ep2 初めての敵
「待って! そこ、罠あるよ!」
彼女は床を指さした。
「え? ほんとに?」
あれから数時間ずっと探索しているけど、罠が大量に仕掛けられている。それを、彼女は全部簡単に見破っている。
「何の罠があるの?」
「下に落ちる罠だよ? 試してみる?」
試さないですよ!?
彼女は床に落ちていた石ころを拾い、罠のある場所に勢いよく投げた。
よかった、流石に自ら落ちにはいかなかったみたいで。
ゴンッ! という音とともに、大きく開いた穴の底へ石ころは落ちて行った。
「本当だ……凄いね、なんでわかるの?」
ずっと聞きたかったと思っていた疑問を、私はやっと言えた、スッキリしたな。
「それはね、『センサースキル』を持ってるからだよ」
「センサースキル?」
「うん、罠とか敵の位置とかが、わかるようになるスキルなんだ」
「へえ……てことは、名前のこともスキルでわかったの?」
「うん、たぶんそう! 私、魔法陣には触れてなかったけど、スキルが危ないって判断したみたいでね、勝手に作動してたみたいなんだよ!」
彼女はそう言って笑ったけれど、一瞬だけ目を逸らした気がした。なんだろう、この違和感……。
……あれ?
スキルって、魔法陣に触れることによってもらえるものなんじゃないの? だとしたらなんで触れてないのに、スキルを使えているんだろう?
……聞こうとして、やめた。さっきの真剣な声を思い出したら、なんだか聞いてはいけないことのような気がしたからだ。
「あ、そういえば、名前で呼べないけど、何て呼べばいいかな?」
「うーん、じゃあ、セレスティアフレア。フレアでいいよ。そっちは?」
「私は、ルミナスエリーゼ。エリーゼって呼んで」
「わかった! よろしくね、エリーゼ!」
「よろしく、フレア」
ほんの少しだけ、私たちの距離が縮まった気がした。
私はふと、お母さんの言葉を思い出した。
『悔いが残らないようにしてきなさい』
私自身は、あの最後の夜、友人たちと最後に遊べて悔いはなくなったけど、そう言うお母さんはどうなんだろう?
……お母さん、無事でいて。
◇
何時間たっただろう。時計もスマホもないと、時間がわからないことがこんなに不安なんだと初めて知った。これからずっとこうやって過ごすのか、想像が付かないな。
「エリーゼ、止まって。この先に何かあるよ」
フレアが小声で言った。
耳を澄ますと、暗闇の奥から、小さく音が聞こえてくる。
「誰かいませんかぁ、誰かいないですかぁ?」
この声、私が普段から聞いている声がした。聞き間違えるわけがない、だって幼いころからずっと一緒にいるから。
「ゆ――」
叫びかけて、慌てて口を押さえる。本名を言ってはいけないんだったと思いだしたから。
私は名前を呼ぶ代わりに、声のする方へ全速力で走った。
「わあっ!? え、えっと、誰!?」
「私! 私だよ!」
暗闇の中で泣きながら小さくなっていたのは、予想通り優花だった。私は感動して思いっきり抱きついた。
「あ……えぇ!? 抱き……ちょっと、急だね!? 感動の再会ってやつだぁ、あ、やばい涙が……」
優花は私の肩に顔を預けてきた。優花はずっと泣いている、あまりにも泣くから笑ってしまいそうになる。
「私のコードネーム、ルミナスエリーゼって言うんだよね。今度からエリーゼって呼んで」
「うん、わかったよ。私のコードネームはハルトルディア! ルディアって呼んで!」
ハルトルディア。それが、斎藤優花のこの空間での名前になっていた。
「そういえば、一緒じゃないの?」
私は、もう一人の幼馴染が一緒ではないのか気になったため聞いた。
ルディアは首を横に振った。
「ここにきて、気づいたら一人だったんだ。エリーゼも?」
「うん。……でも、きっとどこかにいるって信じてる」
自分へ言い聞かせるように言う、その後ルディアが「うん」と小さく頷いてくれた。
「エリーゼ、私たちこれからなにする?」
少し落ち着いたルディアが、私の肩に手を預けて聞いてくる。
「うーん、とりあえずごはんを食べたいかも。ルディアもフレアも、お腹空いてこない?」
「たしかに! あの夜スイーツ食べてから何も食べてないもんね。色々ありすぎてすっかり忘れてた」
ふと、視線を感じたので横を向いたら、フレアがじっと私を見つめていた。え? どうしたの。
「どうしたの、フレア」
「うん? 楽しそうだなって、二人だけで」
ああ、自分が話に混ざれなくて拗ねてたのか。
「フレアちゃんっていうんだね、拗ねてて可愛い!」
「初対面なんだけど? なんか、むかつく」
フレアは口をぷくりと膨らませ、ルディアを睨む。
確かに、可愛いかも。
「は、ちょっと待って!」
口を膨らませていたフレアが、何かを察知して真剣な顔に戻った。
「敵が来る」
「敵? 罠じゃなくて?」
フレアは頷いて、さらりと言った。
「うん。私、死体が落ちてるのを見たんだ。この空間には、モンスターがいるみたい」
「死体!? そんなの見てないよ私!? いつ見たの?」
「エリーゼと会う前、かな?」
――私と会う前?
私が目を覚ましてからフレアに出会うまで、ちょっとの時間しかなかったはずなんだ。その前に、フレアは一体どれだけここを散策したんだろうか?
「嘘でしょ……」
ルディアの顔から、さっきまでの笑顔が嘘みたいになくなっていた。
「来るよ」
『グオオ!』
「キャアアア!?」
ルディアは叫びながら、私の腕にしがみつく。
「フレア、私たち戦ったことないよ! 武器もないし、どうしよう!」
「ねえエリーゼ、あのモンスター、臭くない?」
「え? ……言われてみれば確かに、臭いね」
そんなことを言い合っていると、目の前に文字が浮かび上がった。
【ゴブリン・レベル一〇・二体・戦闘開始】
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