12. 勇者との話
謁見が終わると日が暮れていたので、王城に泊めてもらった。
ベッドは凄くフカフカで部屋の内装も凄く豪華だった。
通常だと、落ち着かなかったり、気が引けたりするが、事情を聞くまでの緊張でかなり疲れたので、横になるとすぐに眠ってしまった。
よく考えると、警戒心が足りなかったと思うが、その時は本当に疲れていたので、仕方ない。
〜〜〜
目が覚めたのは朝だった。
久しぶりにこんなに長く寝た気がする。
目が覚めてからボンヤリしていると、扉の方からコンコン、と叩く音が聞こえる。
「失礼します。朝食のご用意をしました。お食事はどちらでされますか?」
「この部屋で食べます」
「分かりました。それでは朝食はこちらのテーブルに置いておきます。それとこちらに鈴を置いておきますので、何かございましたら、この鈴を鳴らして下さい」
そう言って、出て行った。
メイドさんだった。
まあ、王城だし、いてもおかしくない。
それにしても、さっきの質問に俺の部屋で食べるとは言ったけど、他にはどこで食べるのだろう?
まさかとは思うが、王様と食事とかではないよね。
……まあ、気にする事はない。
そう思って、朝食を食べると、それはそれはとても美味しい。
やはり王様が食べる物は違うな。
〜〜〜
朝食を食べ終えると、またコンコン、と扉を叩く音が聞こえて、
「お食事の皿を下げに参りました。それと勇者様がお話をされたいようですが、如何なさいますか?」
何を話したいのだろう?
まあ、俺は勇者とは一度話しておきたかったし、別に構わないが。
「分かりました。どこに行けばいいのですか?」
「ご案内致しますので、勇者様の元に向かわれる際はお呼び下さい」
そう言って、出て行く。
気がきくな。
朝食直後に向かうのは、流石に躊躇われる。
少しゆっくりしていこう。
〜〜〜
そしてメイドさんの案内で勇者の部屋まで来ていた。
豪勢な部屋かと思いきや、意外に質素な空間だった。
日本人だな。
きっと豪勢な部屋では落ち着かないのだろう。
「よく来てくれました。さぁ、どうぞこちらに座って下さい」
中には昨日の謁見の間にいた男の子がいた。
勧められるがままに椅子に座るとテーブルに紅茶が置かれる。
メイドさんの働きだ。
というかさっきから気になってたのだが、今朝からずっと同じメイドさんだ。
その事を勇者君に話すと、
「ああ、彼女は貴方の専属メイドですからね。それと僕はレンタローです。ちゃんと自己紹介をせずにすみません」
「俺はユージロー、ってもう知ってるか」
「はい、ユージローさんの話は大体聞いています。何でも工房の方で修行しているとか」
「ああ、俺は鍛冶スキルを持っててな。とりあえず生活していくには手に職を持たないといけないからな」
「はい、本当に巻き込んでしまってすみませんでした」
そう言ってレンタローは頭を下げた。
「いや、もういいって。気にしてないし、鍛冶も何だかんだで楽しいからな。文句なんてねえよ」
「そう言ってもらえると、こちらも気が楽です」
「それにしても勇者なんて大変だな。俺だったら絶対になりたくないぞ」
「まあ、確かに大変ですけど、毎日が新鮮で結構楽しいですよ。僕は向こうの世界ではずっと寝たきりだったので……」
「……辛かったよな。いきなりこっちの世界に飛ばされたんだろ」
こんな年の男の子が……。
実は俺もそんなに年が離れている訳ではないのだが。
「いや、実は僕は向こうの世界で死んだんです」
……あれっ、どゆこと?
「さっきも言いましたが、僕は病気で自由な生活ができませんでした。そこで手術を受ける事にしたのですが、手術は失敗して、そこで僕は死んだんです。そしてこちらに来る時に女神様に体を再構成してもらって召喚されました」
「……えっと、つまり君は転移ではなく、転生ってこと?」
「そうなるんですかね?」
結構向こうの世界に未練はなさそうだ。
「そっか。じゃあ、こっちの方が楽しいのか」
「……そうですね。剣の訓練とかも自分の技術を身につける時なんかは本当に楽しいです」
「あっ、それは俺も分かるかも。鍛冶でも打った剣の完成度が高くなると修行の甲斐があった、って思えるからな」
「ちなみに、今の鍛冶の腕前はどれ程のものなんですか?」
「よくぞ、聞いてくれた!ついに一昨日、鍛冶スキルのレベルが10になったんだよ。俺、本当に頑張ったんだからさ。毎日が地獄だったよ。ワレリー師匠の修行が厳しくてさ。何度、逃げ出そうかと思ったことか……」
「大変だったんですね。そうですか、鍛冶レベルが10になったんですか……」
あれ、ちょっと反応が薄い?
もっと驚いてくれてもいいのだが。
すると、レンタローの後ろに控えていた(恐らくはレンタローの専属の)メイドさんがレンタローの元に歩み寄る。
「レンタロー様、もしこちらの方の話が本当ならば、これは本当に凄い事ですよ。鍛冶レベル10の者は現在確認されている中では4人しかいませんから」
「4人?えっ、それってかなり凄い事じゃ……」
「はい、凄い事です」
「だろ、凄いだろ。俺は俺で頑張ってるんだよ。尤も、勇者の君には負けるけどね」
「いやいや、そんな……僕なんてまだまだですよ。まだまだ騎士団長に勝てませんし、勇者なのに……」
「騎士団長に傷を負わす事自体が既に凄い事なのですが……」
後ろのメイドさんからフォローが入る。
「騎士団長ってこの国最強の騎士って聞いたんですけど」
「はい、その通りです。しかも、この国の騎士団長は頭一つ飛び抜けた存在でして、彼に傷を負わせられるのは副団長だけと言われています」
今度は俺の後ろにいる俺専属のメイドさんから補足が入る。
「凄いじゃないか。それにたった三カ月ちょっとでそれなら……」
「ええ、騎士団長を追い抜く日は近いと噂されています」
つまりはこの国最強だ。
「いやいや、まだそんな段階ではありませんよ、確かに力押しなら勝てるかもしれませんが、経験なんかは全く追いつける気がしません」
「まあ、その辺りはよく分からんな。ところで、レンタロー君はどんなスキルを持ってるんだ?」
「ユージローさん、相手にステータスを尋ねるのはあまり良くない事なんです。気を付けた方がいいかもしれません」
「そうなのか?分かった。今後は気を付けるよ」
「僕のステータスでしたね。それならステータスプレートで見てもらった方が早いですね」
そう言って、レンタローは懐からステータスプレートを取り出した。
『レンタロー
HP:5200/5200
MP:2700/2700
体力:700
筋力:1050
瞬発力:500
スキル
「光魔法」
「成長補正」
「鑑定」
「アイテムボックス」
「礼儀作法」』
凄まじい。
HPとMPが共に4桁ってどうなの?
しかも筋力も4桁だし。
ステータスチートとはこの事を言うのだろう。
恐ろしい。
まあ、勇者だしな。
とはいえ、こんな奴と戦って勝っている騎士団長は本当に凄いな。
国王様はいい人そうだし、俺、この国に転移して本当に良かったな。
「凄いな。俺が勝ててる所が一つもないな」
ちなみに《鑑定》を使ったが、レンタローのステータスには『器用』はなかった。
もしあったら『器用』で勝ててたのに。
「まあ、勇者補正でしょう。最初から結構ステータス値は高かったですから」
「それだけじゃないだろう」
「まぁ、訓練で伸びた部分もあります」
「なら、努力した分だけでも自信を持て。何もかもが与えられたものだと考えるのは止めた方がいい」
そう忠告しておいた。
「はい、分かりました」
「俺も、もっと頑張んないとな。まだやる事も多いし」
あれっ、そう言えば、普通に昨日はここに寝泊まりしたけど、俺はいつ帰れるんだ?
レンタローに尋ねてみると、
「ああ、帰りたい時に言ってもらえばいつでも大丈夫です。そのままここにずっといてもいいんじゃないですか。国王様も何かお詫びをしたいと仰っていましたし」
なるほど、つまり今日帰ってもいいってこと?
「いや、そんなに厄介になるつもりはないよ。というより、今日帰ろうかな。実は今日まで休みなんだよ」
「今日、というのはちょっと早い気がしますが、そう言うのであれば帰りの手配をしましょう」
そう言ってレンタローは後ろに控えているメイドさんに何かをお願いすると、そのままメイドさんは退出していった。
「それじゃあ、少し話が長くなりましたが、お話できて良かったです」
「ああ、こちらこそ。何かあったら言ってくれ。出来る限り、協力するからな」
「それはこちらのセリフですよ。何か力になれる事があったら言ってくだい」
「ああ、そん時はよろしく」
そう言って俺はレンタローの部屋を出た。
やはり、その後ろには俺の専属メイドさんがついてきていた。




