レイの実力
前回のあらすじ
食べ過ぎて米と大豆が無くなった。
襲撃でキャンプ地が騒ぎになる中、誠志郎は自分用のテント内で対策を考えていた。
テント内では、言葉数が少なく空気が張り詰めていたが、その雰囲気をぶち壊す様にパニック状態のブタンが騒ぎ出す。
「ねえねえ、どうするの? どうしよう? 逃げる? 逃げない? あ~、こんなことなら早く買い出しに行けば良かったぁー」
「…………はぁ、うるさい。大丈夫だから、少しは落ち着けって。ちゃんと守るから安心して良いよ」
「お、お、おぉーっ! さすが心の友! 実はさぁ~、ビビりすぎておしっこ漏らしそうなの。だから、早く助けてください。お願いします」
「はいはい、わかったから、ここで漏らすなよ? 絶対に! ────えっと、ライ、ブタンと食堂に居るニャゴ丸を安全な場所へ避難させてくれる?」
「んっ、分かった」
ライとブタンがテントから出て行くのを見送った後、軽く頬を叩き気合を入れて誠志郎が声を出す。
「良しっと、それじゃあ他の────あれ? なんだか焦げ臭い」
異臭を感じ周囲を確認すると、いつの間にかテント内に煙が侵入し焦げたような臭いを感じる。誠志郎たちが慌てて外に飛び出し────目を疑う。
キャンプ地周辺の森が大規模に燃え広がり、景色が赤く染まっていた。
火の勢いは強くなる一方で、大量の火の粉が舞い木の燃える激しい音が鳴り響く。
直ぐに消火しないと、確実にテントや木造の建物が延焼する。と考えた誠志郎は、仲間たちに素早く指示を出す。
「とにかく火を消そう! ドラコの冷凍ブレスと、レイの────」
「おぉーーい! おぉーーいっ! せぇーしろぉーー!」
「えっ!?」
遠くの後方から名前を呼ぶ声が聞こえ、振り向くとフレアが大きく手を振りながら走って来るのが見えた。
「フレア! ちょうどよかった。これから消火作業をするから、魔法の得意な者を集めてくれる?」
「誠志郎、残念だが手遅れだ。もう間に合わない、延焼速度が速すぎる。キャンプ地を放棄し、一旦火の手が回っていない森に退却するぞ!」
「チッ、そこまで状況が悪いのかぁ。フレア、何があったの?」
「今回の敵は、人食い火炎バッタと呼ばれる相手だ。万単位で襲い掛かり、全てを燃やし食い荒らす害虫で、対処が難しい災害の様な存在と考えてくれ」
「なんとまあ。…………ねえ、範囲攻撃でドッカァーンと、殺れないかな?」
「えぇ、もちろん。私たちハンターは、害虫に負けたりしない。しかし、建物を守りながら戦うのは困難だ。残念だが、キャンプ地を放棄してから撃退しよう」
「…………フレア、周囲に多大な被害を与えていいなら、簡単に解決する方法があるよ」
「すまない、時間が無いんだ。私は、誠志郎たちを討伐隊の主力と考えている。だからこそ、確実に逃げて欲しい。獣人とオーガたちが、しんがりを志願してくれた。命がけで時間を稼ぐそうだから、早く撤退してくれ!」
必死に説得するフレアに対し、誠志郎は撤退を決断出来ずにいた。なぜなら、解決方法があるから。ただし、リスクが大きい。
誠志郎が悩んでいると、無言で話を聞いていたレイが遠慮気味に口を開く。
「ご主人様、撤退の必要は無いですよ。火を消し、敵を全滅させますから、私に必殺技の許可をください」
「はぁ、やっぱりそれが最善だな。うん、わかった。レイ、必殺技を許可する。周囲の被害を気にしなくていいから、全力で殺ってくれ」
「はい、ご主人様。では、きね、凍傷被害を抑えるため、可能な限り多くの者に冷気耐性を付与しなさい。それと、ベルは冷気で負傷する者を治療しなさい」
「うむ、任せておくのじゃ」
「おほほほ、了解ですわ」
「任せましたよ。フレア殿、全てを解決しますから、3分の時間をくれませんか?」
「えっ!? 何をするつもりなんだ?」
「ふふっ、私は精霊女王。────森羅万象を操る者」
レイは、仲間たちから少し離れた場所に移動すると、目を閉じ集中し精霊の力を高めていく。すると、髪が青く変化し凍り付いた。
必殺技の準備が出来たらしく、目を開けたレイが凛とした声を出す。
「水よ、氷よ、暴れ狂え! 必殺技、天変地異────豪雪!」
────
3分後、赤く燃えていた景色が雪と氷の世界に変貌する。
絶望の森は、年中蒸し暑く雪が降らない。しかし今、討伐隊キャンプ地では大雪が降り、まるで南極の様だった。
────必殺技、天変地異。
過剰に精霊の力を強化して、暴風雨、大噴火、大地震、豪雪などの災害を引き起こす。
威力は絶大だが、周囲に多大な被害を与えるため、禁じ手に近い技だった。今回も、火を消して火炎バッタを全て凍死させたが、多くの仲間が凍傷を負ってしまう。しかも、大雪を片付ける仕事が残された。
とりあえず、レイの活躍でキャンプ地を守ることができた。
しかし、今回の事でレイの実力が広く知れ渡ってしまう。その結果、思わぬトラブルを招くことになる。
────キャラット王国、王城。
白亜の宮殿と呼ばれる王城、バーン城。その中にある第1王女の室内では、女性が1人で剣の手入れをしている。
栗色の長髪で、鋭い目つきが特徴的な女性は、女性的というよりも刀の様な美しさを持っていた。
一心不乱に剣の手入れをしていると、部屋の扉が軽くノックされる。
「リコ姫様、お茶の時間でございます。よろしいでしょうか?」
「…………えぇ、構わない。────入りなさい」
静かに扉を開け、1人のメイドが入ってくる。メイドは、服装こそキチンとしているが、地味な容姿で影が薄い感じがした。
そのメイドの顔を見ると、第1王女リコ姫は何かを探るような視線向ける。しかし、直ぐに落ち着いた声で話しかけた。
「ピリン、お茶の時間ではないわよ? 何があったのかしら?」
「はい、リコ姫様、討伐隊に潜入している密偵から緊急連絡です。────精霊魔法の使い手が見つかった。と報告してきました」
「なんですって! 事実確認は? 詳しい説明をしなさい!」
「すみません。詳しい内容は、後日に送られてくるそうです」
「そう、…………残念ね。だけど、これで私の計画を実行出来るかもしれない。ピリン、白く小さい花を第3練武場に集めなさい。伝える事があります」
「はい、姫様」
音もなく掻き消すようにメイドが立ち去ると、後に残ったリコ姫は、不敵な笑みを浮かべて独り言をつぶやく。
「神の魔法と呼ばれる精霊魔法。今は無き伝説の魔法が蘇れば…………ふふっ、私の夢が叶う」
誠志郎の知らないところで、厄介な話が進んでいく。
次回予告、 スイとライ
「スイ、雪だよぉ~、凄いね!」
「ねぇー、雪だるまとか作る?」
「えぇっ、めんどくさい。動きたくないなぁ~」
「うん、確かに! じゃあ、次回予告、雪を見ながら露天風呂」




