五十の巻 誤摩行
[五十]
指宿と幸太郎は女子達の拘束を解き、この場に留まるよう説得した。
拘束を解いた当初は、女子達もパニック気味じゃったが、今では徐々に落ち着きを取り戻し、指宿と幸太郎の話を聞けるまでになっていた。
まぁその状態にもっていくまで、なかなか大変ではじゃったがの。
ちなみにじゃが、3人の女子達は地べたに座り、指宿と幸太郎は、その対面にある太パイプに腰掛けて話しておるところじゃ。
なんというか、学校で教師が、生徒を説教してるような光景じゃな。
しかし、落ち着きを取り戻したとはいえ、女子達は老化した輩共を見て、ゴクリと息を飲んでおった。
完全にビビっておるのう。
ま、無理もない話じゃがな。
「ア、アア、アンタ達は何者なのよ! というか……あの悪魔みたいな化け物はなんなの!」
ツインテールの女子がそう言って、震える手で2人を指さした。
他の2人もコクコクと硬い表情で頷いている。
まぁそう思うのも当然じゃな。
「はぁ? 化け物だって? 夢でも見てたんじゃないのか?」
と、指宿。
そこで、青いショートヘアの女子が輩共を指さした。
「夢なら、あのお爺さんになったキタジマさん達はなんなのよ! それに加えて……ユッチやイッチの幽霊も見えるのよ! 2人の他にも一杯いるわ! 聞こえないけど、何かを必死に叫んでる! なんなのよこれ……この部屋……幽霊だらけじゃない!」
そして女子達3人は互いに身を寄せ合い、周囲を見ながら恐れ慄いたのである。
無理もないわい。幸太郎のちょっと睡魔閃は、副作用で暫く、幽世が見えやすくなるからのう。
声までは聞こえぬじゃろうが、無念な霊達は見える事じゃろう。
幸太郎の強い陰の気を一瞬とはいえ、打たれておるからの。
まぁ早い話が、今はちょっとした不幸のお裾分け状態なんじゃな。ほほほほ。
「あの方々は、ここに不法侵入した老人達だよ。無論、君達もね。でも、幽霊は幻じゃないかな。俺にはそんなの見えないけど……」
幸太郎は少々強引に誤魔化した。
女子達はそれを聞き、憮然とする。
「ふ、不法侵入ですって……そんなわけないでしょ! 私はキタジマさん達に拉致されたんだから」
「そ、そうよそうよ! ウチらは不法侵入なんてしてないわ! 連れて来られたんだから!」
嘘はイカンのう。
指宿と幸太郎は一部始終を見ていたぞよ。
「そうかな? 実は俺達、勝手口から君達が入ってゆくところを見てたんだぜ。不法侵入の現場も、スマホでちゃんと撮ってたしね。証拠は押さえてあるんだな」
指宿はそう言って、スマホをチラつかせた。
じゃが、幸太郎はそれを見て、表情を曇らせたのであった。
恐らく、戦いを撮影されていたと考えておるんじゃろう。
ほほほほ、当たりじゃ。
ちゃんと指宿はスマホで撮っておったぞ。
誰の指示かは知らぬがな。
それはさておき、女子達は罰が悪そうに、少し俯き加減になった。
「え? と、撮ってたの?」
「ウソ……」
「ああ、バッチリ撮れてるぜ。なんなら見てみるか?」
女子達2人は、シュンと肩を落とした。
ぐうの音も出んようじゃ。
指宿は続いて、ユアという女子に視線を向けた。
「勿論、君もだ。さっきの男と一緒に入ってゆくのをちゃんと撮ってあるんだよ。君達3人の不法侵入の証拠はバッチリ押さえたからな。言い逃れは出来ないぜ」
すると女子は開き直ったのか、素直に頷いたのじゃった。
「ええ、そうよ。それが、どうかしたの? 私はあの男の人に連れられて、ココに来ただけだもん。不法侵入とか言われても知らないわ。それに私は、良い場所に連れて行ってあげると言ってたから、付いてきただけだもんね。そしたら、あの男が化け物になったんだから。あんなの見て、忘れられるわけないでしょ! 誤魔化してもダメなんだからッ!」
指宿と幸太郎は困ったように顔を見合わせた。
さて、どうするんかのう。
この女子はなかなか納得せんぞよ。ほほほほ。
幸太郎はそこで、指宿に耳打ちをした。
「指宿さん……強引にいきましょう。化け物なんかいないし、呪術も使っていない。ここにいるのは、不法侵入した老人と少女達。我々はこのビルの監視をしていた。……これで押し通すんです」
「確かに強引だが……コイツ等の言う事なんて誰も信じないしな。それでいいか。よし、採用だ」
指宿はそこでポンと手を打った。
そして2人は、女子達に向き直ったのである。
「君達さ、何言ってるんだ。ここには化け物なんかいないよ。夢でも見たんじゃないのかな」
おうおう、白々しくすっ惚けたのう、幸太郎よ。
なんでやねん! お前、めっちゃ方術使って、化け物を倒してたやんけ! と言いたいところじゃわ。
「夢ですって!? いきなり何を言うのよ! いたわよ! 私、ちゃんとこの目で見たもん!」
ユアという女子は、ムキになって言い返してきた。
「いないんだな、それが」
と、指宿が小馬鹿にしたように答える。
女子はそこで、輩共を指さした。
「じゃあ、あそこにいるキタジマさん達はなんなのよ。それにお兄さん、あの化け物を炎の魔法でやっつけたじゃない!」
「魔法? 何の事だ? そんなの使えないよ、俺は。おかしな事を言うね、君……」
幸太郎は堂々と知らばっくれた。
もうコレで押し通すつもりじゃな。
さて、上手くいくかのう。
「何言ってるのよ! お兄さん、もしかして誤魔化す気なの!」
「誤魔化すも何も、意味不明なんだが。君、気は確かか?」
女子は涙目になり、悔しそうに下唇を噛んだ。
「何よ! 私の事を馬鹿にしてるの! 絶対、見たもん。絶対に……あ、そうだ!」
と、そこで、ユアという女子は何かを思い出したのか、ポケットに手を入れ、スマホを取り出したのである。
「そ、そういえば、スマホで動画撮ってたんだった。これに、あの時の様子が映ってる筈よ!」
女子はそう言ってスマホを操作する。
程なくして女子は、大きく息を吐き、安堵の表情を浮かべた。
「あった! コレよ! これが動かぬ証拠なんだから! 認めないなら拡散するからね!」
女子は勝ち誇ったように、指宿と幸太郎にスマホ画面を向けた。
するとそのスマホ画面には、幸太郎があの妖魔と対峙しているところが映っていたのじゃ。
他の女子達も、そこでスマホを覗き込む。
「あ! コ、コイツよ! この化け物を見たのよ! やだ……手が4本もある。なによ……この蝙蝠みたいな化け物……」
「そうよ、間違いないわ! って、これ、お兄さんじゃない!」
女子達は口元を押さえ、驚き眼で、幸太郎とスマホを交互に見ていた。
そして、指宿と幸太郎はというと、額に手を当て、項垂れていたのである。
これはぬかったのう。
「なんであの状況で撮ってんだよ……」
スマホ映像は音声付きで再生されていた。
しかも、妖魔が火達磨にされている場面まで撮られていたのじゃ。
あちゃーじゃな。ほほほほ。
覗き込む女子達から、感嘆の声が上がる。
「ええ、何よこれ……凄い! 魔法じゃんこれ! 手から青い炎の龍みたいなの出てるじゃない! お兄さん、もしかして魔法使いなの!?」
「やだ……なにこれ。お兄さん、超カッコいい……」
女子達3人は幸太郎をガン見しておった。
ほほほほ、さぁどうする幸太郎よ。
より一層悪い事態になったぞい。
指宿は幸太郎に耳打ちした。
「三上君……非常に不味い状況になった。強引にいくと、アレを拡散されるかもしれない。どうする?」
幸太郎はそこで、ユアという女子に優しく微笑んだ。
どうやら、ふれんどりー路線でいくようじゃな。
しかし……イラッとくる爽やかな笑顔じゃのう。
さて、どうするんかいな。
「へぇ、拡散か……君みたいな可愛いい女の子が、そんな脅ししたらダメだよ」
「え、可愛い……って、騙されるもんですか。そんなのでスマホは渡さないんだから」
一瞬、満更でもないのか、少し嬉しそうな顔しておった。
ま、踏みとどまったがの。
「じゃあさ、取引しようじゃないか。お兄さんが新しいスマホを君に買ってあげるから、そのスマホくれないかな? ついでに、クラウドに上げてあるんなら、その動画も消させてもらいたいんだ。どうかな? 悪くない取引だろ?」
女子は負けじと、幸太郎に微笑み返す。
「いやよ。これはそんなんじゃ売らない。でも……ある条件を飲んでくれたら……譲ってもいいよ」
「なんだ条件て?」
「お兄さん……私と初めて会った時、言ったわよね。生き方を変えるんなら、この街を去れって」
「ああ、それがどうかしたのか?」
「じゃあ……あの、その……」
次の言葉が出てこんようじゃ。
どうやら言いにくい事なんじゃろう。
もどかしい表情で、幸太郎をチラチラ見とるわ。
「じゃあ、なんだい?」
幸太郎が催促した。
すると、女子はそこで意を決した表情になり、口を開いたのじゃ。
「なら……お兄さんが、私をココから連れ出してよ」
じゃが、幸太郎はゆっくりと、首を横に振ったのである。
「アレは自分で去れという意味だよ。俺がではない。というか、君は家出中なんだろ? なら、他に頼るところがあるんじゃないか?」
すると女子は、元気なくションボリと俯いたのじゃった。
「そ……そんな事を言わないでよ……あ、あんな家……二度と帰りたくない。もう私の居場所なんて……どこにもないんだから。もう、どこにも……」
詳細はよくわからぬが、この女子ではどうしようもない状況なのかものう。
他の女子達も同情の眼差しを向けておるわ。
「でもさ、そのスマホは親が契約してるんだろ?」
指宿はそこで女子のスマホを指さした。
しかし、女子は首を振り、それを否定したのである。
「これは……私のじゃない。そこにいるキタジマさんのよ」
「え? それって、この半グレ達のスマホなのか? どういうことだ、一体……」
意外にも輩のモノとはの。
かなり良いように使われておったんじゃろう。
「家出をして、この街に来て……他の子達とオーバードーズしてた時だった。私が街をフラフラと歩いてたら、キタジマさん達に会ったの。そこで事情を話したら、コレ使えって私に渡してきた。そしたら、美人局の仕事するから手伝えって言ってきて……それでお金貰って生活してきたの。勿論、悪い事してるってわかってたけど……仕方ないよ。誰かの近くにいないと……とても正気でいられなかったから……私……」
最後の方は消え入りそうな声であった。
なんというか、寂しい話じゃのう。
「なるほどね。そういう事情か。だが……君の処遇に関しては、俺の一存で決めるわけにはいかないんだ。後で上司がここに来るから、そこで君の事を俺も訊いてみるよ。何か選択肢が出てくるかもしれない。後は君が自分の意思で、その選択をするんだ。俺が出来るのはそこまでだからな」
幸太郎の言葉を聞き、女子は渋々ではあるが頷いた。
「うん……わかった。そうする。ところで……お兄さん達は一体何者なの?」
「それは上司から訊いてくれ。俺達にそれを言う権限はないんでね」
「そっか……。ねぇ、お兄さん……もう1つ……お願いしていい?」
女子はまた、言いにくそうに訊いてきた。
「なんだ?」
「その……お兄さんの隣に居ても良い? あの化け物を見てから……私……怖くて……」
女子はそう言って肩を窄め、ブルブルと身体を震わせた。
また思い出したんじゃろう。
「いいよ。そんなんで気が紛れるなら」
「ありがと……」
女子は立ち上がり、パイプに腰掛ける幸太郎の隣へ移動した。
そして幸太郎の服の裾をギュっと掴み、身を寄せたのじゃ。
幸太郎も、しょうがないといった感じじゃな。
女子は目を閉じて身震いしておった。
あの妖魔の姿に恐怖して、絶叫しておったからのう。
脳裏に焼きついておるに違いない。
「え、いいなぁ。じゃあ、私も……」
「それじゃ、ウチも」
他の女子達2人も、パイプに座る指宿と幸太郎の所に来た。
怖いのは皆、同じようじゃ。
無理もないわい。
「ねぇ……ユアじゃないけど、お兄さん達、本当に何者なの? あ、そうだ。私はナナミって言うの。数字の七に海ね。よろしく~」
と、ツインテールの女子が、空気を読まずに自己紹介してきた。
「私はアオイよ。ムズい漢字1文字のやつね。というか、葵の御紋ってのと同じやつかな。髪も青いけどねぇ~。よろしく~」
青い髪の女子も同じノリで続いた。
このチン横女子達は、まいぺーすなガキじゃのう。
「ねぇねぇ、お兄さん達の名前も教えてよ」
「この状況でする事かよ、ったく……」
と、指宿は呆れた。
幸太郎も同じじゃな。
呆れておるわ。
「いいじゃない、別に」
「よくねぇよ。なんなんだよ、そのテンションは……」
指宿と幸太郎は、この女子達のノリについていけぬようじゃな。
まぁそれはさておき、5人はその後、簡単な自己紹介のような事をして、暫しこの場で待機を続けたのであった。
その間、老化した輩共はずっと眠ったままじゃった。
御老体の眠りは深いからのう。
耳も遠くなっておるじゃろうしな。
ちょっとやそっとじゃ、目を覚まさぬのじゃろう。
しかし、面白い不幸展開になったモノじゃわ。
次は何があるんかのう。
ほほほほ、楽しみじゃ。




