙が無い。誰が見ても間違いなく強者と感じ取れた。
それに比べ、少女の様子は場違い感が凄い。綺麗なフリルドレスを身にまとい、穏やかな表情で微笑んでいる。どう見ても、荒事と縁がない深窓の令嬢といった感じがして、男臭い練兵場に似合わない。
しかしながら、練兵場にいる者は彼女の身分を知っているため、誰も気にする事なく訓練を続けていく。
男たちの激しい声が鳴り響く中、入り口の扉を勢いよく開けて、12歳のフレアが練兵場に入ってくる。
全身汗びっしょりのフレアは、早足で中央にいる壮年男性のもとに向かい、大きな声で話しかけた。
「御祖父様! 日課の走り込み、完了です! 本日の指導をお願いします!」
「おぉ、フレア、今日は遅かったな。ふむぅ、罰として明日の走り込み、3倍走れ。良いな?」
「っ!? ────は、はい!」
「うむ、励め。今日、お前に紹介したい者がいる。ほれ、自分で挨拶しなさい」
祖父が隣にいる少女をフレアの前に押し出して挨拶を促すと、少女は可愛らしくドレスのすそをつまんで、自己紹介を始める。
「初めましてなのぉ~、私、リーシエッタ・コルネス・キャラット、と言いますの。気軽に、リコって呼んで欲しいですぅ~」
「えっ!? まさか、第1王女様ですか? なぜここに? あっ、いえ、その、すみません」
突然、王女様と出会い混乱していると、祖父が真剣な眼差しを向けて話し出す。
「フレア、お前の修行に今日から姫が加わる。共に強くなれるよう、励むが良い」
「へぇ? …………あの、御祖父様、姫様に厳しい修業は無理だと思いますが?」
「心配無用。お前より、姫の方が才能に恵まれているぞ。そんなことも、わからんのか?」
「わからなくて、すみませんでした! 姫様と共に、粉骨砕身の覚悟で修業をします!」
「えへへ、よろしくねぇ~。私、頑張りますよぉ~。えいえいおー、ですの!」
「…………」
リコ姫はフリルドレス姿で、可愛らしく拳を握りしめ気合いを入れたが、まったく迫力がない。そんな姿を見ていたら、フレアの心に黒い感情が溜まっていく。
(チッ、世間知らずの姫様と一緒に修行? 冗談じゃない、バカにするな! 私が死ぬ覚悟で耐えている修行だぞ。ひ弱な姫に出来るわけがない)
無言で考え事をしていたフレアに、祖父は意外な話をしてくる。
「フレア、リコ、相手の実力を知るため、今日の修行は2人で練習試合だ。先に失神した方が負け。さあ、武器を持って戦いを始めろ」
「御祖父様、それは危険です。素人の姫様と私が戦えば、大怪我をさせてしまいますけど、良いのですか?」
「平気ですよぉ~。怪我なんか気にしませんの。ですから、遠慮なく殺りましょう~」
「姫様、本気ですか? 怪我をしても、私は責任を取りませんよ?」
「は~い、良いですよ。お互い怪我をしても恨まない、姫の名前に誓いますのぉ~」
「…………わかりました。それでは、始めましょう」
────
刃を落とした練習用の剣を受け取ると、フレアとリコ姫が向かい合って剣を構えた。
すると、直ぐにリコ姫が悲鳴を上げる。
「剣が…………剣が重くて持ち上がらなぁーい。ふぬぬっ、ですのぉ~」
「はぁぁ~~っ、やる気が出ない。どう考えても、これは弱い者いじめだな」
着替える事を拒んだリコ姫は、フリルドレス姿で剣を持ち上げようと苦戦している。その姿は、あまりにも隙だらけで、フレアの戦闘意欲を奪っていく。
(弱い、弱すぎる。そもそも、なぜ着替えない? ドレスで戦うなどバカのする事だろ。構えが悪くて隙だらけ。あ~、無理に重い物を持つから、腕がプルプルしてる。さてと、どうやって終わらせようかな)
弱い姿を確認すると、フレアは油断をして戦闘中なのに考え事をする。
しかし、これが良くなかった。
油断をした瞬間、フレアの顔面を目掛けリコ姫が剣を投げつけてくる。その速さは、まるでオーガが小石を投げるように速く、訓練された戦士でも回避が難しい速度だった。
────油断したフレアに、一直線に迫ってくる剣。
それを驚異的な反射神経と剣術で弾く。しかしながら、無理矢理な迎撃で態勢を崩してしまう。
何とか反撃を、と考えた瞬間、フレアの顔にリコ姫の飛び膝蹴りが突き刺さった。
鼻の骨と歯が折れる感覚の中、フレアの意識が遠のいて行く。
────
フレアは後で知ったが、リコ姫のフリルドレスは相手を油断させるための物。剣が重いと言ったのも、油断をさせるための演技。本当の彼女は、筋骨隆々な体を持つパワーファイターだった。
次回予告、フレアとワンコ
「あの、顔色が良くないですけど、大丈夫ですか?」
「…………平気だ。ちょっと嫌な事を思い出しただけ」
「それにしても、フリルドレスで飛び膝蹴り? 何というか、変な友人を持っていますね?」
「あのフリルドレス、実は特殊な糸で作られているから、桁違いに重いんだ」
「なるほど、脱いだら凄い! という事ですね。ふむふむ、ここで次回予告です。リコ姫と出会ってケンカをする。ですって、フレア殿?」
「はぁ、しょうがない。久しぶりに引っ叩いてやる」




