10. 到達とその先
「……ハァ……ハァ」
今、俺の腕が悲鳴を上げている。
もうほとんど腕の感覚がない。
「ふぅ、そろそろレベルも上がっておるのではないか?」
俺の修行に付きっきりだったからな。
流石のワレリー師匠も額に汗を滲ませてる。
まあ、その程度の疲労で済んでいるのに驚きなのだが……。
《鑑定》でステータスを確認する。
『ユージロー
HP:240/240
MP:30/500
体力:110
筋力:100
瞬発力:480
器用:105000
スキル
「鍛冶 Lv.10」
「鑑定」
「アイテムボックス」』
ついに鍛冶スキルのレベルが10になった。
それに他のステータス値も上がり、全てのステータスが3桁になった。
努力が報われた。
MPが減ってるのは鍛冶で使ったからだ。
そのせいで余計に疲労が増したが……。
だが、そんな厳しい修行もレベル10になった後では必要ない。
勿論、これからも腕を磨いていくつもりだが、辛くない程度にする。
俺は解放されたのだ!
「おい、何を解放されたみたいな顔をしてる?まだやる事が残っとるぞ」
そうだ。
鍛冶スキルとは別の『何か』をまだ掴んでなかった。
いや、大体は掴んでる。
完璧にするにはあと一歩足りてない、といった状態だ。
「分かってますけど、今はレベルアップの余韻に浸っててもいいじゃないですか」
そう抗議を上げるが、ワレリー師匠は聞く耳を持たない。
「どれ、一本剣を打ってみろ」
鬼だ。
さっきまでの修行で腕をまともに動かせない。
「腕が動きません」
動かないものは動かない。
こればかりは気合でどうにかなるレベルを超えている。
「まあ、頑張った方か。分かった。ちょっと待っとれ」
そう言って、ワレリー師匠は部屋を出て行き、少ししてから液体の入ったバケツを持ってきた。
「これに手を突っ込んでみろ」
言われた通りに手を突っ込むと、みるみるうちに手の感覚が戻り、痛みや麻痺も和らいできた。
「これは質のいいポーションでな。効果抜群のハズだ。ほれっ、回復したらさっさと剣を打たんか」
まあ、腕も回復したし、剣を打つか。
そう言って、打つと何かが違う。
ここに来た時より腕は格段に上がった。
だが、同時に違和感が増した。
「どうだ?『何か』掴めたか?」
そう、分かった。
剣を完成させて気付いた。
ワレリー師匠は恐らくこうなる事を知ってて俺に剣を打たせたのだろう。
なるほど、確かにレベル10になると分かりやすい。
「ええ、この剣は完成度は高いけど……」
そうなのだ。
この一本の剣は剣として完成している。
剣として独立してしまっている。
本来、剣は剣士が振るう物だ。
だが、この剣は振るわれる事を目的としていない。
剣である事を目的としている。
つまり、完成度は高いが、実用性に欠けるのだ。
剣を振るったことがないから、何となくではあるが、そう感じた。
「そうだ、鍛冶スキルを頼りに打った剣は完成度は高いが、無難な剣になる」
つまり、新人兵士が鍛錬とかで使う普通の剣の完成度を高めたような物だ。
誰もが大体7割程の力を発揮できる剣。
それはそれで凄い剣なのだが、凄腕の剣士とかになってくると、物足りなく感じてしまうだろう。
その人の10割の力を発揮できるような剣を打つ、これが一流の鍛冶師に求められているのだ。
「その人に合った剣ですか?」
「そうだ。それには、その人の握りや剣の振り方、振る速度、といったものを全て見極める必要がある。これには長年の経験が必要だ。鍛冶レベルが10になって、やれる事は増えるが、やる事はそれ以上にある。鍛冶スキルが鍛冶の全てではないのだ」
確かに鍛冶レベルは10になったが、未だにトンバ師匠に届いているとは言えない。
そう簡単に追いつけるとは思ってないが……。
「まあ、それに気付いただけで今日は良しとしよう。ふむ、今日と明日は休みにする」
「……えっ」
まさかの休日である。
恐らくこの工房に来て初めての事だ。
一応、ワレリー師匠も気を遣ってくれたのかな。
さて、久々の休日。
楽しまなければ損だろう。
何をしようかな。
カランカラン……。
これは呼び出しの音。
この工房にお客のようだ。
「おいっ、ちょっと出てくれ」
奥の方からワレリー師匠の声が聞こえる。
大丈夫かな。
この工房に来るお客は少ない。
ワレリー師匠の鍛冶の腕は世界でもトップクラス。
やはり、客に売る剣は物凄く高い。
気に入った客には安くで売る事もあるが、基本は凄い額だ。
本人はお金には興味がないらしいが、やる仕事を減らすにはちょうどいいらしい。
おっと、いけない、お客を待たせてるんだった。
どうか怖い顔の人じゃありませんように。
どうか態度の悪い人じゃありませんように。
「はい、お待たせしました」
そう言って、ドアを開けると、
「突然、失礼します。こちらにユージロー殿はいらっしゃいますか?」
そこには鎧を着込んだ二人の兵士が並んでいた。
ワレリーの一人称を「儂」にしました。




