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祟られ体質の俺、疫病神仕込みの呪術で、世の中の不幸を無双します!  作者: 書仙凡人
新天地での不幸編

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五十三の巻 学院長

   [五十三]



 千尋に案内され、幸太郎達6人は学院長室の中へと通された。

 学院長室は20畳ほどある広い個室であった。

 床は前面に薄茶色のカーペットが敷かれており、奥の壁には大きな窓があった。

 カーテンは開いているが、今は空調設備とやらを使っておるせいか、窓は締め切っている。

 そこから、暑そうな日射しと、グラウンドで運動をする生徒の姿がチラホラと見えるのう。ご苦労さんじゃな。

 また、左右の壁には西洋あんてぃーく調の本棚が並んでおり、部屋の中央には、来客用の高級感がある大きなソファーや椅子、それとテーブルが置かれていた。

 そして、この部屋の奥には、学院長と思われるスーツを着た初老の男がおり、今は立派な机で作業をしているところなのである。

 印鑑を手にしとるので、書類に判を押してたんじゃろう。


「学院長……貴堂沙耶香さんと3人の転校生、そして、その関係者の方々をお連れしました。ご挨拶をしたいそうです」


 千尋はそう言うと、沙耶香に目配せをした。

 沙耶香は学院長の前へ行き、頭を下げた。


「学院長、お仕事中に申し訳ありません。今日は先だっての御礼に参りました。この子達の受け入れに尽力して下さり、誠にありがとうございました」


 男はそこで立ち上がった。

 上背はそこまでではないが、がっしりとした体格で、年は恐らく50代半ばじゃろう。

 顔つきは凛々しく、白髪交じりの長めの髪を整髪料で後ろに流し、口と顎には整えられた髭を生やしていた。

 やや浅黒い日焼けした肌をしているが、色艶は良い。

 年の割に、生気が漲っておる感じじゃ。

 男は席を立ち、沙耶香達を笑顔で出迎えた。


「ようこそ、沙耶香さん。そしてお連れの方々。もう皆さんは知っているとは思うが、そちらの男性は初めてなので、名乗らせてもらいましょう。私がこの貴堂学院の学院長を務める貴堂流泉(りゅうせん)です」 


「三上幸太郎と申します。貴堂不動産・土地調査部に所属する者です。よろしくお願いします」


 2人はそこで名刺の交換をした。

 サラリーマンしとるのう。

 面倒な世の中じゃわい。


「こちらこそ、よろしくお願いしますよ。さて……」


 学院長はそこで沙耶香に視線を戻した。


「久しぶりだな、沙耶香さん。新年の儀、以来か」


 沙耶香は背筋を伸ばし、丁寧に頭を下げた。

 他の者達もそれに倣う。


「はい、大叔父様。お久しぶりでございます」


「お父様は元気かね?」


「最近は、やや調子も戻ってきたようです。今は時折、外に出たりもしておりますので」


「そうか。また近々、様子を見に行かせてもらうつもりだ。お父様に、そうお伝えしておいてくれ」


「ありがとうございます。大叔父様の顔を見ると、お父様も元気が出ると思います」


 学院長はそれに頷くと、手で座るよう促した。


「まぁ積もる話もあるが……まずは今回の件だな。さぁ、では沙耶香さんとお連れの方々、そちらに掛けて下さい。それと千尋よ、皆さんにお茶をお出ししてくれ」


「畏まりました。お父様」


 千尋は頭を下げ、ここから静かに退室した。

 沙耶香達はソファーに腰を下ろす。

 そして、学院長も対面の椅子に腰を下ろした。


「さて……沙耶香さん、話は聞いたよ。大変な事があったそうだな。そして、彼女達はそれが原因で、霊的に目覚めてしまったようだね……」


「はい、そうなのです。それで、こちらの方で学ばせたいと思い、ご無理を言って、先日は手続きの方をさせて頂きました。その節はどうもありがとうございました」


「いや、構わんよ。我等は、そういった子を育てるのも、使命の内なのでな」


 学院長はそこで女子達に視線を向けた。


「君達も怖かっただろうね。初めて妖魔を見たのだから。しかも……タチの悪い妖魔をな。で、どうだね? あれから少しは落ち着いたかね?」


 女子達は少し委縮し、おずおずと俯いた。

 今ので、またあの妖魔を思い出したんじゃろう。

 そういえば幸太郎が言っておったのう。

 チン横キッズ達は入れ替わりが頻繁じゃから、居なくなっても誰も不思議に思わない。そこを狙われたとの。

 それを聞いて、女子達は身震いしていたわい。

 女子達もこれで暫くは、あの街に寄り付かんじゃろう。 


「はい……少しはですけど……」


「まだ幽霊が見えるんで……ちょっと怖いです」


「私も同じです」


 女子達は、ちょっと睡魔閃の影響で、今は霊が見えやすくなっておるからのう。

 じゃが、魂を目覚めさせてしもうたから、完全には戻らんじゃろうな。

 ちなみに日香里も、女子達と同様、霊が見えておるそうじゃ。

 しかも、声が少し聞こえるとか言うておったわ。

 もしかすると、女子達よりも強く魂が目覚めてしもうたんかもの。

 まぁ日香里の場合は喜んでおったがな。

 変わった女子じゃわい。


「しかし……突然、霊能が目覚めるとはな。私もそれを聞いて驚いたのだよ。相当に厄介な妖魔だったようだな」


 原因は幸太郎じゃと思うが、沙耶香の判断で、そこは伏せてあるそうじゃ。

 我の方術や呪術は、あまり表に出したくないようじゃな。

 大武會に向けて、沙耶香なりの考えがあるんじゃろう。


「君達も今は怖いだろうが、ここの特科クラスで学んで行けば、そういった霊能との付き合い方も見えてこよう。同じような能力を持つ仲間もいるしな。これから、気長に学んで行きなさい」


 そして学院長は、女子達に優しく微笑んだのじゃった。


「はい、心機一転で頑張ります」


「私も頑張ります」


「まだちょっと怖いけど、私も頑張ります」


「うむ、その意気だ。ん?」


 そこで扉が開き、千尋がお盆を片手に入ってきた。

 お盆の上には、お茶が注がれたガラスコップが人数分乗せられている。

 千尋はそれらをテーブルに置くと、空いている椅子に腰を下ろした。


「さて、今日は暑い。お茶でも飲んで、ゆっくりしていってくれたまえ。ところで……もうこの子達に、校内の案内は済んでいるのかな?」


「いえ、まだでございます。今日はそれもあり、御挨拶に伺った次第です」


 と、沙耶香。


「おう、そうだったか。では千尋よ、この子達を後で案内してやってくれないだろうか。今日は特科クラスが補習をやっているのではないか?」


 千尋は頷く。


「ええ、お父様。ちょうど今日は補習の日です。この子達には、レイソウガクの補習を見学してもらいますわ」


「うむ、お願いする。さて……」


 学院長はそこで幸太郎をチラッと見た後、沙耶香に視線を戻した。


「沙耶香さん、今日はこの後、どうされるのかな?」


「特にコレといった用事はございませんが、新しい環境で生活する者も増えましたので、街にでも出ようかと思っております」


 それを聞くや、学院長はポンと手を打った。


「おお、そうか。なら、ちょっと世間話でもせんかね? 三上さんも交えて3人でね」


 ほう、狸ジジイの息子じゃな。

 こっちが本題のようじゃ。面白いわ。


「ええ、構いませんわ」


 沙耶香はすんなりと返事した。

 受けて立とう、といったところかの。


「すまないね、忙しいところ。色々と積もる話もある。世間話が終わったら、沙耶香さん達も補習を見ていくといい。今の特科クラスの子達も、なかなか逸材ぞろいだからな」


「それは楽しみですわ」


 さてさて、どんな世間話になんるじゃろうのう。ほほほほ。



   *


 学院長室で暫し歓談した後、女子達3人と日香里は、千尋に連れられて、この部屋から退室した。

 さて、ここからが本題というわけじゃな。

 見せてもらおう。

 まずは学院長から話を切り出した。


「さて……世間話だったな。まずは何から話そうか……おお、そうだ! 例の件からいこう。あの妖魔を追い詰めたのは、貴方だな、三上さん」


 いきなりぶっこんで来たのう。

 さぁどうする沙耶香よ。


「大叔父様、よくご存じで」


 沙耶香は微笑み、余裕の表情で切り返した。

 想定の範囲内のようじゃ。


「沙耶香さん……良い人材を見つけたようだな。この間、道師の検定データを見せてもらったよ。正直、驚いた。ここまでの手練れが、無名のままでいたとは思いもしなかったんでな。全盛期の父に伍する霊力の強さだ」


 狸ジジイも嘗ては凄かったようじゃ。


「ええ、私も驚いているところです。縁あって彼と出会い、道師として引き入れる事が出来たので良かったですわ」


 すると学院長は、訝し気に幸太郎を見たのじゃった。


「三上さん……貴方は一体何者だ? 荼吉尼衆が絡む案件は、全霊連でもAクラスの妖魔退治となっている。通常は、複数の呪術者で対応するモノだ。それを逃がしたとはいえ、1人で退けたのだからな」


 どうやら妖魔退治には、区分けがあるようじゃな。

 今の世は本当に、体系的によう纏められておるわい。 


「私は何者でもありませんよ。少々……不幸な境遇の男というだけです」


 まぁ噓は言っておらんな。

 学院長は苦笑いをした。


「ほう、煙に撒いたな。しかし、それだけの呪術の使い手だ。さぞや凄腕の師がいるのであろう?」


 おお、おるぞい。

 我じゃよ。言えぬがな。


「師は勿論おりますが……それは言えませんね。他言しないという約束ですので」


「約束か。なるほど、面白い方だ。しかし……それを良しとしない者もいるかもしれない」


 すると、学院長は心配そうに、沙耶香を見たのじゃった。


「色々と聞いたよ、沙耶香さん。嫌な横やりもあるのではないかね?」


「そのお顔……私の部下が襲われた件を既にご存知のようですね」


 学院長はしんみりと頷いた。


「ああ……人伝に聞いたよ。誰の仕業かは知らんが、なぜ、こんな事になったんだろうな。私には総帥の真意がわからんのだ。お陰で新年の儀から、兄弟の間がギクシャクしておるからな。全く、困ったモノだよ」


 この男はどうやら、霊戦技大武會の件は、あまり気が進まんのじゃろう。

 教育者として、争い事がイヤなのかものう。

 どことなく、憂いておるわ。

 

「確かに……それは私にもわかりません。ですが総帥は、霊戦技大武會にて道師の精鋭を出場させ、優勝した者に後継の道を譲ると言いました。そして、皆がそれで動き出しております。総帥が撤回しない限り、もうこの流れは止められないのでは?」


「確かにそうだが……なんとかならんもんかね。ところで、君はどう思うかな? 沙耶香さんにこの話を打診されておるんだろう?」


 学院長はそこで幸太郎に話を振ってきた。


「私は最近になって道師になった者です。宗厳翁の考えまでは流石にわかりません。ですが……」


 幸太郎はそこで言葉を切ると、顎に手を当て、思案顔になったのである。

 何か引っ掛かりを感じておるんじゃろう。


「ですが……何かね?」


「まぁこれは私の独り言ですが……恐らく宗厳翁は、貴堂家を束ねる者が出てきて欲しいんじゃないですかね?」


「貴堂家を束ねるですって……」


 沙耶香はハッと目を見開いた。

 もしかすると、思い当たるフシがあるんかもの。


「君もそう思うかね? 私も最初はそう考えたんだよ。だが、兄達は欲が強くてな。末弟の私の言葉などに耳を貸さんのだ。目があるのなら、後継者に成りたいのだろう。不本意だが期限も迫っていたので、私も千尋に申し込みに行かせたよ。今の兄達は、少々不安なんでな」


 欲深い兄達か。

 結局、この手の話は、みんなそこじゃのう。


「全く……総帥の思いつきも困ったものだよ。後継を指名してさえくれれば、それで皆は納得するというのにな」


「本当ですわ、大叔父様」


 沙耶香も同じ意見なのか、面倒そうに溜め息を吐いた。


「学院長と沙耶香さんは、思いつきと思われてるんですか?」


 幸太郎は違う見方をしてるようじゃな。

 こ奴は達観しとるからのう。


「違うのかね?」


「三上君は違うと思うの?」


 幸太郎は思案顔で答えた。


「私は宗厳翁に2度お会いしましたが、思いつきでモノを言われる方には見えませんでした。もしかすると、別の意図が隠されているんじゃないでしょうか?」


「別の意図? なんだねそれは?」


 そういえば以前、幸太郎は我に面白い事を言ってたわい。

 貴堂家の後継争いは、それを決める事の他に、別の思惑があるんじゃないかとの。

 幸太郎の勘は結構当たるからのう。

 あの狸ジジイの事じゃから、十分考えられるわい。


「それはわかりません。ですが、もしかすると……霊戦技大武會自体に、何か不味い事態が起きてるのかもしれませんね。ちなみにこの大武會ですが、今までも貴堂家の道師が出場しているのですかね?」


 沙耶香と学院長は頭を振る。


「いや、出場していない筈だ。そもそも、新年の儀で、この話が出たこと自体が驚きなのでな……」


 沙耶香もそれに頷いた。


「大叔父様の言う通りよ。道師は一度も出ていないわ。今までは、そういうのが御法度の掟だったから」


「え、掟? という事は……今回は異例なんですね。それは気になりますね。ところで、大武會がどういうモノかわかる資料はあるんですか?」


「ウチには資料はないな。今まで出た歴史がないのでね。ただ……噂は聞く。凄惨な戦いが繰り広げられてるとね」


「そうよ。それは流石に、全霊連に問い合わせないとわからないわ」


 ないんかい!

 というか、内輪揉めしとる場合じゃないぞい。

 どんなモノか調べてないとはの。


「調べた方がいいかも知れませんよ。特にここ近年、どういう戦いが続いてるのかを、です」


 幸太郎の不幸アンテナとやらが反応したようじゃな。

 これは何かありそうじゃわ。


「何故かしら?」


「あのチラシの内容が気になるんです。近年、重症者が多数出てるみたいな事が書いてあったんでね」


 沙耶香と学院長はそれを聞き、目を見開いた。

 恐らく、盲点だったんじゃろう。

 さて、また面白い展開になりそうじゃわ。ほほほほ。

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