魔物の襲撃
前回のあらすじ
夕食を食べて寝た。
夜の森は、暗闇で視界が悪く魔物を見つけにくい。そのため、討伐隊は夜の狩猟を控える。
しかし、夜目の利く魔物にとって夜は狩りの時間であった。
多くの魔物が獲物を求め、気配を消しキャンプ地に忍び寄る。何時もならば、連携が不十分な魔物たちは、適当に全方位からキャンプ地を襲撃していた。
だが、今回は違う。
知恵のある強力な魔物に統率され、組織的に動く。
討伐隊のキャンプ地に居る者の中で、誰よりも早く魔物を察知したワンコは、仲間たちに向かって大声を出す。
「敵襲! 早く起きてぇーっ!」
誠志郎たちが即座にベットから起き上がり、着ているミリタリーコスから通常の服に一瞬で着替えて身構える。
一方、ニャゴ丸は突然の出来事に驚き、ベットから転がり落ちて腰を打つ。
「いたたぁ、なんニャ? 何が起きたニャ~」
「魔物が襲って来ます! 数、約500。接敵まで数分の距離ですね」
「ふむぅ、おちおち眠っとられんのぉ」
「フニャー! 姐さん、助けてニャ~」
「おほほほ、ニャゴ丸さん、私の後ろに隠れていなさい。安全ですわよ」
ワンコから魔物の襲撃を告げられ、ニャゴ丸がベルの足にしがみつき騒いでいる中、レイは髪の色を変化させ目を閉じ索敵に集中していた。
レイは通常、虹色の髪だが精霊の力を使うとき、髪色が変化する。今、索敵のために風の精霊の力を使用しているので、髪は緑色だった
集中し索敵をしていたレイが、目を開け少し驚いた声を上げると顔を曇らせる。
「ご主人様、索敵が終わりました。ですが、途中で妨害され全容が分かりません」
「妨害された? …………あっ、精霊の影響を受けない強い魔物かぁ!」
「はい、おそらく…………索敵できたのは、213匹の魔物が集団となり突撃して来る事だけです。それ以上の事は、残念ながら分かりません」
豊満な胸を持ち上げる様に腕を組み、現在の状況を考えていたワンコが意見を言う。
「ふむ、少し変ですね。魔物の数は間違いなく500匹以上。なぜ、総攻撃をしてこない? 誰か魔物を統率できる者がいる、と、考えられますね」
「なるほどのぉ、魔物の群れを指揮するボスがいるのじゃな。知恵のあるボスがいるのならば、最初の攻撃は陽動じゃろう。派手な攻撃で注意を引き、その隙に横撃、背撃する。これは戦術の基本じゃぞ。それとも、波状攻撃をするつもりかのぉ」
「ご主人様、敵の動きが不明確ですけど襲撃されるのは、間違いありません。ニャゴ丸の護衛に専念しますか? それとも、キャンプ地の防衛に協力しますか?」
レイに判断を迫られ、誠志郎は即断できずに考え込む。
その時、大きな鐘の音がキャンプ地に響く。
すると、直ぐにテントの外は、無数の足音と男たちの大声で騒ぎになる。
「敵襲! 敵襲! 防衛体制を取れぇーっ!」
「おい、敵の数は? 種類は?」
「魔物が北から来るぞぉーっ!」
「隊長を早く呼べぇ!」
「非戦闘員は、中央の避難所に行けぇ! 自分の命は自分で守れぇ!」
男たちの騒がしい声が続いていく中、遂に戦闘が始まったらしく轟音と怒声の入り混じった戦闘音が聞こえて来る。
その音を聞いて、誠志郎は慌てて判断を下す。
「ニャゴ丸の身を守るのが最重要。それと、討伐隊の強さが分からないから、様子を見て必要なら援護をしたい。レイ、采配を頼む!」
「はい、任せてください。まず、外は危険ですから、ニャゴ丸はテントの中に居なさい。スイ、鎧に擬態してご主人様を守りなさい。ライ、ニャゴ丸の傍で護衛しなさい。きね、ワンコは討伐隊の戦闘を偵察しなさい。形勢不利ならば、味方の支援と敵の排除をするように。残りの者でテントを死守します。ご主人様、よろしいでしょうか?」
「あっ、あぁ、うん、各自、そのように行動してくれ。きね、ワンコ気を付けて、もし危険なら必ず撤退してね。それと、必殺技の使用を許可する。必要なら遠慮なく使って良い。いや、待って、極限技も許可するから、絶対に無事で帰ってくるように! 約束だよ、分かった?」
「御意」
「うむ、分かった。じゃが、本当に極限技を使っても良いのか?」
「もちろん。だけど、極限技は切り札だから出来るだけ使わないでくれ。あまり、奥の手を見せるのは良くないと思う」
不安顔の誠志郎に向かって、ワンコは頷くとニッコリ微笑んで掻き消える様に立ち去る。その後、きねは、不敵な笑みを浮かべテントを出て行く。
(2人とも、どうか無事に帰って来ますように。ワンコは最速のモン娘だから、危険な時でも上手く逃げれるはず。それに、夜になると能力が強化されるから大丈夫、だと思いたい。きねはバフ、デバフなどの支援を得意とするから、きっと役立つだろう。それと、彼女は俺なんかよりも遥かに頭が良い。乱戦になっても、上手く立ち回ってくれるだろう。…………大丈夫、2人は強い)
動きを止め、きねとワンコを心配している誠志郎に、力強い声でベルが話しかける。
「ご主人様、あの2人に心配など要りませんわよ。夜のワンコさんは控えめに言って最速。あの動きを捉える者などおりません。それに、嫌がらせの天才きねさんが戦場に向かったなら、心配なのは相手の方ですの。ふふっ、不安など感じる必要がありまして? おほほほ~」
金色の鎧を身に着け、自信に満ち溢れた態度でベルは高笑いをする。その姿は、神々しい美しさと独特の色気があった。
ベルの立ち振る舞いを見て、誠志郎は心に熱い炎が宿るのを感じる。
(この自信に満ちた姿こそ、味方に勇気を、敵に恐怖を与える殲滅女神ベルなんだ。凄いなあ。不安な気持ちなど完全に吹き飛んだ。俺もスイと共に戦おう!)
討伐隊のキャンプ地は、北と南に門があった。今回の襲撃では、北の門に集中攻撃を受けている。
きねとワンコが戦闘現場の近くに到着した時、既に北門が破壊され討伐隊の者が魔物を中に入れないよう、必死に食い止めていた
戦場から少し離れた場所で、ワンコは黒い犬耳と尻尾を動かしながら戦いの様子をうかがう。その隣で、きねは楽しそうに笑いながら胸の谷間から取り出した煙管をふかす。
「くっはっはっ、なかなかやりおる。討伐隊は予想以上に強いのぉ」
「ですが、少し押されている気がします。それに敵の数が少ない。やはり、横撃か背撃を狙っている様ですね」
「ふむぅ、この場所に波状攻撃を仕掛けてくる気配は無し…………。ならば、次は両脇を同時に攻めて混乱させ、本命のボスが背後から止めを刺しに来る。かもしれんのぉ」
「なるほど、いつごろ敵は動きますか?」
「うむ、そろそろじゃな」
きねが再び煙管をふかし、戦場をじっくり見つめていると、東と西の丸太壁が破壊される爆音が耳に届いた。
「あぁ、きねの予想が的中しましたね。どうします?」
「このままでは危険じゃな。ワンコ、討伐隊を助けるぞ。この場所は味方が優勢だから、大丈夫じゃろう。我は右、ワンコは左に行け。魔物を片付けたら、ボスの動きに気を付けるのじゃぞ」
「ふふっ、了解です。では、武運を」
ワンコは犬歯が見えるくらい口を開けて笑うと、瞬間移動に近い速度で戦場に向かう。
西の丸太壁が破壊された場所では、獣人のハンター8人が懸命に戦っていた。しかし、魔物の数は100匹近くいるため、敗戦が濃厚と思われる。
戦場に到着したワンコは、状況を理解すると直ぐに戦闘を開始する。
「あらまあ、獲物が多い。ふふっ、楽しいですね。では、固有技、黒刀新月」
モン娘が使える技は、種族技と必殺技だけだが、伝説のモン娘は特例として、さらに固有技と極限技も使えた。
ワンコの固有技、黒刀新月は影または闇から刀を創りだす技である。
自身の影から黒刀を創りだし、握りしめるとワンコは狂喜に満ちた声を上げて笑う。
「嗚呼、嗚呼、獲物を切り裂く感触、何と素晴らしい事かぁ。ふふっ、ふふふふっ」
苦戦しているハンターの1人が、刀を上段に構えているワンコの姿を見つけた時、自分の傍を何かが通り過ぎた感じを受ける。しかし彼は戦闘中であるため、気にせずワンコに助けを求めて大声を出す。
「おい、あんたぁ! 援軍を呼んでくれぇーっ! これ以上は無理だぁーー!」
「援軍? 面白い事を言いますね。もう戦闘は終わっていますよ」
「バカぁ、何言ってんだよ! 早く助けて…………くれ?」
ワンコの言っている意味が分からず、ハンターは怒鳴り声をあげたが、直ぐに違和感に気付く。
理由は不明だが、自分たちを襲っていた魔物が固まって動かない。ハンターの1人が恐る恐る魔物に触れた瞬間、全ての魔物が細切れの肉片に変わり崩れ落ちていく。
その様子を見て、ワンコが小さくつぶやいた。
「はぁぁ~~、動きが遅いですね」
ハンターが慌てて、ワンコに声を掛けようとしたが、すでに姿は見当たらなかった。
次回予告、きねとニャゴ丸
「ニャゴ丸、大豆はあるかのぉ?」
「豆ニャ? 一杯あったはずニャ~」
「ふむぅ、ならばアレを作れるかもしれん」
「何を作るニャ? 教えて欲しいニャ」
「我の好物じゃ」
「ニャンと! 楽しみだニャ。それじゃあ、次回予告ニャ~。次回は、きね姐さんが戦うニャー!」




