フレアとの会談2
前回のあらすじ
フレアとの会談を始めた。
フレアと誠志郎の会談は、落ち着いた感じで行われていた。しかし突然、誠志郎がドン引きするくらいフレアが取り乱す。
容姿の整った顔を涙と鼻水で歪ませ、誠志郎の足にしがみつきフレアは泣き叫ぶ。
彼女は必死だった。つまらない好奇心で誠志郎の機嫌を損ね、大切な目的が果たせないかもしれない。それだけは絶対にダメ。だから、何度も床に頭を叩きつけ全身全霊で謝罪をした。
「ごめんなさい、ごめんなさい! もう2度と、2度と素性を聞いたりしません!」
「えっ、いや、ちょっとフレアさん?」
「そうだ、殴ってください! この愚かな私を思いっきり殴ってくれぇ! だから、どうか頼みごとを拒否すると言わないでぇーっ!」
「わかった、わかった。頼みごとの話を聞くから、とにかく泣き止んで。あっ、椅子に座ったらどうですか?」
フレアは取り乱し泣き叫んでいたが、誠志郎の言葉を聞いてようやく落ち着く。
女性の涙はズルい、これじゃあ俺が悪者みたい。と、誠志郎が思っていたら、椅子に座ったフレアが綺麗な青い瞳で見つめてきた。
彼女の視線が突き刺さり、緊張して上手く言葉が出てこない────
無言の気まずい雰囲気の中、耐えられなくなった誠志郎が先に口を開く。
「コホン、えっと、俺たちに頼みたい事を、短く簡単に話してくれますか?」
「はい、誠志郎様。…………英雄ハンターの称号を与えますから、私たちと共に魔物を倒しましょう!」
「却下!」
「そ、そんなぁ。…………名誉英雄ハンターの称号では?」
「とにかく却下。俺たちはニャゴ丸の護衛に専念したい」
「そうですかぁ。名誉英雄ハンターの称号を断るのですね?」
「称号よりも仲間の安全が1番大切だよ。ハンターになれば、必要以上に戦うことになるはず。それを避けたい」
提案を断られ、フレアが口に手を当てて考え込む。しばらく黙考すると、探るような目を誠志郎に向けながら話し出す。
「名誉英雄ハンターは、私の祖父以外に存在しません。絶大な権力を持ち、王を超える存在なのですよ。世界中の者が憧れる称号を断るとは、なるほど、やはり誠志郎様たちは、大変遠い場所から来たのですね?」
「────だから何? 迷惑なら、直ぐにキャンプ地を立ち去るから安心していいよ。それじゃあ、さようなら。元気でね!」
椅子から立ち上がり、立ち去ろうとする誠志郎の足に、フレアが高速でしがみつき再び泣き叫ぶ。
「待ってぇーっ! 今のは、ちょっとした確認ですよ。誠志郎様たちの出自に興味はありません! だから、どうか離脱するなどと言う、恐ろしい事を言わないでぇーっ! 私、何でもしますよ。靴を舐めろというなら、舐めます。裸踊りをしろと言うなら、踊ります。ですから、離脱だけは勘弁してください。お願いします。お願いします!」
ショートヘアーの金髪を振り乱し、狂気に満ちた顔のフレアが血を吐く勢いで懇願する。
その様子に、誠志郎は戸惑いながら、どうしたもんかと思い悩む。
(失敗したなあ。勢いで立ち去ると言ったのはマズかった。困ったなぁ~、どうしよう。…………えっと、離脱だけは避けたいフレア、俺は魔物討伐の仕事だけは避けたい。ふむふむ、だったら交渉の落とし所は────)
考えがまとまった誠志郎は、いまだに取り乱しているフレアに微笑みかけ、優しく諭すような感じで話しかけた。
「フレア、安心して良いよ。俺たちは最後まで離脱しません。約束します。ですが、その代わりニャゴ丸とキャンプ地の護衛に専念します。どうでしょうか?」
「…………はい、誠志郎様の提案に従います。ハンターの称号を拒否されたのは残念だが、キャンプ地を守ってくれるだけでも、大変ありがたいです。無理な頼み事をして、離脱されたら最悪です。私は、どんな条件でも受け入れますよ」
「どんな条件でもかぁ。うーん、凄い覚悟だね。────1つ質問。なんでそこまで俺たちにこだわるの? 討伐隊の者たちでは、ダメなのかな?」
「討伐隊のハンターは確かに強いです。だがそれは、中級レベルの魔物を倒せる程度に過ぎない。上級レベル以上の魔物を倒せる者は、私を含めて数人しか居ません。しかも、1対1で何とか勝てる程度ですよ」
「へぇー、そうなんだ」
「恐ろしい事に、この森では上級レベル以上の魔物が数多く生息しています。大量に襲撃して来たら、簡単に全滅するでしょう。ですから、圧倒的な武力が必要なのです!」
「なるほど、だけど俺たちだって楽勝じゃないよ。過度な期待は止めて欲しいなぁ」
「…………昨夜、私はワンコ様の戦いを見ました。だから、強く確信しています。どんな対価や代償を払っても良いから、味方にしなくてはいけない存在だと」
誠志郎の手を握り、フレアは真っ直ぐに見つめてくる。彼女の強い思いが伝わり、誠志郎は胸を熱くした。
「キャンプ地の護衛は任せて! 全力で守る事を約束する」
「おぉー! なんと心強い言葉でしょう。これで心置きなく戦える。ありがとうございます!」
「ねえ、もう1つ質問。どうしてフレアは、そんなに必死なの? やっぱり隊長だから? もっと肩の力を抜いた方が良いと思うなあ」
「…………誠志郎様は夢がありますか? 私の夢は世界中の菓子を食べる事と、自分の菓子店を持つ事なのですよ」
「へぇ~、意外だね。お菓子が好きなの?」
「ふふっ、似合わない趣味ですから隠していますけど、実は菓子作りが好きなんです。私は子供の頃、厳しく、えぇ、それはもう大変厳しく育てられました。苦しい日々の中、唯一の楽しみが母の作ってくれた菓子だったのです。甘く癒してくれる菓子を思いっきり食べたい、作りたいと言う欲求は、大人になっても消えませんでしたねぇ」
辛い日々を思い出したのか、フレアは無表情になりボーっと遠くを見つめた。
泣き叫んだり、熱く語ってみたり、遂には呆けしまう。本当に感情の激しい人だなあ。と誠志郎が考えていたら、正気に戻ったフレアが再び話し出す。
「コホン、私だって本当は魔物と戦うのは嫌です。引退して菓子店を開きたいなぁ、そんな事をいつも考えていますね。でも、出来ません。戦いを止めたら魔物が暴走して国が滅びます。大切な家族や故郷を守るため、私は限界まで引退しないでしょう」
「…………ねえ、他国に難民として移住しないの?」
「全国民を受け入れてくれる国は無いですよ。他国は軍資金を出してくれますが、結局のところ我が国を魔物の生贄と考えています。ですから、絶対に難民を受け入れてくれないでしょう」
「酷いなあ、集団暴走した時に自国を守るため、この国を捨てるという事かぁ」
「話が外れましたね。すみません。────誠志郎様の質問に対する答えは簡単です。大切なものを守るために、最善を尽くしているだけですよ」
「フレア、俺たちは貴女の味方です敵対をする考えは無いよ。権力に縛られたり命令されるのは嫌だけど、友人であるフレアの頼み事なら出来るだけ引き受ける。だから、無茶をしないで欲しい。生き延びて、菓子店を開こう! そうだ、俺たちの国の菓子を作ってくるから食べてみて。美味しいと思うよぉ~」
「ふふっ、あっはっはっは、君たちが助けてくれるなら、魔物に負ける気がしない。ありがとう、どうやら本当に菓子店を開けそうだ。あぁそれと、珍しい菓子に興味はあるが、ボンボンと言う菓子をニャゴ丸に作ってもらえないか? 私の1番好きな菓子なんだ」
曇りのない笑顔で笑うフレアと誠志郎が、固い握手をして会談が終わった。
この会談の後、誠志郎はキャンプ地の護衛長を任されることになり、忙しい日々が始まっていく。
誠志郎たちが、討伐隊のキャンプ地で生活を始めて1週間が過ぎた。
到着した日の夜襲以降、大きな戦闘は無かったが、誠志郎は護衛長の仕事で多忙な毎日を過ごしていた。また、モン娘たちも各自、自分なりの仕事を見つけ忙しなく動き回っている。
特に、きねとニャゴ丸は討伐隊全員の胃袋を掴み絶大な人気を得たが、仕事量が多く激務に追われていた。
エプロン姿のきねは、手際よく本日の朝食、いなり寿司、麻婆豆腐、味噌汁を大量に作り上げると、ニャゴ丸の肩を叩く。
「ニャゴ丸、後は任せたぞ。我はご主人様たちに朝食を持っていくのじゃ」
「了解ニャ! 手伝いの者が居るから平気ニャ~」
「ふむ、あの連中かぁ。はぁぁ~~、また床に落とした料理を、コッソリと皿に戻すかもしれん。ちゃんと見張っておくのじゃぞ?」
「はいニャ! バカニャことしたら、引っ掻いてやるニャ~」
元気よく答えるニャゴ丸と別れ、きねは上機嫌で誠志郎たちのもとに向かって行く。
(うむ、今日の朝食も上手く出来た。ご主人様の喜ぶ顔が楽しみじゃな)
次回予告、 きね、レイ
「レイ、タケノコが森の中にあるそうじゃ。取ってきてくれんか?」
「はぁ、私は忙しいですよ。他の者に頼んでください」
「むぅ、少しくらい手伝っても良いではないか」
「麹を作ったり、みそ、醤油の発酵を手伝いましたよね? 結構、大変だったんですけど」
「仕方ないのぉ。次回予告、誰かが森の中へタケノコを取りに行くのじゃ!」




