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祟られ体質の俺、疫病神仕込みの呪術で、世の中の不幸を無双します!  作者: 書仙凡人
新天地での不幸編

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五十五の巻 不幸理論

   [五十五]



 幸太郎は手を上げた千里を指さした。


「はい、ではどうぞ」


 千里は居ずまいを正し、席を立つと、質問を始めた。


「三上先生は先程、言霊は言葉そのものであり、世界を創り出すモノと仰られました。確かに妖魔や霊といった存在は、我々のような霊能を持つ者達には見える時もあります。なので、そういう風に認識できますが、この世には、人為的なモノではなく、自然発生的な呪いや憑き物、そして、祟りのようなモノもあり、霊能力を持たない方々は時折、被害に遭っております。ある場所に行ったら、霊に憑かれたとかです。しかも、動物や虫にはそのような現象は起きず、往々にして人にばかり起こるのです。それらの現象については、どのようにお考えなのでしょうか? それらは認識せずとも、ある日突然、見えないところから襲い掛かられます。なぜなのでしょうか?」 


 三上先生のう。

 幸太郎は呼ばれたくなさそうな感じじゃな。

 渋そうな顔で、眉がピクッと動いたわい。

 それはさておき、なかなか良いところを突いてくる女子じゃのう。

 幸太郎がずっと悩んでいる問題じゃからな。


「良い質問だけど……三上先生はやめてね。教師じゃないから、三上さんでいいよ」


「わかりました、三上先生」


 千里は不敵な表情で返してきた。

 挑発的な女子じゃのう。

 幸太郎も頭をポリポリかいて困っとるわい。

 ニホンゴ、ワカリマスカ? じゃな。ほほほほ。


「まぁいい……で、質問だけど、確かにそれらは、見えないところから、ある日突然襲い掛かられる場合もあるね。自然発生的な呪いや憑き物に祟りとは、悪い縁起や不幸な事象とも言うけど……正直言うと、私も長年、答えが見い出せない問題でもあるんだよ。ただ……人為的な呪いだろうが、自然発生的な呪いだろうが、共通点はある」


「共通点? それはどのようなモノでしょうか?」


 幸太郎はそこで黒板の前に行き、白いチョークを手に取ると、簡単に人体の絵を描いた。

 そして、それを縁取るように、今度は青いチョークで絵の周囲をなぞったのである。 


「白い部分が肉体で、青い部分は霊体と考えてくれ。さて、それでだが……我々は生まれながらにして、霊的に干渉されやすいという事実をまず言っておこう。人間は感受性豊かな生き物である故に、魂もその影響を受けやすい。ちなみに魂とは霊体の元となるモノだ。そして人が成長すると共に、魂も成長してゆく」


 幸太郎は今描いた人体絵の周囲に、恐怖や嫉妬、怒りといった説明を白チョークで書いてゆく。

 そして次は青いチョークを使い、肉体から分離するような、人体の絵を描いたのである。

 幸太郎はそこで、生徒達に振り返った。


「さて、それで今、人は感受性が強い生き物といったが……その中でも特に重要なのが、ここに書かれた『恐怖』と『嫉妬』と『怒り』という感情だ。これが非常に厄介でね、強くなりすぎると、暴走して手が付けられなくなり、肉体と霊体の調和がとれなくなるんだよ。現実面でも、これで犯罪を犯す者もいるくらいだからね。そして、場合によっては、肉体から霊体が離れ、生霊になる事もあるんだ」


 と言って、分離した青い人体の絵を指さした。

 幸太郎は続ける。


「私はそこに、隙が生まれてしまうと考えています。今、君も言ったが、ある場所に行って、霊を連れてきてしまったというパターンだ。それとかも、今の仮説で大体の説明がついてしまうんだよ。そして、無頓着な人ほど、憑き物とかにはあまり縁がない。個人的に被害に遭うのは、神経質な方が多い気がするからね。まぁ長々と説明したが、要するに、憑き物や祟りの被害は、感情の起伏が好条件になってしまうのではないか? と、私は考えているんだよ。つまり、肉体と霊体が一時的に無防備になるという事だ。まぁとはいえ……これは私個人の推察だから、確証のある話ではない。でも、当たらずとも遠からずと考えているところだよ。とりあえず、これが今の私の見解です」


 千里は頷きながら、興味深そうに聞き入っていた。

 納得はできたんじゃろう。


「なるほど。非常に興味深い見解です。ちなみに今、三上先生は、感情が肉体と霊体を無防備にさせると仰いました。それは何か根拠があっての事なのですか?」


「根拠か……あるよ。私自身が身を持って体験したからね。そう……ちょうど君達くらいの年の頃だ。酷い目に遭ったよ」


 まぁ現在進行中じゃがな。

 それはさておき、女子は意外じゃったのか、目を大きくしていた。


「え? 本当ですか?」


「本当だよ。まぁ……多くは話せないけどね。さて、こんなところでいいかい?」


「では、最後に1つ良いですか?」


 しぶといのう。


「どうぞ」


「三上先生は先程、人為的なモノでも人は呪いに掛かりやすいと言われました。我々のような霊能力を持つ者も、裏の呪術者によって時には掛かる事があります。三上先生の見解をお聞きしたいです」


 幸太郎も面倒な女子に絡まれたもんじゃわ。ほほほほ。


「深いところに来るね。良いだろう。それに関しては大きな理由がある。まずコレからいこうか。呪いとは何だと思う?」


「呪いとは一般的に、物理的なモノではなく、精神的、もしくは、霊的に、人を災厄や不幸に陥れるモノです。それは、我々のような業界でも、共通の認識でございます」


「正解です。では、君は名前というモノをどう考えている?」


「名前ですか……呪術的に言えば、人間を最も縛るモノが名前とされています。私もその通りだと思います」


 幸太郎は頷いた。


「そう……君の言う通り、名前は最も人を縛る呪いだ。(しゅ)とも言うがね。つまり、我々は既に、名前という一生を共にする咒に掛かっているんだよ。我々の魂は真名(まな)を認識し、肉体と共に成長をしてゆく。つまり、魂も真名に縛られるという事だ。これが大きな理由だよ。呪殺が横行したという奈良時代や平安時代の世においては、有権者達は濫りに本名……つまり、真名を名乗らなかった。真名を知られると、更に強い咒に掛かってしまうからな。だがしかし……今の世は昔と違い、本名を隠せない時代だ。これが1番の理由だろうね」


 幸太郎の言う事は一理あるのう。

 とはいえ、それは相手の力量が、呪う相手を上回っている場合じゃがな。

 弱ければ『(かや)りの風』を吹かされ、呪術を跳ね返されてしまうからの。


「その話は聞いた事がございます。古の文献を紐解くと、陰陽師や呪禁師(じゅごんじ)達も真名を名乗らなかったそうですから」


「そう、良く知っているね。巷で有名な安倍晴明も、真名はどうだったか未だに謎だそうだ。そもそも当時どう呼ばれていたのかすら、わからないらしい。古い文献には安倍朝臣(あべのあそん)安倍宿禰(あべのすくね)などと書かれているのもあり、実態は掴めていないそうだからね。まぁとはいえ、人為的な呪いは自分に返される危険もあるから、確実に呪える場合以外、滅多に使われることはないだろう。それに……今の世には、便利な呪術道具が沢山あるから、仮にそうなったとしても対処法は幾らでもあるからね」


「確かにそうですね。ちなみに、三上先生ならそう言う場合、どのように対処をされるのですか?」


 また難しい事を訊きよるのう。


「どう、と言われると困るね。その時々だし。だが、一番の防御策は……人に恨まれないよう生きるしかないんじゃないかな。まぁ身も蓋もない話だけどね」


「それもそうですね。では、もう1つだけいいですか?」


 まだあんのかい!

 幸太郎も目尻が下がっておるわ。

 面倒臭くなってきたんじゃろう。


「さっきのが最後じゃなかった?」


「これが本当に最後です」


「本当に、ね。まぁいい……どうぞ」


「結界についてです。呪術業界には種々の結界術がありますが、強い悪魔を封じたりする強力な結界は、場所を選ばないとできないと聞いた事があります。しかも、それらは秘術とされており、現代では失伝しているモノも多いと聞きます。それはなぜなのでしょうか?」


 ほほう、結界か。

 また面白い質問をしてきたのう。


「場所を選ばないといけない理由は1つだ。そういう大きな存在を縛るには、人1人の霊力では不可能だからだよ。それほどの大きな結界術は、大量の霊力が必要だ。場合によっては、龍脈の力を借りないとできない事もあるからね。あと、失伝についてだが……それは個々の事案なので、流石にわかりかねます。なので、私には答えられません。これでいいかい?」


「お答え頂き、ありがとうございました。確かに、人の力では無理かもしれませんね。ですが……時々、古い結界が破られ、大きな被害が出る事があります。それが気になったので、今の質問をさせて頂きました」


 良いとこ突いてくるのう。

 とはいえ、結界とは仮の手段じゃからな。

 そういうもんじゃわい。


「ああ、それか。なら、1つ付け加えておこう。結界というモノは完全じゃないんだよ。例えば……人除けの結界という初歩的な術があるが、あれは人を遠ざけるが、我々のような霊能力に長けた者や、悪霊や妖魔といった存在には全く効果が無い。そういう風に、何かを犠牲にして成り立っているんだ。それは大きな結界術にしても同様だ。つまり、完全なる結界なんてモノはないんだよ。そして、そういう大きな結界術というモノは、得てして……霊能力を……全く……もた……」


 すると幸太郎は、なぜか知らぬが、尻切れるように言葉が止まったのじゃった。

 ほほう……どうやら、何か引っかかるモノがあったようじゃな。

 もしかすると、あの村の件かもしれんの。

 幸太郎は顎に手を当て、思案顔になっていた。


「どうかされましたか、三上先生?」


 千里は不思議そうに首を捻っていた。

 まぁそうなるわな。


「ああ、すまない。今、突然、忘れていた事を思い出したんでね。では続けよう。ええっと、まぁそれでだ。結界というモノは完全ではないという事だよ。いつかは破られるモノと考えておきなさい。応急処置みたいなモノだから。こんな回答でいいかな?」


 女子は満足そうに微笑んだ。


「はい、ありがとうございます。三上先生のお考えを少し知る事が出来たので良かったです。これで終わりにします」


 千里はようやく席に着いた。

 面倒な女子じゃわい。

 幸太郎はそこで講義室の時計を見た。


「そう言ってもらえると、嬉しいところです。さて……ではそろそろお昼の時間なので、この辺で、私の話は終了とさせて頂きましょう。ご清聴ありがとうございました」


 幸太郎は頭を下げ、教壇を降りた。

 生徒達は拍手をする。

 そこで曾我部が入れ替わるように、教壇に立った。


「三上講師、ありがとうございました。今日は非常に興味深いお話を聞けて、皆も色々と勉強になったと思います。それでは皆、三上講師に今一度、大きな拍手をお願いします」


 そして盛大な拍手が巻き起こったのじゃった。

 幸太郎は生徒達に軽く手を振り、席に戻っていった。

 生徒達も満足したのか、全員、笑顔であった。

 しかし、あの千里という女子は意外と目ざといのう。

 面白い女子じゃわい。


「では、今日の夏期補修はこれで終わりにします。各自忘れ物のないようにしてください。また1週間後、会いましょう」


 曾我部の言葉を号令に、生徒達は席を立ち、帰り支度を始めた。

 これで本当に講義は終了のようじゃな。

 久しぶりに、学校とやらを見せてもろうたから、懐かしさを感じたわい。

 幸太郎が席に戻ったところで、学院長と沙耶香、そして日香里が拍手し、労いの言葉を掛けてきた。


「実に良い講演だったよ、三上さん。私もついつい聞き入ってしまったくらいだ」


「お疲れさまでした、三上さん。本当に物知りですね。勉強なりましたよ」


「三上君、お疲れ様でした。なかなか、良い講演だったわ。千里さんも結構踏み込んで聞いてくるから驚いたけど」


「いや、申し訳ないです。あんな話しか出来なくて」


 沙耶香はそこで幸太郎に耳打ちした。


「ところで……さっき、結界の話で止まってたけど……何かあったの?」


 幸太郎も小さく返した。


「実は耶摩蘇村の件で、辻褄が合わない部分が出てきたんですよ。だからです」


「辻褄が合わないですって……ン?」


 沙耶香はそこで周囲をチラッと見た。

 すると、千尋や学院長に日香里、そして優愛達が、その行動をジッと見ていたのである。

 ヒソヒソ話じゃから、内容は漏れておらぬが、なんともいえぬ微妙な空気じゃのう。ほほほほ。


「み、三上君、後にしましょう」


「了解です」


 2人は慌てて居ずまいを正した。

 すると、学院長がそこで身を乗り出し、幸太郎に話しかけてきたのじゃ。


「三上さん、本当に良い講演だった。で、話は変わるんだが……ウチで教師やってみないかね?」


 幸太郎と沙耶香はそれを聞くなり、怪訝に眉根を寄せた。


「教師って……あの、言っておきますが、学院長……私は教員免許なんて持ってませんよ」


 じゃが、問題ないとばかりに、学院長は手をブンブン振った。


「構わん構わん。今は特別非常勤講師制度というのがあるんだよ。教員免許無くても、教育委員会に届け出を出せば可能なんだ。で、どうだね? やってみんかね?」


「あの、大叔父様。三上君は私の部下なので、それはちょっと……」


 沙耶香は難色を示した。


「おお、そうだったね。では沙耶香さん、なんだったら、週に1回程度でも構わんから、貴堂不動産から派遣してもらえんかね」


「大叔父様……それは幾らなんでも、話が性急すぎますわよ」


「あら、いいじゃありませんの、沙耶香さん。週に1回程度なら、問題ないでしょう」


 と言って、千尋も話に入ってきた。

 なんかようわからんが、また面倒な事になってきたのう。


「私は賛成ですよ!」


「私も」


「私も」


 優愛達は嬉しそうに諸手を上げていた。

 じゃが、日香里は面白くなさそうであった。


「ええ、それは、なんかやだな……。三上さんは貴堂不動産の社員ですし。そうですよね? 沙耶香さん」


 日香里は良しとしておらぬようじゃな。

 恐らく、幸太郎に変な虫が近寄るのを危惧しておるんじゃろう。


「ええ、北条さんの言う通りよ。それに、こんな所でする話でもないですわ、大叔父様」


 沙耶香はなんとか断る算段を考えておるようじゃな。

 するとその時であった。


「お父様! 私、三上先生の授業を受けたいです!」


 千里とかいう女子も、そこでやってきたのじゃ。

 今の話を聞いていたようじゃな。ほほほほ。


「おお、そうかそうか。千里もそう思ったか」


「はい、お父様。以前、授法院でお会いした時から、ずっと気になっていたのです。只者ではない気配を感じましたので」


 幸太郎はこのやり取りを見ながら、嫌な表情で少し後ずさっていた。

 大方、不幸センサーが作動したんじゃろう。

 ほほほほ。さてさて、どうなるんじゃろうかのう。

 また面白い事になってきたわい。

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