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祟られ体質の俺、疫病神仕込みの呪術で、世の中の不幸を無双します!  作者: 書仙凡人
新天地での不幸編

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五十六の巻 異変

   [五十六]



 貴堂学院での抜き打ち講演があった翌日。

 幸太郎は出勤して早々、沙耶香と共に社長室へと向かった。

 社長室はビルの最上階にあり、今は無人との事じゃ。

 病で臥せっておる沙耶香の父親が社長じゃから、仕方ない事じゃがな。

 それはさておき、エレベーターで最上階に来た2人は、青いタイルカーペットが敷かれた通路を進み、厳かな木目調の扉の前へとやってきた。

 そして、沙耶香はカードキーで解錠し、扉を開いたのじゃ。


「さ、入って。中は誰もいないから」


「はい、では」


 沙耶香と幸太郎は社長室へと足を踏み入れた。

 室内は30畳くらいある広さで、白い壁と黒っぽいカーペットが敷かれた空間じゃった。

 そこに、立派な黒壇の机と、柔らかそうなベージュのソファーや、大理石調のテーブルが置かれているのである。

 また、白い壁には、これまた立派な本棚や絵画があり、奥の壁は大部分が窓となっているのじゃ。

 まじっくみらーというやつなのか、窓は少々陰りがある感じじゃな。

 しかし、最上階なだけあり、流石に見晴らしはええのう。

 遠くにまで広がる無数の建物が、まるで、敷き詰められた碁石のようじゃわい。

 とはいえ、今日は雨の所為か、あまり良い景色ではないのう。

 それにしても、東京は高層建造物が沢山ある街じゃわ。

 後の世の民達は、ようここまでの都を造ったもんじゃ。

 ちなみに、社長室はプライバシーとやらは守られているらしく、セキュリティは万全との事である。

 なんのこっちゃようわからんが、秘密の話をするには丁度いいんじゃろう。

 というか、人除けの術が部屋全体に施されておるのう。

 念入りにしておるわい。


「三上君……ここが社長室よ。今は不在だから、無人の部屋だけどね」


 沙耶香はそう言ってソファーに腰を下ろした。

 幸太郎は室内を興味深く見回している。


「流石、社長室ですね。こんな豪華な部屋に入れるなんて、普通はないんで、ちょっと驚いてるところです。でも、いいんですかね? 俺、ぽっと出の新人なのに」


「一応、父には了解を貰ったわ。事情を話したら、使えばいいと言ってくれたから。それはそうと、三上君もソファーに掛けてくれる?」


「はい、では」


 幸太郎は沙耶香の向かいにあるソファーに腰を下ろした。

 沙耶香はそこで、少し身を乗り出す。


「さて、それでは早速だけど、話してくれるかしら? 昨日言っていた耶摩蘇村の件を」


「わかりました。実は昨日なんですが、千里さんがあの質問してくれたお陰で、耶摩蘇村の奇妙な違和感の正体がわかったんですよ。それは、あの山奥の祠についてです」


 ほう、何に気付いたんじゃろうの。

 我も気になるわい。


「宗厳翁が言っていた触れてはならないという祠の事ね。で、違和感の正体っていうのは?」


「あの祠……耶摩という恐ろし気なモノを封印してるにも拘らず、人除けの術が施されてないんですよ。これは俺の勝手な憶測ですが、普通はそういう場合、人が寄り付かないようにするモノなんじゃないですか?」


 沙耶香は頷く。


「確かにそうね……貴方の言う通りよ。普通はヤバい霊的存在を封じた場合、そうするのが常套手段だから。というか、人除けが施されてないの?」


「ええ、施されてないです。前回、調査に行った時、一般人が普通に祠にいましたからね。というか、俺を案内してくれた役場の者も、特に嫌な顔をせず、我々に同行してましたし」


 言われてみるとそうじゃな。

 幸太郎の言う通りじゃ。


「それは確かに妙ね……普通、そういった所は人が寄り付かないようにするんだけど……」


「それの他にも、妙な事があります」


「何かしら?」


「以前、報告した時に、耶摩の考察をしたのを憶えてますか?」


「ええ、憶えてるわよ。耶摩とは、閻魔の事かもしれないという話でしょ。それがどうかしたの?」


 幸太郎はそこでメモ帳をポケットから出し、ボールペンで何かを書き始めた。

 そして書き終えると、沙耶香が読みやすいように反転させたのじゃ。


「あの地には耶摩という村名以外にも、死に纏わる名前がまだあります。伊澤さんが神主をしている伊邪那岐(いざなぎ)伊邪那美(いざなみ)を祭った伊邪那(いざな)の社、そして山奥の祠にある石碑に彫り込まれた泰山府君(たいざんふくん)真言(まんとら)です」


 沙耶香は腕を組み、メモ帳に目を落とす。


「そのようね。それにしても、閻魔に泰山府君に伊邪那岐・伊邪那美って、見事に冥府の神ばかりね。で、それがどうしたの?」


「そう……仰る通り、全部、冥府に関連する神ばかりなんです。しかも、全てが別の宗教の神な上に、チグハグで嚙み合ってないんですよ。普通はこういうのって統一するものだと思うんですが、全然、首尾一貫してない。幾ら日本が神仏習合の宗教文化とはいえ、妙だと思いませんか?」


 確かにそんな感じじゃのう。

 沙耶香も眉を寄せて、思案顔になっておるわ。


「言われてみるとそうね……チグハグだわ。で、貴方はどう考えているの?」


「これは1つの仮説として聞いてほしいんですが……安倍宿禰なる人物が、本当にいたとして仮定しますと、人除けはあえて施さなかったのかもしれません」


「あえて? どういう事?」


「その前に確認ですが、人除けの呪術と魔除けの呪術は共存できるんですかね?」


 ほう、気付いたか。

 恐らくこの前、沙耶香から人除けを習った事で、その性質に気付いたんじゃろう。

 沙耶香は頭を振った。


「それらは残念だけど共存できないわ。相反する力だから、互いに打ち消しあってしまうのよ。それに、両方必要な事態というのがあまりないし。それがどうかしたの?」


「やはりですか。思った通りです。以前、沙耶香さんから人除けの術を習った時、そんな気がしたので訊いてみました。話を戻しますが、あの祠は強力な魔除けの気配を感じたので、恐らく、そっちに全振りしているとみて良いでしょう。問題はなぜ、魔除けを施しているかです。どう思われますか?」


 すると沙耶香は、怪訝に眉を寄せたのじゃった。


「え? 魔除けですって……それ本当?」


「恐らく、破魔の類の魔除けが施されてますね。俺もそれに違和感を覚えていたんですよ。違和感の正体はそれでした。となると……あそこに封じられているのは、妖魔側のナニかという可能性もあるんです。どう思われますか?」


 ほう、なるほどの。

 妖魔側の化け物を仕舞いこんでおる可能性もあるようじゃ。


「三上君は何かわかったの?」


「それはわかりません。ただ……死に纏わるナニかだとは思います。そして、古の術者である安倍宿禰は、人除けを施せない代わりに、耶摩蘇村の者達に祠の守を命じたという説は考えられないですかね? そして、祠を守り続けさせる為に、死を連想させる神々の名前をこの村の至る所に刻み、村人達にその恐怖を植付けたんじゃないでしょうか」


 我もそんな気がするの。

 人除けの結界が使えぬ以上、そうやって恐怖を植え付け、人除けするしかないからのう。


「まぁ考えられなくもないけど……でも、魔除けが施されているのなら、今はまだ大丈夫じゃない。何か気掛かりな事があるの?」


 幸太郎は神妙な面持ちで、ゆっくりと頷いた。


「これも仮説ですが……あの祠は、邪悪なナニかを封じる大きな結界術だと考えると、当然、かなり強固な魔除けが施されていると思います。それも、妖魔では手出しできぬ程に。ですが……結界を破る方法が1つだけあるんです」


「結界を破る方法……って、まさか!? 人除けがないという事は……」


 沙耶香も気付いたようじゃな。

 結界の弱い部分を。


「そう……それは我々、人の手によってならば、簡単に破られるという事です。今回の公共事業は、その為の布石と考えられませんか?」


「そんな事……まさか……」


 沙耶香は口元を抑え、深刻な表情になった。


「何れにしろ……宗厳翁にもお知らせしておいた方が良いかと思います。今回の公共事業はもしかすると、何か黒い思惑がないとも限らないので」


「そうね……私から伝えておくわ。三上君の言う事なら、宗厳翁も真面目に考えると思うから」


 確かに幸太郎は、気に入られておるかものう。


「そうなんですか?」


「だって……三上君にだけ、耶魔蘇村の調査をお願いしたんだもの。信頼されてるからよ。それに宗厳翁はあまり、自分から他人と会おうとする方ではないからね。最近じゃ、貴方くらいよ」


「へぇ……でも、それはそれで、後がちょっと怖いんですが」


「うふふふ、確かにそうかもね。私との同居まで認めたくらいだし。私も認めてくれると思わなかったから、あの時は驚いたのよ」


 沙耶香は意味ありげに微笑んだ。

 幸太郎も視線を逸らして、気まずそうにしておるわ。

 というか、幸太郎も満更じゃないのか、沙耶香をチラチラ見とるのう。ほほほほ。


「た、確かに、そうですね。ちなみに話は変わるんですが、この前報告した西園寺議員の秘書である黛愛理沙さんなんですけど、どんな方か、もう調べてあるんですかね?」


 話を変えたな、幸太郎の奴め。


「ああ、それね。勿論、調べてあるわ。貴堂商事の法務統括室にいた経歴があったわよ。でも道師じゃないから、そっち側の者ではないけどね」


「え、道師ではないんですか……」


「そうよ。それがどうかしたの?」


「いや、貴堂グループにいたと聞いたんで、どんな方だったんだろうと思っただけです。でも、道師じゃないんですね。へぇ……」


 幸太郎は腑に落ちないのか、思案顔であった。


「優秀な人だったそうよ。でもそれ以上、特に何も出てこなかったわ。彼女は本当に、ただの秘書なんじゃないかしら。まさかとは思うけど……タイプな女性なの?」


 沙耶香はそう言うと、ギロッとした目で幸太郎を見た。

 おおう、怖いのう。

 幸太郎も少し怯んでおるわ。


「い、いや、全然タイプじゃないです。ただ、なんとなく……引っ掛かるんですよ」


「いつもの直感てやつね。ま、それはそうと……」


 沙耶香はそこで立ち上がった。

 そしてニコニコしながら、幸太郎の隣に腰を下ろしたのである。

 ほほう、そういうことかい。


「ねぇ……アレしてくれる?」


「え? こ、ここで……ですか?」


 幸太郎はちょっと引き気味であった。


「だって……同居人が増えたから、マンションじゃできないでしょ。ここなら誰もいないし、ね?」


「まぁ良いですけど」


「じゃあ、お願いね」


 沙耶香はそう言って靴を脱ぎ、ソファーで体操座りをした。

 そして、幸太郎も仕方ないとばかりに靴を脱ぎ、座り直したのである。

 だがその時じゃった。


「キャッ」


 ソファーの弾力が良すぎたのか、幸太郎が座り直した影響で、沙耶香は少し体勢を崩したのじゃ。

 じゃが、ソファーから落ちるような事はなかった。 

 幸太郎が沙耶香の背へ手を回し、受け止めたからである。

 それは俗にいう、お姫様抱っこに近い体勢であった。

 しかも、幸太郎と沙耶香は、間近で顔を見つめ合う体勢となっていたのである。

 おおう、なんたる面白い光景!

 これはええ感じじゃないか!

 2人はこの状況で、気まずそうに見つめ合っていた。


「み、三上君……ありがと」


「沙耶香さん、すいません。もう少し、静かに座るべきでしたね」


 幸太郎と沙耶香はそんなやり取りをしつつ、顔が徐々に近づいていた。

 というか、沙耶香が近づいてるような感じじゃな。

 しかも心なしか、沙耶香の瞼が閉じかかっているような気がするのう。

 ほほほほ、これはアレじゃな。

 まずは接吻じゃぁァァ! よっしゃあ、はよやれ!

 などと我のテンションが上がっていた、その時じゃった。

 突如、幸太郎のスマホが鳴り響いたのである。

 沙耶香は恥ずかしそうに頬を染め、慌てて身体を起こし、身なりを整えた。

 チッ、後もうちょいだったのにのう。

 惜しかったわい。折角、子作りしそうな雰囲気じゃったのにな。

 久しぶりに、若い男女の激しいまぐわいを見たかったが、仕方がない。次じゃ、次。

 幸太郎も気まずそうに、そこでポケットからスマホを取り出した。

 じゃが、スマホの画面を見た瞬間、幸太郎は眉を寄せたのである。


「ン? 伊澤さんからだ。なんだろ」


 幸太郎はそう言って、スマホを耳に当てた。


「おはようございます、伊澤さん。どうかされましたか?」


 と、訊ねた直後、幸太郎の顔はみるみる曇っていったのじゃ。


「え!? 本当ですか……で、どんな感じなんです? はい、はい……ユニック車みたいな工事車両が祠の入口に停まっているんですね。で、重機を下ろしたような跡があると。他に何か異変は? はい……え? 人の姿が見当たらない」


 幸太郎はそこで沙耶香をチラッと見ると、険しい表情で会話を続けた。


「重機が動いてる音とかはどうです? はい……そうですか。音はしてないんですね。それは不味いですね……伊澤さんは祠まで行かれましたか? はい……はい……つまり、寒気がする嫌な気配を感じたから、祠には行ってないんですね。はいはい……その方が良いです。絶対に行かないでください。二次被害が出るかもしれないんで、伊澤さんは至急、その場から離れて家に戻って下さい。それと外部から誰も侵入しないように、山道に何か細工できますかね? ええ、そうです。なんでもいいです。はい、はい……ではお願いします。私も上司に連絡し、対応策を考えます。伊澤さんも、無茶はしないでくださいね。くれぐれも冷静にお願いします。ええ、ではまた連絡いたします」


 幸太郎はそこで電話を切った。

 そして、幸太郎は額に手をやり、溜息を吐きながら、沙耶香に振り返ったのである。


「三上君、どうしたの……深刻な顔してるけど」


「沙耶香さん……非常に不味い事態が起きました。さっき話していた耶摩蘇村の件です。山奥の祠で何かあったようなので、至急、宗厳翁へ連絡したほうが良いです。もしかすると……封印が破られたのかもしれません」


「なんですって……」


 ほほう、耶摩蘇村の祠で何か遭ったようじゃな。

 これは面白……じゃなかった。一大事じゃのう。

 さて、ナニが起きておるのやら。

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