勇者は王都を目指します。
しばらくして、ようやく兵士たちが目を覚ました。
三人は顔を見合わせると、まだ青ざめた顔で俺に告げた。
「ゆ、勇者様には、歩いて王都まで来ていただきます。そ、それが試練なのです。勇者としての……!」
そう言い残すと、兵士たちは慌てて馬車に乗り込み、逃げるように王都へ帰っていった。
……歩いて王都まで行くのが、勇者の試練か。
つまり、王都までの道にいる魔物を倒し、人々の安全を守れということだな。
よし、やってやるぞ!
俺は一度家に戻り、亡き父の形見である剣を腰に差し、鎧を身につけた。
準備を整え、いよいよ王都へ向かおうとした、そのときだった。
村長がエリザを連れて、俺の前に現れた。
なぜか村長は、滝のような汗をかきながらぎこちない口調で話し始めた。
「ア、アルク。王都へ行くなら、エリザも一緒に連れていきなさい。王都でしか手に入らない薬があってな。わしがエリザに頼んだのじゃ」
村長の後ろでは、エリザがニコニコと可憐に微笑んでいる。
「いや、でも王都までの道には魔物も出るはずだ。馬車でも丸一日かかるんだぞ。俺一人で行きたいんだけど……」
その瞬間、エリザの笑顔がピクッとわずかにこわばった。
「バ、バカモン! エリザを一人で行かせるつもりか! 人一人守れんで何が勇者だ、アルクよ!」
村長は一度言葉を切り、ちらりと後ろのエリザを振り返ってヒッと息を呑んだ。
「い、いや、違うな! 言い直すぞ! お前はそんな冷酷な奴ではない! エリザを連れていきなさい! それから、王都に着いてもしばらくは絶対に一緒にいるのじゃ。わかったな!」
「……そこまで言うなら、わかりました」
俺が答えると、エリザはパッと表情を輝かせた。
「やった! ありがとう、アルク!」
……村長、今日はずいぶん様子がおかしいな。
「まあ、いいか。エリザ、王都までだぞ。勇者の旅は危険だからな。俺から離れるなよ。魔物が出たら危ないからな」
「はーい! やっぱり私の勇者じゃない、アルクは!」
「……」
兵士たちといい、村長といい、なんだか様子がおかしい。
そんな疑問を抱えながらも、俺たちは王都へ向けて村を出発した。
道中は驚くほど順調だった。
魔物どころか、狼一匹にさえ出くわさない。
……勇者である俺を恐れて隠れているのか?
隣を歩いていたエリザが、自信満々の笑顔で話しかけてきた。
「アルクを恐れて、何も出てこないね! さっすが勇者じゃん!」
「それとね、お弁当を作ってきたの。食べようよ、アルク!」
そのとき、森の奥からただならぬ気配を感じた。
何者かがこちらの様子をうかがっているようだ。だが、警戒しているのか、姿を現す気配はなかった。
エリザも一緒にいることだし、無用な戦闘は避けたい。
「森を抜けたら、エリザの弁当を食べるか。お腹も空いたしな。ありがとう、エリザ」
辺りはすでに日が暮れ、暗くなっていた。
森を抜けて草原に出たところで、火を起こして休憩することにした。
勇者の加護のおかげか、疲れはほとんど感じない。
だが、エリザは道中ずっとスキップしていたというのに、まるで疲れた様子がない。
そんなエリザに目を向けると、嬉しそうに食事の準備をしていた。
「アルク、お弁当の準備ができたよ! たんと食べてね。いっぱい作ってきたから!」
エリザが広げた弁当箱は、なんと豪華な五段重ねのお重だった。
「エリザ、あ、ありがとう。たくさん食べるよ……」
*
お弁当を美味しそうに食べているアルクを眺めながら、私はさっきの作戦がうまくいったことを思い出していた。
――少し前のこと。
アルクと一緒に王都へ行くには、どうすればいいかしら。
考えるのよ、エリザ。
自分から「ついて行きたい」って言っても、真面目なアルクには断られるかもしれない。
それに、重い幼馴染だと思われちゃうのも嫌だし……。
そうだ! 村長にお願いしよう!
私はさっそく村長の家へ向かった。
「村長! エリザです。ちょっと相談があるんだけどー!」
「あ、あああっ! エ、エリザさんではないですか! ど、どうぞ、お上がりください!」
「時間がないから手短に言うね。私、アルクと一緒に王都へ行きたいの。だから、アルクにうまく話してくれないかな?」
「む、村から出ていってくださるんですか!? わ、私から勇者アルクを説得いたします! 必ず!」
ふふっ、村長ったら、私が村を出ていくのがそんなに嬉しかったのかな?
ずいぶん張り切って説得してくれたなぁ。
もしかして、私とアルクがお似合いだって思って応援してくれたのかな?
ふふっ、嬉しい!
それに、道中ずっとアルクに高位の身体活性と治癒魔法をこっそり重ねがけしておいたから、アルクも全然疲れてなさそう。よかったぁ。
……それにしても、今は広い草原で二人っきりなんだよね。
アルクと、私が。
こんなところで、もしアルクが急に抱きしめてきたりしたら……。
い、いやぁん! はしたない!
*
……それにしても、こんなにたくさんの料理、いつ作ったんだ?
まあ、美味しいからいいんだけど。
俺はエリザを眺めながら、弁当を食べ続けた。
そういえば、村で同年代の女の子と仲が良かったのは、エリザだけだったな。
ほかの女の子とも仲良くなったことはある。だが、なぜか次の日には、みんな怯えたような顔で俺を避けるようになっていたんだよな。
何が悪かったのか、結局わからなかった。
女の子の考えることって、難しいよな。
その点、エリザは昔から変わらず俺のそばにいてくれた。
だからこそ、しっかり守ってやらないと。
「エリザ、悪いけど、もうお腹いっぱいだ。俺が見張りをするから、少し仮眠を取ってくれ。勇者の加護のおかげか、疲れもないし、いつも以上に元気なんだ。心配するな」
「悪いよ。アルクに護衛までさせておいて、私だけ寝られないよ」
「まだまだ先は長いんだ。女の子なんだから、ちゃんと休めって。わかったな?」
「もう! わかったわよ。じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらいまーす!」
*
アルクって、ほんと優しくて素敵すぎる〜!
私のことをこんなに心配してくれるなんて。
でも、私は大丈夫だからね。
……アルクには、あとでちゃーんと寝てもらいますからね♡
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