8. 鍛冶の町
俺の順番になり、部屋の中に入ると、かなり広い空間の真ん中にかなりデカい魔法陣が描かれた台が設置されていた。
そして俺は案内の人に従って、その魔法陣の中心に立つ。
するとローブを着た二人が別の扉から入ってくる。
恐らく、あれが転移魔法を使う魔法士なのだろう。
「この魔法陣はドムングル行きですが、間違いありませんか?」
案内の人が最後の確認を取る。
「はい、大丈夫です」
「それでは転送を開始します」
そう言うと、魔法陣がほんのりと光り出す。
なんかこの世界に来て初めてファンタジーの世界を見た気がする。
確かに鍛冶の中でも魔法みたいなのは使ったが、見た目は地味だからなぁ。
これは言うなれば、真っ暗な夜の中でホタルの光を見ているような感じだ。
そんな考えている内に光がどんどん弱まっていく。
そして終いには光が消えてしまった。
……あれ?
まさか、失敗したとか……。
そのまま沈黙が流れる。
「あの……どうかしましたか?」
間違いやすいと思うが、これは俺の質問ではない。
ローブを着た人からの質問だ。
俺は返答に困る。
いや、今の質問は俺がする質問じゃないかな。
「体調が悪いとか、ありませんか?」
心配そうな声色だ。
「あっ、大丈夫です」
とりあえず答えておく。
「そうですか。それでは向こうの扉の方へどうぞ」
いや、その扉は今さっき俺が入って来た扉だろ。
「あの〜、転送は……」
そう言うと、ローブを着た人はキッパリとこう告げた。
「えっ、転送ならもう終わりましたけど」
俺は気付かぬ内にドムングルに着いていたらしい。
恥ずかしかった。
魔法陣の光ばっかり見てて、周りの変化に全然気づかなかった。
とは言っても、転送部屋はどこも似たような造りになっていて、大して変化はなかったのだが……。
……忘れよう。
それよりもトンバ師匠の師匠さんに会わなければならない。
師匠さんの名前はワレリーというらしい。
カールさんに聞いてみると、それはそれは物凄い人らしい。
鍛冶レベル10って人が世界で4人しかいない、って言うんだから、当たり前といえば当たり前か。
そのワレリーさんだが、転移屋の前で待ち合わせ、という事になっている。
ドムングルは鍛冶の町というだけあって、至る所に似たような工房がある。
その中からワレリーさんの工房を見つけるのは至難であり、俺には無理だと言われた。
そこでワレリーさん本人に来てもらうという事になったのだ。
本当に申し訳ないが、辿り着けなければどうしようもない。
という訳で、転移屋の前に行くと、段差のところに一人の老人が腰掛けていた。
「あの〜、ワレリーさんですか?」
そう尋ねると、その老人は振り返ってニッコリと笑った。
「おおっ、君がユージロー君かい。待っていたよ。さぁ、早速儂の工房へ向かうとしよう」
そう言って、足早に歩いていく。
速い。
老人とは思えない程のスピードで歩いていく。
いや、もう歩くスピードではない。
俺は走ってる。
走らないと、ついて行けない。
これは試練なのだろうか?
俺は試されているのか?
そうこうしている内に結構な数の工房を通り過ぎ、一つのこじんまりとした工房の前でワレリーさんが止まる。
「ハァ……ハァ……」
俺は息切れする程走った。
対してワレリーさんは息一つ乱れてない。
おかしいな。
俺の瞬発力はステータス上では結構高かったはず。
あまり使わない《鑑定》を使うと、何とワレリーさんの瞬発力は640もあった。
追いつけないのも納得だ。
「おっと、すまないね。儂はちょっと歩くのが早くてね。トンバの奴にももっと歩くスピードを落とせ、とよく言われたよ。全然直らなかったがね」
これで、ちょっと、か。
ワレリーさんが本気で走ったら、どのくらいのスピードが出るんだろ?
「ようこそ、儂の工房へ。さぁ、早速だが、君の今の腕を見たい。剣を一本打ってみてくれ」
中に入ると、もう既に準備ができていた。
どうやら俺を迎えに来る前に準備を済ませてから工房を出たようだ。
用意周到なことで。
まあ、とりあえず一本打ってみよう。
今の自分が打てる最高の一振りを。




