エリザとアルク
王都――。
エリザは一体どこへ行ったんだ?
街中を捜してみたが、いまだに見つからない。
……そうだ。城の先にある噴水へ行ってみるか。昨日、エリザと待ち合わせをした場所だ。
噴水のある広場に着いたが、朝早いためか、人影はほとんどなかった。
……ここにもいないのか。
今日はエクシアとの約束がある。そろそろ教会へ向かわなければならない。
だけど、幼馴染一人を放っておいて、何が勇者だ。
俺は大きく息を吸い込み、思い切り叫んだ。
「エリザー! どこだー! 話をしよう!」
……周りから見たら、まるで痴話喧嘩だな。
そのとき、噴水の向こう側で、誰かがひょっこりと立ち上がった。
水しぶきで顔はよく見えないが、あの赤い髪は……。
「エリザ! お前を連れていかないのは、意地悪なんかじゃない! お前が大切だから、危険な目に遭わせたくないんだ!」
すると、噴水の向こうから声が返ってきた。
「私は、危険なんかどうでもいいの! アルクと一緒にいたいの……!」
やっぱりエリザだ。
「それに……私、頑張って魔法使いになれたんだから……。ちゃんと私を見てよ……」
噴水の向こうから聞こえるエリザの声は、今にも泣き出しそうだった。
……そうだよな。エリザだって、俺の知らないところで努力していたんだ。それなのに、俺は話も聞かず、危険だからと決めつけていた。
「……分かった。エリザの努力は無駄にはしない」
俺は噴水の向こうにいるエリザへ向かって、声を張り上げた。
「俺がお前を守ってやる! だから、一緒に行こう!」
「……アルク!」
次の瞬間、エリザが突然、目の前に現れた。
「うわっ!?」
勢いよく飛びついてきたエリザを、俺は慌てて抱き止めた。
「アルク、大好きっ!」
「お、おい、エリザ! そんなに勢いよく飛びつくなって!」
エリザは俺の胸に顔を埋めたまま、離れようとしない。
……まったく、仕方ないな。
俺もそっとエリザを抱きしめた。
気づけば、噴水の水しぶきで二人ともびしょ濡れになっていた。
*
一度宿に戻り、濡れた服を着替えることにした。
「エリザ、薬が見つかるまで俺も一緒に探してやるから、安心しろ」
「うんっ! ……えっ、薬?」
エリザが不思議そうに首を傾げた。
「勇者の旅じゃなくて……?」
「ん? 何か言ったか?」
「う、ううん! 何でもない!」
「そうか。それにしても、そんなに村長が怖かったとは知らなかった。ごめんな、エリザ」
「…………」
エリザはしばらく俺を見つめていたが、やがて小さくため息をついた。
「……もう。アルクのばか」
着替えを済ませた俺たちは、そのまま宿の食堂で朝食を取ることにした。
「そうだ、エリザ。この後は教会に向かうぞ。そこでエクシア様にお前のことを話して、一緒に行けるようにお願いしてみるからな」
エリザの動きがぴたりと止まった。
「……え、エクシアって、女の人?」
エリザは目を丸くしたかと思うと、今度は不満そうに口を尖らせた。
……何を考えているんだ、こいつは。
「ああ。聖女様だそうだ。昨日、城で会ったんだけどな。見たこともないほど美しい人だったぞ」
エリザの口が、さらに尖った。
……何か気に障ることでも言ったか?
*
朝食を終えた俺たちは、教会へ向かった。
教会の前に着くと、エリザが建物を見上げた。
「……ここに、エクシアって人がいるの?」
「ああ。昨日、ここで待ち合わせる約束をしたんだ」
「……ふーん」
エリザは相変わらず口を尖らせている。
……どうしたんだ、こいつ。
教会の中に入ると、一人のシスターが出迎えてくれた。
「勇者アルク様ですね。エクシア様がお待ちです。こちらへどうぞ」
俺たちはシスターに案内され、奥の部屋へ向かった。
シスターが扉を軽く叩く。
「エクシア様、勇者アルク様がお見えになりました」
「どうぞ、お入りください」
扉が開き、エクシアが姿を現した。
「お待ちしておりました、アルク様」
エクシアは穏やかに微笑むと、俺の後ろに立っているエリザへ視線を向けた。
「……そちらの方は、どなたでしょうか?」
*
アズール村ーー。
村長は杖を高く掲げた。
すると、杖が手を離れ、天へと舞い上がった。
「メテオアロー!」
次の瞬間、杖に無数の亀裂が走り、砕け散った。その破片から放たれた無数の光の矢が、魔族へと襲いかかる。
魔族は背後に控えていた三匹の狼の魔物のうち、二匹を掴むと、迫り来る光の矢に向かって投げつけた。
「ギャウッ!」
二匹の身体に無数の光の矢が突き刺さる。
魔族はその隙に片手を前へかざし、魔法を放った。燃え上がる炎が渦を巻き、残りの光の矢を次々と飲み込んでいく。
光の矢が地面に突き刺さり、魔族の周囲には無数の小さな穴が開いた。しかし、魔族自身は無傷だった。
魔族はゆっくりと村長に歩み寄ると、胸ぐらを掴み、軽々と持ち上げた。
「終わりのようだな。勇者はどこだ? これが最後の機会だ」
村長は苦しげに顔を歪めながらも、魔族を睨みつけた。
(アルク……いや、勇者よ。世界を頼んだぞ)
「ぐあっ……だから、言っただろう……。わしが……勇者だと……!」
魔族は鼻で笑うと、村長を残った一匹の狼の魔物の前へ放り投げた。
「餌だ。食え」
狼の魔物が村長に飛びかかった。
「アアアッ! グァァァッ!」
村長の悲鳴が村中に響き渡った。
魔族はその声を気にも留めず、村を見渡した。
「勇者の居場所を教えた者だけは助けてやる! 知っている者は、今すぐ前に出ろ!」
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