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勇者の俺より幼馴染が強すぎた件  作者: 丸いドーナツ


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7/10

村長の覚悟

隣のベッドでぐっすり眠っているエリザを見ながら、俺はなかなか寝つけずにいた。


マッサージのおかげで、身体の疲れはすっかり取れた。そこは本当に感謝している。


だけど……。


あんなに期待させるようなことを言っておいて、マッサージだけとは。


いや、何を期待していたんだ、俺は。


隣から聞こえてくるエリザの穏やかな寝息に、思わず目を向ける。


……可愛いな。


俺は慌てて寝返りを打ち、エリザに背を向けた。


明日からは勇者としての旅が始まるんだぞ。しっかり寝ておかないと。


そう自分に言い聞かせながら、俺は何度目か分からないため息をついた。


*


翌朝。


ぐっすり眠れたのか、エリザは朝から元気いっぱいだった。一方の俺は、寝不足のまま出発の支度をしていた。


そういえば、朝食が用意されているとエリザが言っていたな。


「エリザ、朝食を一緒に食べたらお別れだ。村に帰って、村長に伝えてくれ。薬は必ず届けるからって」


その言葉を聞いた途端、エリザの表情が変わった。


「えっ!? ちょ、ちょっと待ってよ、アルク!」


エリザは慌てて俺に詰め寄ってきた。


「私も一緒に連れていってよ! 村長にそんなこと言えないし……。それに、私だって役に立つんだから!」


「エリザ、これから先は危険な旅になるんだぞ」


「だから大丈夫だってば! 本当は内緒にして驚かせようと思ってたんだけど……」


エリザは胸を張り、得意げに宣言した。


「勇者パーティーの定番! 魔法使いエリザとは、私のことなの!」


俺はエリザを真剣な目で見つめた。


「悪いが、遊びじゃないんだ。エリザ、分かってくれるな」


「…………」


エリザの笑顔が消えた。


何か言い返そうとしたのか、唇がわずかに動く。だが、言葉は出てこなかった。


その瞳に、みるみる涙が溜まっていく。


「……アルクの、ばか」


エリザは涙を拭うこともせず、部屋を飛び出していった。


「なんで……いつもこうなるのよ……!」


廊下の向こうから、震える声が聞こえてきた。


「アルクの意地悪……おたんこなす!」


「おい、エリザ! 待てよ! どこへ行く気だ! ……それに、おたんこなすって何だよ」


しかし、このまま放っておくわけにもいかない。


昨日は分かってくれたと思っていたのに、どうして急に泣き出したんだ?


……ほんと、女は分からないや。


*


宿を飛び出したものの、エリザがどちらへ行ったのか分からない。


闇雲に捜すしかないのか。村なら、どこへ行きそうかすぐに見当がつくのに。


まったく、世話が焼けるな、エリザは。


とりあえず、大通りへ向かって走り出した。


カチコチモグラを倒してレベルが上がったおかげか、いつもより身体が軽い。足も驚くほど速く動く。


これなら、すぐに見つけられそうだ。


そういえば、あの近道を教えてくれたのもエリザだったな。


……仕方ない。見つけたら、ちゃんと話をするか。


*


アズール村――。


村を見下ろす山の中腹に、一人の魔族の男が立っていた。


男は眼下に広がる村を見渡すと、背後に控える配下たちに命じた。


「この村で勇者の印が発現したとの報告が入った。まだ勇者は村にいるはずだ。今なら簡単に殺せるだろう」


男は村を指さした。


「勇者を匿う者、邪魔立てする者も殺して構わん。行け!」


「はっ!」


三人の魔族が、それぞれ狼の魔物に跨り、山を駆け下りていった。


やがて、村の入り口に差しかかったときだった。


突然、狼の魔物たちが足を止めた。


「おい、どうした? 進め!」


しかし、狼たちは一歩も動こうとしない。耳を伏せ、尻尾を丸め、何かに怯えるように身体を震わせていた。


「何をしている! さっさと進め!」


魔族の一人が手綱を強く引いた瞬間、狼が激しく暴れ出した。


「うわっ!」


背中に乗っていた魔族が地面に投げ出される。


ほかの二頭も同じように主人を振り落とすと、一斉に踵を返し、森の奥へ逃げ去っていった。


「ちっ……何なんだ、あいつら! 勇者にビビったのか? 役立たずどもが!」


男は舌打ちすると、村へ視線を戻した。


「まあいい。探すのも面倒だ。村ごと皆殺しにしてやる」


三人の魔族は村へ踏み込むと、目についた村人に向かって、いきなり魔法を放ち始めた。


「うわああっ!」


悲鳴が上がる。


逃げ惑う村人たちに容赦なく魔法が撃ち込まれ、一人、また一人と地面に倒れていった。


「やめろぉ!」


村人の一人が鍬を握り締め、魔族に向かって突進した。


しかし、魔族は振り下ろされた鍬を片手で掴み、そのまま力任せに振り回した。


「うわっ!」


村人の手が柄から離れ、身体が地面へ投げ出される。


魔族は奪い取った鍬を持ち直すと、倒れた村人に向かって、その刃を突き立てた。


「ぐああっ!」


村人の悲鳴が響き、やがて動かなくなった。


そのときだった。


「やめろ!」


杖を手にした村長が駆けつけ、魔族たちの前に立ちはだかった。


村長は倒れた男の傍らに膝をつくと、身体に突き刺さった鍬を抜いた。そして、そっと瞼を閉じさせた。


「お前たち……なぜ、こんな村を襲う!」


村長は立ち上がり、杖を強く握り締めた。


「……いや、理由などどうでもいい。もうやめてくれ!」


その瞬間、村長の杖から淡い光が立ち上り、天へ向かって伸びていった。


(エリザ……頼んだぞ)


「メテオアロー!」


村長が杖を掲げると、無数の光の矢が現れ、三人の魔族へ一斉に降り注いだ。


「なっ……何だ、これは!?」


魔族たちが逃げようとしたときには、すでに遅かった。


光の矢が次々とその身体を射抜いていく。


「ぐあああっ!」


一人、また一人と魔族が倒れ、光の矢が地面に突き刺さった場所には、無数の小さな穴が開いていた。


最後に残った魔族が、信じられないものを見るように村長を見つめた。


「こ、こんな爺さんが……何で、こんな力を……! まさか、勇者は爺さんだったのか……!?」


次の瞬間、光の矢が男の身体を貫いた。


「があああっ!」


男はそのまま地面に倒れ、動かなくなった。


村長は杖を握り締め、ゆっくりと息を吐いた。


(……あと一回しか撃てん。頼む、もう敵はおらんでくれ)


しかし、その願いも虚しく、村長の前に新たな魔族が姿を現した。後ろには、先ほど逃げたオオカミの魔物が、こちらを睨みつけていた。


先ほどの三人とは、明らかに雰囲気が違う。


男は腕を組み、倒れた配下たちを冷ややかに見下ろしていた。


「馬鹿どもが。無闇に暴れるから、ネズミにまで牙を剥かれるのだ」


男はゆっくりと村長に視線を向けた。


「我々は勇者を殺しに来ただけだ。大人しく差し出せば、見逃してやる。分かったか?」


そして、村長の手にした杖を見つめ、目を細めた。


「……まさか、本当にお前が勇者だとでも言うつもりではあるまいな?」


村長の脳裏に、勇者に選ばれ、村人たちから祝福されていたアルクの姿が浮かんだ。


あのときの、嬉しそうな笑顔。


村長は杖を握り締め、ゆっくりと掲げた。


「……悪いが、わしが勇者アルクだ」

読んでいただき、ありがとうございます。


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今後ともよろしくお願いします。

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