エリザの嫌な予感
俺とエリザは、ようやく王都の入口にたどり着いた。
確か、王都は聖女エクシアが張った聖なる防壁に守られていて、普通の魔物は中に入れないと聞いている。
門の前には、一人の兵士が立っていた。
「アールズ村から来たアルクです。勇者の印が現れたので、王様にお会いしたいのですが」
俺が右手の甲にある勇者の印を見せると、兵士は驚いた表情を浮かべ、すぐに姿勢を正して敬礼した。
「勇者アルク様ですね! お待ちしておりました。国王陛下は、王都の中央にある城でお待ちです。どうぞお進みください!」
「ありがとうございます」
俺は兵士に礼を言い、エリザと一緒に門をくぐった。
そのときだった。
――バチバチバチッ!!
突然、何かが激しく弾けるような音が鳴り響いた。
「な、何だ!?」
俺と兵士は驚いて辺りを見渡し、思わず顔を見合わせた。
すると、エリザが俺の腕にしがみついてきた。
「きゃっ! 何の音!? 怖いわ、アルク!」
「大丈夫か、エリザ?」
しばらくすると、音は何事もなかったかのように鳴り止んだ。
兵士は狼狽えた様子で、しきりに空を見上げている。
……一体、何だったんだ?
まあ、何も起きていないようだし、とりあえず城へ向かうとしよう。
「エリザ、俺は城で王様に謁見してくるから、お前は村長の薬をもらってきてくれ。終わったら、城の前にある噴水で合流しよう。いいな?」
「わかったわ、アルク! じゃあ、また後でね。待ってるから!」
俺はエリザと別れ、一人で城へと向かった。
やがて、目の前に立派な城門が見えてきた。
城門を守る兵士に、先ほどと同じように勇者の印を見せると、兵士は敬礼し、もう一人の兵士が慌ただしく城内へ駆け込んでいった。
しばらくすると、その兵士が二人の兵士を連れて戻ってきた。
……あれ?
見覚えのある顔だ。
なんと、村の入口で縄に縛られていた兵士たちだった。
「ゆ、勇者様! お、お待ちしておりました。お、お一人でここまで来られたのですか?」
二人の兵士は、なぜか俺の後ろを気にしている。
そういえば、王都までたどり着くことが最初の試練だと言っていたな。
エリザと一緒に来たけど、問題ないんだろうか?
「城には一人で来たけど、道中は村の人を護衛しながら王都まで来たんだ。問題ないよな?」
その言葉を聞いた兵士は、一瞬ピクッと身体を震わせた。
だが、すぐにほっとしたような表情を浮かべた。
「ご、護衛ですか! さすが勇者様! もちろん、何も問題ございません! さあ、こちらへ。国王陛下がお待ちかねです!」
兵士たちは、どこか嬉しそうに俺を城内へ案内し始めた。
*
王都の東に建つ大教会。その一室。
(先ほどの感覚は……まさか、結界を破られた?)
ほんの一瞬だった。
勘違いかもしれない。
だが、もし本当に結界を破って侵入してきた者がいるのなら……。
それは、とんでもない力を持つ存在が王都に入り込んだことを意味する。
(……魔王クラスかもしれない)
そのとき、部屋の扉がノックされた。
「エクシア様。先代がお告げになられた勇者様が、王都に到着したと門兵より連絡がございました」
(勇者に反応しただけならいいのだけれど……)
よし、まずは勇者を見定めてみよう。
「わかりました。支度をして城へ向かいます」
*
村長の薬なんて、本当はないんだよね。
でも、アルクと一緒にお城へ行くのは、さすがにまずいかな?
無理についていって嫌われちゃったら嫌だし、別行動にして正解だったかも。
それより、今夜の宿をどうしようかな。
そうだ! 宿の部屋が一つしか空いていないようにしちゃおうかな?
そうすれば、アルクと同じ部屋で……。
きゃーっ! はしたないぞ、エリザ!
ふふふっ。
……そういえば、王都に入った瞬間のバチバチって音、何だったんだろう?
王都の結界にしては、ずいぶん貧相だったし……。
うーん、分かんないな。
まあ、いっか!
それより、可愛い洋服を探しに街を見て回ろう!
アルクの好みは、しっかり分かってるんだから♡
*
俺は謁見の間の手前にある控室へ案内され、しばらく待つように言われた。
部屋には立派な調度品が並び、柔らかな椅子が置かれている。
こんな豪華な部屋に通されるなんて、勇者というのは本当に特別な存在なんだな。
そんなことを考えていると、扉を叩く音がした。
コンコン。
「失礼します」
扉が開き、法衣をまとった一人の女性が入ってきた。
顔の半分はベールに隠れていて、表情まではよく分からない。
女性は俺の瞳をじっと見つめると、静かに問いかけた。
「アルク。あなたは、勇者とはどのような存在だと考えていますか?」
……いきなり何を聞くんだ、この人は。
王様に会う前の試験か何かだろうか。
俺は少し考えてから答えた。
「勇気を持って、誰かを守る者だと思います。小さな命も、王様の命も、分け隔てなく守れる人間です」
女性は俺の言葉を聞くと、しばらく考え込んだ。
そして、静かに口を開いた。
「……そうですか。では、勇者の証である印を見せてもらえますか?」
「あ、はい」
俺は椅子から立ち上がり、女性の前に右手を差し出した。
女性は勇者の印をじっと見つめると、俺の手を両手でしっかりと握りしめた。
そして、次の瞬間――。
俺の手の甲に、そっと唇を重ねた。
「……えっ!?」
突然のことに驚き、思わず手を引っ込めそうになった。
い、いきなり何をするんだ、この人は!?
そのとき、右手の甲に刻まれた勇者の印が輝き始めた。
女性はゆっくりと唇を離し、顔を覆っていたベールを上げた。
そこには、今まで見たこともないほど美しい顔があった。
「勇者で間違いないようですね。アルク、私は聖女エクシアと申します」
その瞬間、手の甲から放たれた光が俺の全身を包み込んだ。
胸の奥へ、熱い想いが次々となだれ込んでくる。
それと同時に、見たこともない剣の構えや足運び、敵の攻撃をかわす動きが、まるで以前から知っていたかのように頭の中へ流れ込んできた。
「驚かせてしまいましたね。本物の勇者であれば、こうして過去の勇者たちの想いが受け継がれるのです」
気づけば、俺の頬を涙が伝っていた。
悲しいわけじゃない。
胸の奥が熱い。それなのに、不思議なほど温かかった。
エクシアはそんな俺を見つめると、そっと抱きしめてくれた。
「エクシア様……今、確かに歴代勇者たちの想いが俺の中に流れ込んでいます。熱くて、でも温かくて……とても優しい想いです」
「まだ十六歳のあなたには、これから辛い旅が待っているでしょう」
エクシアは静かに言葉を続けた。
「一緒に行きましょう。私の使命として、必ずあなたをお守りいたします」
*
……何だろう。
なんだか、すごく嫌な予感がする。
私は足を止め、遠くに見えるお城をじっと見つめた。
アルク……大丈夫だよね?
どうか、何事もありませんように。
私は胸の前で両手を合わせ、アルクに変な虫がつかないように祈った。
読んでいただき、ありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価をしていただけると励みになります。
今後ともよろしくお願いします。




