エリザの聞き逃し
俺とエクシアは、兵士に案内されて謁見の間へと入った。
広々とした室内には彫刻が施された重厚な柱が並び、奥の一段高くなった場所には豪華な玉座が置かれている。
そこに腰を下ろしていた国王は、俺たちが玉座の前まで進むと、ゆっくりと立ち上がった。
エクシアが片膝をついたので、俺も慌ててそれにならい、頭を下げる。
足音が近づき、俺たちの前で止まった。
「勇者アルク、そして聖女エクシアよ。よくぞ参ってくれた。二人とも、面を上げてくれ」
ゆっくりと顔を上げると、目の前には国王が立っていた。
その表情には、どこか疲れが滲んでいる。
「まだ若い二人には、過酷な旅になるかもしれん。だが……北のロディニア王国が、一夜にして滅びたという報せが届いておる」
「北の国が……一夜で!?」
思わず息を呑んだ。
村を出てから魔物とは戦ってきたが、まさか一つの国が滅ぼされるほどの事態になっているとは……。
国王は重苦しい表情を浮かべ、言葉を続けた。
「魔物は日々増え続けておる。このままでは、ほかの国も同じ運命を辿るやもしれん。魔族……そして、その頂点に立つ魔王を倒さぬ限り、この世界に未来はない」
国王は俺たちをまっすぐに見据えた。
「勇者アルク、聖女エクシア。二人に問おう。魔王を討ち、この世界に平和を取り戻してくれるか?」
俺は隣にいるエクシアへ目を向けた。
エクシアは何も言わず、静かに俺を見つめている。その眼差しに迷いはなかった。
俺も覚悟を決め、国王へ向き直った。
「はい! 必ず魔王を倒して、この世界に笑顔を取り戻してみせます!」
続いて、エクシアが口を開いた。
「私は聖女として勇者アルクを支え、ともに使命を果たすことをお約束いたします」
国王は俺たちの言葉を聞くと、深く頷いた。
そして、思いがけない行動に出た。
俺とエクシアの前にしゃがみ込み、それぞれの手にそっと自分の手を添えたのだ。
「……よくぞ言ってくれた。アルク、エクシアよ」
その声は、先ほどまでの威厳に満ちたものとは少し違っていた。
「必ず、生きて帰ってくるのだぞ」
思わず国王の顔を見つめた。
そこにあったのは、世界の命運を託す国王の顔ではなく、二人の若者を心配する一人の人間の表情だった。
*
国王からは、旅に必要な装備や道具を明日までに用意しておくので、城へ受け取りに来るようにと言われた。
エクシアからは教会に泊まっていくよう勧められたが、エリザがいるので丁寧に断った。明日の朝、教会まで迎えに行く約束をして、エクシアとは一度別れることにした。
さて、エリザはもう戻ってきているだろうか。
俺は待ち合わせ場所の、城の前にある噴水へと向かった。
*
ちょっと大胆だったかな……?
可愛い服がたくさんあって迷っちゃったけど、アルクが好きそうなこの服に決めたんだ。
ふふっ。早く見せたいな♡
それに、宿の準備もばっちり!
お金ならモンスターからたくさん頂いたし、二軒の宿にあった空き部屋は、全部押さえちゃった。
だ・か・ら!
アルクと同じ部屋に泊まることになっちゃうよね♡
ふふふっ……。
あっ、いけない! よだれが出ちゃった。
あとは、アルクと一緒に旅をする理由だけ。
これさえ何とかなれば、ずっとアルクのそばにいられるんだよね♡
よーし! 先に噴水の前で待って、アルクを驚かせちゃおう!
*
噴水が見えてきた頃、向こうから手を振っているエリザの姿が目に入った。
「アルクー! こっち、こっち!」
……あれ? 服が変わっている。
さっきまでとは違う、ずいぶん大人っぽい服装だ。
というか、ちょっと胸元が開きすぎじゃないか……?
いや、まあ……正直、ちょっと嬉しいけど。
俺は慌てて首を左右に振り、邪念を振り払った。
いやいや、何を考えているんだ、俺は。ついさっき、国王の前で世界を救うと誓ったばかりだろ!
俺は気を引き締め直し、エリザに声をかけた。
「待たせたかな、エリザ。村長の薬は買えたのか?」
「ううん、私も今来たところだよ。それよりアルク、どうしよう……」
エリザは俯きながら答えた。
「村長の薬、手に入らなかったの……」
「薬が手に入らなかったのか。何ていう薬なんだ? 一緒に探してやるよ」
すると、エリザはぱっと顔を上げた。
「ほんと!? さすが勇者アルク様!」
……ん? さっきまで落ち込んでいたのに、急に元気になったな。
「でもね、その薬は魔物の影響で、もうずっと王都には入ってきていないんだって。だから、ほかの街を回って探すしかないみたいなの」
「そうなのか……」
「ねえ、アルク。私も旅に連れていってくれない? 薬を持って帰らなかったら、村長に怒られちゃうもん。お願い、アルク!」
エリザと村長には悪いが、ここから先の旅に連れていくわけにはいかない。
魔王を倒すための旅だ。これまでとは比べものにならないほど危険になるだろう。
ここは、きっぱり断らないとな。
俺はエリザの両肩にそっと手を置き、まっすぐに目を見つめた。
「エリザ、悪いが、ここから先の旅は危険なんだ。だから、一緒に連れていくことはできない」
そして、少しでも安心させようと言葉を続けた。
「でも、薬の名前を教えてくれれば、俺が必ず見つけて村に届けるようにする。だから、安心してくれ」
エリザは顔を斜めに向け、耳まで真っ赤になっていた。
……どうしたんだ?
「エリザ……聞いてるか?」
「う、うん……聞いてるよぉ……」
……本当に大丈夫か?
*
えっ!? い、今、アルクは何て言ったの!?
だって、いきなり両肩を掴んで、あんな真剣な顔で見つめてくるから……。
てっきり、キスされるのかと思っちゃったじゃない!
ドキドキしすぎて、何も聞いてなかったよぉ……。
もう一回言って、なんて恥ずかしくて聞けないし……。
ど、どうしよう……♡
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