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祟られ体質の俺、疫病神仕込みの呪術で、世の中の不幸を無双します!  作者: 書仙凡人
新天地での不幸編

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六十一の巻 耶摩の力

   [六十一]



 大男は幸太郎達を睨みつけ、両腕を広げて黒い龍を操りながら威嚇する。

 黛愛理沙は勾玉の首飾りを取り出し、手で印を組むと、何らかの咒を唱え始めた。

 すると程なくして、大男の身体から湧き出るように黒いオーラのようなモノが現れたのじゃった。

 どうやらこの女子は、大男に宿した耶摩の力を少し操る事ができるようじゃ。

 そんな中、幸太郎は七星剣をゆっくりと正眼に構えたのである。

 正式な剣術の経験はない筈じゃが、背筋を伸ばし、なかなか堂に入った構えをしておるわ。

 物をどう扱えばよいか、自然と身体から出てくるのであろう。

 なかなかの天稟じゃな。


「どうやら戦うつもりのようです。ではロウガ殿、耶摩の力を見せてやりましょうか」


「ああ、ぶっ殺してやる! 死ね!」


 大男は頷くと、両腕をこちらに向かって突き出した。

 その刹那、黒い龍は顎を大きく開き、上から勢いよく襲い掛かってきたのじゃ。


「日香里ちゃん、鏡を龍に向けて!」


「はい!」


 日香里は鏡を頭上に掲げ、襲い掛かる龍に向けた。

 すると次の瞬間、鏡はピカッと眩く輝き、黒い龍を瞬く間に消し去ったのである。

 ほうほう、なるほどのう。

 あの恐ろしい死の力も、この鏡の前では成す術無しのようじゃな。


「な!? 消えただとぉ! どういう事だ!」


 大男は目を見開いた。


「そんな馬鹿な……まさか、その鏡は……」


 黛愛理沙は信じられぬモノを見るかのように、目を大きく見開いていた。


「チッ! おのれ……ならばもう一度だ! 死ね!」


 大男は野球のピッチャーとやらのように、大きく振りかぶり、腕を突き出してきた。

 次の瞬間、黒い龍が凄い勢いで打ち出され、こちらに襲い掛かって来る。が、しかし、またもや鏡が眩く発光し、黒い龍は跡形もなく消え去ったのじゃった。


「また消えただと……グッ……どういう事だ一体……」


 黛愛理沙と大男は、険しい表情で顔を見合わせた。

 そして、幸太郎はそんな2人に向かい、ニヤリと微笑んだのじゃ。

  

「思った通りだ。この鏡は、耶摩の力を退けられるようだな」


「アナタ、その鏡をどこで!? グッ……」


 黛愛理沙は悔しそうに下唇を噛んだ。


「さぁね。まぁとりあえず、企業秘密だよ。元貴堂商事、法務統括室所属の黛愛理沙さん。それはそうと黛さん、アンタさっき面白いこと言ってたね。無理をした甲斐があると……って事はさ、予定が狂ったという事かい? さてはアンタ達……総帥と伊澤さんの繋がりを知っていたな」


 幸太郎は驚いた素振りもなく、そう返した。

 黛愛理沙は憮然とする。


「気付いてましたか。ええ、仰る通りですよ。貴堂宗厳が動いたという話を聞いたのでね。そうこうしている内に、貴方達が調査にやって来た。一目見て、わかりましたよ。貴方が道師だとね。お陰で、予定を早める事になりました。本来なら、合併事業の中で穏便に済ませたかったんですが……貴堂宗厳が動いたとなれば、そういうわけにはいきませんのでね。少々、荒っぽいですが、こういう手段を講じたわけですよ」


 幸太郎はそこで破壊された祠をチラッと見た。

 童の背丈ほどの祠は、薙ぎ倒されたように破壊されている。

 確かに荒っぽい破壊じゃのう。


「なるほどね。1つ訊きたいんだが、アンタ達は一体何の為に、耶摩の封印を解いた?」


 すると大男が、笑い声を上げた。


「ククク……なぜ解いた、だと? 何を言うのかと思えば、決まっているではないか。我等が遥か昔に無くしたモノを取り返しに来ただけよ。まさか、こんな辺鄙な所に隠されていたとはな」


 幸太郎は目を細め、2人をジッと見た。


「遥か昔に無くした、ね……まぁいい。ところで、アンタ等は一体何者だ? 黛さんは人間のようだが、アンタからは妙な霊的気配を感じる。さては……荼吉尼衆という奴等か?」


 大男は眉を吊り上げ、忌々しく睨みつけてきた。

 どうやら当たりのようじゃな。


「気に入らないなぁ……お前。その余裕面を恐怖でグシャグシャにしてやるわ! ぶっ殺してやる!」


 大男は正拳突きをするかの如く、腰を落として構えた。

 だがしかし、意外にも、黛愛理沙がそれを手で遮ったのじゃった。


「待って、ロウガ殿」


「なぜ止める! ヨウカ様は急ぎ、耶摩のアヴァタールを持ち帰れとの命令だぞ!」


「ロウガ殿!」


 黛愛理沙は慌てて叫んだ。

 大男は、しまったとばかりに口に手をやる。


「すまん。チッ……」


 思ったより、頭は悪いのかもの。

 しかし、ヨウカ様のう。何者じゃい。


「持ち帰る? ははぁん……なるほど、そういう事か。アンタ達は何者かの思惑によって動いているわけだ。ところで、ヨウカ様って、誰?」


 黛愛理沙は忌々しそうに幸太郎を見た。


「知ってどうするのです。貴方がたにはここで死んで頂きますから、知っても意味はありません。そのつもりでいて下さい」


 事務的な言い方じゃのう。

 つまらん女じゃわい。


「さぁ、それはどうですかね。俺はなかなか面倒臭いですよ。それに、もう流石に見過ごせないんでね。アンタ達には揃って、不幸な目に遭ってもらう予定です。というわけで、そのつもりでいて下さい」


 幸太郎はそう言い返し、不敵に微笑んだのじゃった。

 ほほほほ、やる気満々じゃな。

 面白くなってきおったわい。

 黛愛理沙も負けじと微笑み返す。

 と、そこで、黛愛理沙はセクシーにスカートを捲り上げ、太股に仕込んである拳銃みたいなモノを手にしたのじゃ。

 エロい銃の出し方じゃのう。

 黛愛理沙は銃を両手で構え、幸太郎に向けた。 

 それにしても、様になっておるのう。

 以前、幸太郎が見た映画に出てくる女スパイのようじゃわ。


「三上さん……貴方は我々の事を過小評価しているようですね。幾ら呪術の腕が立とうと、人間はこういった銃には勝てませんから、覚悟なさって下さい。これは脅しではありませんから、そのつもりで」


「あらら、拳銃とは用意周到ですね。そんな物まで仕込んでいるなんて、予想外でしたよ。確かに、貴方が言う通り、人間は銃には弱い。いかな呪術者とはいえ、正攻法で来られると、生身の身体ではどうしようもないですからね」


 幸太郎はそこで、ワザとらしく溜息を吐いた。

 黛愛理沙は勝ったとばかりに、クスリと微笑む。

 それを見て、近くにいる大男もニヤッと笑った。


「クククッ、馬鹿な奴等だ。人間はこんな小さな武器でも、簡単に命を落とすからなぁ。呪術の腕が幾らあろうと、人間の身体はそんなに変わらん。我等のような種族なら、お前達の精気ですぐに回復できるがな。さて、バレているなら、遠慮せずに正体を明かすとするか」


 大男はそう言うと、全身から黒い霧のような邪気を放出した。

 その直後、奴は人間から、4本腕の蝙蝠のような姿へと変化したのじゃった。

 以前、傾奇町で相対した妖魔と同じ姿じゃわ。キモッ。 


「その姿……やはり、お前は荼吉尼衆だったか。そういや、アンタ等は真言密教だと、閻魔天の眷属だったもんな。なんとなく、そんな予感はしてたよ」


「クククッ、減らず口もそこまでだ。お前達の負けだよ。これからジワジワとなぶり殺して、喰ってやる」


 妖魔はそこで大きく口を開け、威嚇をしてきた。

 猛獣のように鋭利な牙から、瑞々しい涎が滴っている。

 獲物にありついた獣のようであった。


「へぇ……だったら、早く行動を起こしたらどうなんだ? そういやアンタ、さっきから全然動かないね。一歩もだ。その祠に何かあるのかい?」


「何ィ……貴様……」


 妖魔は幸太郎を睨んだ。


「おや、図星かよ。という事は……動かない理由でもあるのかな?」


 イラっと来たのか、妖魔の顔が醜く歪んでいた。

 ほほほほ。幸太郎の奴、もう見抜いておるようじゃな。

 ここぞとばかりに挑発しておるわい。


「俺の予想じゃ。動かないではなく、動けないんじゃないかと考えてるんだがね。ン?」


 するとその時であった。

 パァンという乾いた銃声が、空洞内に響いたのである。

 その直後、幸太郎の前の地面が小さく弾けた。


「キャッ!」


「三上君!?」


 日香里と沙耶香はその銃声を聞き、ギョッとしていた。

 まぁそうなるじゃろうな。


「大丈夫ですよ。威嚇射撃です」


 幸太郎は後ろの2人に囁いた。

 黛愛理沙はまた幸太郎に銃口を向ける。


「動くな! 3人共、両手を上げなさい! 動いたら撃ちますよ!」 


 ほほほほ。こりゃ面白い展開じゃな。


「今は従っておきましょう」


 と、幸太郎。

 沙耶香と日香里はそれに小さく頷いた。

 3人はそこで両手を上げた。

 ちなみに幸太郎と日香里は、剣と鏡を持ったままじゃがな。


「剣と鏡を地面に置きなさい」


 幸太郎と日香里は言われるがまま、無言でそれらを置いた。


「では、そのまま両手を上げて後ろへ下がりなさい」


 幸太郎達は後ろに下がる。


「そこで止まりなさい。そのままよ。動いたら撃ちます」


 黛愛理沙はそう告げると、ゆっくりこちらに近づいてきた。

 恐らく、鏡を回収しに来たんじゃろう。

 そこで幸太郎は口を開いた。


「へぇ……モデルガンかと思ったんですが、どうやら本物のようですね」


 幸太郎は銃に恐れた様子もなく、飄々とそう言った。


「当たり前でしょ! 何を言うのかと思えば。それより、ちょっとでも動いたら撃ちますよ」


 黛はそう言って、幸太郎を睨んだ。


「なら、撃ったらどうです? 鏡が欲しいなら俺達を殺してから奪えばいいじゃないですか。それとも……できない理由でもあるんですかね?」


「え?」


 予想外の質問が来たのか、黛愛理沙は一瞬、ポカンとしていた。

 幸太郎は捲し立てるように続ける。


「あ、そうそう。この洞窟の向こうには、貴堂家の道師達が包囲しておりますから、俺達を倒したところで、アンタ等にもう逃げ道はないですよ。つまり、アンタ達は袋のネズミというやつです。残念でしたね」


「クッ……」


 黛は下唇を噛み、少し顔を顰めた。

 ハッタリが効いておるのう。

 幸太郎は続ける。


「ですが、そんな事よりもですね……さっきから俺は、別の事が気になっているんですよ」


 などと言いつつ、幸太郎は七つの道に気を通し、急激に強く練り上げていた。

 ほう、何かするようじゃな。


「別の事? 何でしょうか?」


 黛愛理沙はそう言って、少しづつ近付いてくる。

 そろそろ幸太郎の間合いじゃな。

 何をするつもりなんじゃか。


「俺達がココに入って来た時、何故、アンタはやられたフリをしていたのか? それがずっと引っかかってるんですよ。なんでそんな事をしてたんです?」


 黛愛理沙はそこで立ち止まった。

 痛いところを突かれたんじゃろう。


「三上さん……気が変わりました。やはり、アナタを撃ちま!? グッ!」


 と、その時であった。

 幸太郎は話している途中の黛に向かって右手を突き出し、練った濃い陰の気を放出したのじゃ。

 次の瞬間、黛愛理沙は見えない力に押されたように、身体を仰け反らせた。

 そして、幸太郎は仰け反る黛愛理沙へと一気に間合いを詰め、銃を奪ったのじゃった。

 それは淀みない動きであった。

 ちなみに今のは、陰の破勁の応用じゃな。

 それほど力は出ぬが、一瞬、台風のような風は巻き起こせるのじゃよ。

 まぁそれはさておき、銃を奪った幸太郎はすぐに間合いを取り、黛愛理沙に銃を向けた。


「な!?」


 黛愛理沙は、この突然の展開に呆然としていた。

 迂闊に、幸太郎の間合いに入ったのが運の尽きじゃな。


「黛さん、油断し過ぎだよ。これで形勢逆転だね。しかも、この銃……幹部自衛官の9mm拳銃じゃん。何者だ、アンタ? ヤクザでも手に入れるの苦労しそうな銃をよく持ってるね。ン?」


 するとその時であった。


「チッ! クソが! 死ねぇ!」


 妖魔が腕を斜め上に突き出し、また黒い龍を放出したのであった。


「不味い!」


 幸太郎は思惑を察知したのか、すぐに剣と鏡を回収する。

 そして、沙耶香と日香里の手を取り、急いで後方へと駆けたのじゃ。


「え、三上さん!」


「どうしたの、三上君!?」


 2人はわけわからないといった感じで、幸太郎と共に後退する。

 その刹那、黒い龍は幸太郎達の天井部の岩肌を抉ってゆく。

 そして、ゴトゴトと重い衝突音と共に、幸太郎達がいた場所に落盤が発生したのである。

 じゃが、それほど大きな落盤ではなかった。

 幸太郎達がいた部分だけじゃ。

 で、その幸太郎達はというと、間一髪で難を逃れ、今は空洞の入口付近に退避しているところであった。

 沙耶香と日香里は、その落盤を見て青い顔をしておるわい。


「あ、危なかった。三上君が手を引かなきゃ死んでたわ……」


「嘘……天井を崩すなんて」


 予想外の攻撃だったんじゃろう。

 逆に妖魔は思惑が見抜かれた為、憎たらしそうにしておるわ。


「クッ……なんて勘の良い奴だ。チッ……」


 幸太郎は真顔になっていた。

 どうやら本気になったようじゃな。


「お前……本当にウザい力を手に入れたなぁ。まずはお前から対処するわ」


「ああん? 対処だぁ? 馬鹿も休み休み言え。見ての通りよ。鏡で消されるなら、別の方法で仕留めるだけよ。まだまだこんなモノではないぞ。耶摩の力を見せてやろう。死ね!」


 妖魔はそう言って4本の手を構えた。

 そして4つの腕から4匹の黒い龍が出現し、大きくうねりながら幸太郎達目掛けて襲い掛かってきたのである。

 さぁどうする、幸太郎よ。

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