オーガたちの戦い
前回のあらすじ
魔物が夜襲をしてきた。
討伐隊のキャンプ地、東側の丸太壁が破壊された場所付近では、大量の爬虫類系魔物が暴れ狂っている。
その魔物を相手に、オーガのハンター5人が死闘を繰り広げていた。
勇猛果敢な者が多い種族オーガは、背が高く筋骨隆々な体を持ち、圧倒的なパワーで敵を吹き飛ばす、生まれながらの強戦士である。
オーガのハンター、ゲキは大声で叫びながら巨大な斧を振り回し、爬虫類系魔物を次々に粉砕していく。
「ハッハァーーッ! くたばれ化け物! よっしゃーっ、次はどいつだぁ? じゃんじゃん、かかって来いやぁーー!!」
「ゲキ兄貴! 無茶ですよぉーーっ。早くゴオキ親分を呼ばないと、まずいっす」
「うるせぇーっ! てめえオーガだろうがぁ! ビビってんじゃねぇ! 死ぬ気で戦えやぁーーっ!」
「はい、兄貴! うぉぉーーっ! くらいやがれ、斧術スキル、兜砕き!」
「おっしゃーーっ! 両手剣術スキル、断殺斬!」
(チッ、数の多さにビビってんじゃねぇよ。バカがぁ!)
腰が引ける仲間が心配で、ゲキが一瞬だけ敵から視線を外し仲間たちを見てしまう。
その瞬間、巨大な蛙形魔物が口から紫色の液体を放ち、ゲキの顔面に命中させる。
すると、ゲキは武器の巨大な斧を手放して苦痛の声を出す。
(クソッ! こいつは弱体化の毒だ。まずい、武器が重くて持ち上がらねぇ!」
「おい! 早く解毒ポーション」
「はい、兄貴! …………チッ、邪魔だぁーー!」
仲間の1人が回復させるために、ゲキに近づこうとするが魔物の妨害に遭う。
魔物が連携のとれた動きで、救助に行く邪魔をしてゲキを孤立させる。その動きに慌てたオーガたちは、がむしゃらにゲキの元へ向かう。
だが、敵の数は多く、なかなか前に進めず辿り着けない。焦れば焦るほど、動きが単調になり隙を作ってしまう。
その結果として、5人のオーガ全員が弱体化の毒を受けてしまった。さらには、解毒ポーションを使い果たし、回復手段が無くなってしまう。
動きが鈍ったオーガたちは、魔物に噛みつかれ、切られ、殴られ、一方的な袋叩きにされていく。
激しい痛みと命の危険を感じ、遂にゲキの怒りが限界を超え、オーガ特有のスキル『激昂』を発動させた。
理性を捨て、憤怒の鬼となったゲキは目を赤く光らせ、大声で吠える。
「オーガを、なめてんじゃねぇぞ!! 武器なんざ必要ねぇ! 素手で十分じゃぁーーっ!!」
修羅と化したゲキが、手当たり次第に魔物を殴り飛ばす。その姿を見て勇気づけられた仲間たちも、次々とスキル『激昂』を発動し魔物に殴りかかって行った。
オーガ特有のスキル、激昂。怒りが限界を突破すると使用可能なスキルで、攻撃力を10%上昇させる。ただし、防御力と理性の低下という欠点もあった。
きねは、ワンコよりも移動速度が遅く、東側の丸太壁が破壊された場所に辿り着いた時、5匹の修羅鬼たちが魔物と壮絶な殴り合いをしていた。
狂気的な戦いを見て、きねが呆気にとられながら口を開く。
「なんとまあ、…………鬼じゃ、鬼がおるのぉ」
きねの存在に気付かず、オーガと魔物の殴り合いは続く。殴り過ぎて既に拳の骨は折れ、体は傷だらけ、それでもオーガは、血塗れになって暴れ狂う。
九尾をゆらゆらと動かして、きねは冷静に戦場を観察する。
(ふむぅ、どうやら弱体効果を受けておるのぉ。このままでは命が危ない、早く助けた方が良いなぁ。ふふっ、失うには惜しいバカ共じゃ)
深呼吸をした後、懐から扇を取り出すと、艶やかな黒髪と爆乳を揺らして、きねが舞う。
「固有技、多重の舞! …………それから妖狐族技、剛力、金剛、癒しの舞じゃ!」
きねが、殺伐とした戦場に似合わぬ優雅で妖艶な舞を踊ると、オーガたちの体に力が宿っていく。
固有技、多重の舞は、同時に複数の技を使用出来る効果があった。今回きねは、剛力の舞で物理攻撃力30%上昇、金剛の舞によって物理防御力を30%上昇させる。そして、癒しの舞で自動回復効果と状態異常回復効果を与えた。
我を失い暴れていたオーガたちは、自身の身に起きた変化に驚いた事で理性を取り戻す。そこでようやく、きねの存在に気付く。
すると、絶世の美女きねに見惚れ、戦闘中であるにも関わらず動きを止めてしまう。
「おい! 何を呆けておる! しっかりせんか、ちゃっちゃと魔物を倒すのじゃっ!」
「えっ!? お、おぅ! おい、野郎ども! よくわからんが、力が戻ったぞ。殴られた分だけ殴り返せぇ! おっしゃあ、ぶっ殺せぇーーっ!!」
「「「うぉぉーーっ!!」」」
ゲキが巨大な斧を拾い、握りしめて横なぎに振り回す────複数の魔物が肉片となり吹っ飛んでいく。
オーガたちの猛反撃を受け、魔物たちが次々と倒されていくと、慌てた1匹のヘビ形魔物が、弱そうなきねを見つけ突撃してくる。
その魔物に対し、きねは閉じた扇を向けた。
「くっはっはっ、燃えるがよい。固有技、火蝶扇!」
燃える超高温の扇投げの技、火蝶扇。
きねは適当に扇を投げたが、必中効果によって敵目掛け一直線に飛ぶ。回避出来ずに命中したヘビ形魔物は、苦しむ暇もなく灰になった。
改めて敵の強さを確認すると、オーガに向かってきねが叫ぶ。
「鬼どもぉ! 我が助太刀するぞ! さあ、蹂躙を開始するのじゃぁーーっ!」
きねとオーガたちが魔物を虐殺している時、キャンプ地の南門付近で、ワンコは様子をうかがっていた。
(おや? 南門の守備兵は、リザードマン10人ですかぁ。必要最低限ですね。きねの予想では、ボスが南門を攻めるはずですが、この数で防衛戦をする? 間違いなく、全滅するでしょう。さて、どうするか…………。やはり、私が戦うしかないかなぁ。いや、そもそも本当にボスが現れるのでしょうか? もう少し、敵の動きを探るのが賢明ですね)
ワンコは、隠れるため南門近くにあったテントへ入ると、自慢の耳を使い敵の動きを探った。
しかし、激しい戦闘音と怒声が邪魔をして、上手く敵の音を探れない。仕方なく、今度は嗅覚で索敵をするため、大きく息を吸い込んだ。
その瞬間、血と汗と排泄物などが混ざった激臭に、ワンコが襲われる。
「くさぁぁーーーい!! 臭い、臭い、臭い。鼻がぁーっ!」
鼻を抑えて悶え苦しむと、急いで嗅覚を強制的に止める。
何とか激臭から解放されても、ワンコの心に受けたダメージは回復しない。すっかりやる気を無くし、犬耳と尻尾が力なく垂れ下がっている。
放心状態になっていると、テントの外から討伐隊の隊長フレアの声が響く。
その声で、我に返ったワンコが外の状況を確認すると、フレアが多くのハンターを従えて南門に来たようだった。
「南門の警備兵たち、厳戒態勢をとれ! 今までの攻撃は、おそらく陽動だ。敵の狙いは、この南門だろう。全員、上級レベルの魔物が来ると覚悟しろぉ!」
「はっ! 隊長、了解です!」
(へぇー、敵の陽動に気付いたかぁ。さすが隊長を任される者、良い判断力ですね)
フレアの能力について、ワンコが考えていると急に尾の毛が逆立つ。
第6感が警鐘を鳴らす────強敵が来る。
テントから飛び出し、真剣な顔で南門を見つめていたワンコがつぶやく。
「来た」
次の刹那、爆音と土煙を上げて南門が吹き飛んでいく。
土煙の中から、虫系魔物と爬虫類系魔物が大量に現れた。その魔物を見ても、フレアは動揺せず的確な指示を出す。
「怯むなぁ! 1対1を避け、4人1組で戦えぇーっ!」
「はい、了解です!」
「皆、安心しろ! 私がここにいる! 魔物殺しフレアが、ここにいるぞぉーーっ!」
「うぉぉーーっ! 魔物を倒せぇーっ!」
「風魔法、サイクロン!」
「剣術スキル、撃破斬!」
(おぉー! 凄まじい気合いですね。フレア殿の判断力、求心力、見事です。気になるのは、戦闘能力ですが…………。ふむ、まだ助ける必要は無さそうですし、少し戦いを見学させてもらいましょう)
ワンコは、順調に魔物を倒していく様子から、手助けは不要と考えてフレアの戦いをじっくりと観察する事にした。
「ハァーーーッ! 剣術スキル、5連斬!」
(おぉー! 体の動きが良いですね)
「チッ、数が多い、雷魔法、サンダースピアー!」
「ふむふむ、なるほど…………)
「全員、呼吸を整えろ! 回復魔法、サークルヒール!」
(ふむぅ、フレア殿は優秀ですね。しかし、魔法ですか? ふぅ、やはり異世界、魔法が存在するとは驚きです。私たちの技と同じものでしょうか? 気になりますね)
魔物の数が少なくなると、本命のボスがゆっくりと姿を現す。
ボスは虫系魔物で、その姿はヘラクレスオオカブトに似ていた。ただし、サイズが超巨大で全長15メートルはある。
ボスの姿を確認したフレアは、即座に大声で指示を出す。
「全員、距離を取れ! あいつは上級レベルの魔物、死を告げるオオカブトだぁ! 攻撃するな、防御に専念しろ! 私が奴を倒す」
決意を込め、仲間を背にしてフレアが1人で、ボスの前に立ちふさがった。
次回予告、レイときね
「レイ、精霊の力で麹を作れるかのぉ?」
「突然、何を言い出すのですか?」
「発酵食品を作りたいのじゃ。手伝ってくれんか?」
「…………次回予告、ボスと戦います」




