村から出発できない。
私は転生者。ゼルファの魂をずっと追い続けている。
最初の人生で、私は取り返しのつかない過ちを犯した。
だから、今度こそ同じ過ちは繰り返さない。
そう、心に誓った。
*
俺の名はアルク。勇者に選ばれた男だ。
十六年前、ある予言が告げられた。
『この日に生まれた子供の中から、十六歳の誕生日に勇者の印を宿す者が現れる』
そして今日、十六歳の誕生日を迎えた俺の右手が、突然眩い光を放った。
光が収まると、右手の甲には予言にあった勇者の印が浮かび上がっていた。
ずっと夢見ていた勇者に、俺はなれたのだ。
幼い頃から、剣士だった父に憧れていた。
父は村を守るため、毎日のように剣を振り、周辺に現れる魔物を退治していた。
そんな父も、数年前に病で亡くなった。
それからは俺が父の剣を受け継ぎ、村の周辺を見回っては魔物を倒してきた。
そして、ついに勇者に選ばれた。
俺は亡き父に、心の中で誓った。
――父さん、俺が世界を救ってみせる。
村の人たちも、俺が勇者に選ばれたことを大いに喜んでくれた。
「村の英雄だ!」
「お前は村の誇りだ!」
皆に囲まれ、次々と祝福の言葉をかけられた。
勇者の印を持つ者は、王都へ赴き、国王に謁見しなければならない。そのため、王都から迎えの馬車が来る手筈になっていた。
だが、王都へ向かう前に、不可解な出来事が起きた。
迎えに来たはずの三人の兵士が、縄でぐるぐる巻きにされ、村の入口に転がされていたのだ。
俺は慌てて兵士たちに駆け寄り、縄を解こうとした。しかし、結び目は石のように硬く締まっていて、びくともしない。
「……どうして縛られてるんだ? 今助けるから、待ってろ」
もう一度、力いっぱい縄を引っ張ってみる。
「何だこれ、硬すぎるだろ。誰がこんなことを……」
兵士たちは顔を真っ青にして、ガタガタと震えている。
何があったのか尋ねても、誰一人として答えようとしない。
ようやく一人が口を開いたかと思えば、震える声で懇願してきた。
「お、お願いです、勇者様……! どうか、我々を王都へ帰してください……!」
そのときだった。
「アルク! 勇者に選ばれたんだ! すごいじゃない! おめでとう! さすが私の勇者!」
背後から、聞き慣れた声がした。
振り返ると、そこには同い年の幼馴染、エリザが立っていた。赤い髪の綺麗な子だ。
いつもと変わらない、とびきり明るい笑顔を浮かべている。
「おう、ありがとな、エリザ。お前だけの勇者じゃないけどな」
俺が答えた、その直後だった。
背後から、歯をガチガチと鳴らす音が聞こえてきた。
振り返ると、兵士たちが先ほどにも増して激しく震えている。
「大丈夫ですか?」
エリザが可憐な笑みを浮かべ、兵士たちに近寄っていった。
すると、兵士たちはまるで死神でも目撃したかのように目を見開き、次々と気を失ってしまった。
……長旅で疲れているのかな?
*
アルクが村のみんなから祝福されていた頃、本当は私も一緒にお祝いしたかったんだけど、先にやっておきたいことがあった。
だって、アルクが王都へ行くんだもん。
王都までの道には魔物がいるって聞いたし、危ない目になんて遭わせられない。
だから、先に全部追い払っておかなくちゃね。
……でも、魔物って怖いのよね。
できれば戦いたくないし、怪我だってしたくない。
だけど、アルクのためなら大丈夫!
よし、頑張ろう!
そんなことを考えながら森を進んでいると、木々の向こうに大きな影が見えた。
……あれ? こんなところに、でかい鳥がいる。
近づいてみると、十メートルはあろうかという、翼の生えた巨大なドラゴンだった。
ドラゴンが尾を振り回すと、数本の木々が薙ぎ倒された。
『ここはガイヤドラゴンが治める地。早々に立ち去るがよい、小娘が』
うわぁ……大きい。
でも、こんなのがアルクの前に現れたら大変だよね。
「アンタ、ここのボスね。今からここのボスは私だから。いいわね?」
ドラゴンは体に蒼白い光をまとわせた。周囲の空気がバチバチと震え始める。
『黙って聞いておれば、好き勝手言いおって! 死ぬがよい、小娘が!』
ドラゴンは口から蒼い炎を吐き出した。
炎は地面を削りながら、こちらへ迫ってくる。
その瞬間、私の両手の甲が輝き出した。
地面の土が浮き上がり、木々が激しく揺れ始める。
迫り来る蒼炎を、私は片手で弾き飛ばした。
弾かれた炎は周囲の木々を焼き払い、岩さえも溶かしていく。
ガイヤドラゴンが驚愕したように目を見開いた。
「仕方ないわね。死んでも知らないわよ。ギガストーム!」
私の周囲に、凄まじい風が巻き起こった。
風は瞬く間に巨大な竜巻となり、土や岩、樹木を巻き上げながらガイヤドラゴンへと迫る。
『なっ……!?』
逃げる間もなく、ガイヤドラゴンの巨体は竜巻に飲み込まれた。
巨体が岩や樹木とともに天高く吹き飛ばされ、轟音を響かせながら地面に叩きつけられる。
私は倒れたガイヤドラゴンの前に立ち、その顔を見下ろした。
「ここのボスは私だから。分かった?」
『……ひぃ! そ、その紋章……あなたは……!』
「この周辺の魔物に、ここから立ち去るように伝えなさい。いいわね? じゃないと、ここ一帯を更地にするから」
『……仰せの通りに』
よかったぁ。ちゃんと言うことを聞いてくれた。
これでアルクも安心して王都へ行けるね。
あとは馬車だけ。
いつ来るのか、見張っておかなくちゃ。
だって、あの馬車にアルクが一人で乗っていっちゃったら、私が一緒に付いていけなくなっちゃうじゃない。
アルクと離れ離れになるなんて、絶対に嫌だもんね。
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