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祟られ体質の俺、疫病神仕込みの呪術で、世の中の不幸を無双します!  作者: 書仙凡人
新天地での不幸編

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四十四の巻 傾奇町

   [四十四]



 幸太郎は所属部署である土地調査部にて、上司の斉木から、指宿と共に案件の説明を受けた。

 本日の仕事は、傾奇町とかいう場所にある、雑居ビルの怪異調査のようじゃ。

 なんでもそのビルで、霊の目撃情報や、奇怪な音が聞こえる怪現象が起きておるらしい。

 また、それが関係あるかどうかしらぬが、ここ最近はその近辺で、何人かの未成年者が行方不明になっているという、奇妙な噂があるとの事であった。

 とはいえ、警察沙汰にまではなっていないようで、今のところ表立って、そういう事件は発生していないそうである。

 あくまでも噂のようじゃ。

 物騒な話じゃが、一応の予備知識として斉木は話したんじゃろう。

 とどのつまり、気をつけろという事じゃ。

 しかし、行方不明になる子供達のう……我はその噂が妙に気になるわ。

 幸太郎も同じ考えか、その話を聞き、眉根を寄せておった。

 何事も無ければ良いがのう。

 そして、一通りの説明を受けた後、指宿と幸太郎は現場へと向ったのである。

 まぁそんなわけで、幸太郎達は今しがた、そのビルがあるという傾奇町に着いたところじゃ。

 しかし、今日も太陽がギラついておるのう。遠くがボヤけて見えるくらいじゃ。

 暑い一日が始まりそうじゃわい。

 というわけで、幸太郎の不幸行脚の幕開けじゃ。


「ここはいつ来てもクッサいなぁ……生ゴミが腐ったような臭いが、なぜか漂ってんだよ。今は暑いから、いつも以上に臭うぜ。まぁ嫌いな街じゃないけどさ」


 指宿はそう言って、汗をぬぐいながら顔を顰めた。

 我はニオイはわからんが、こ奴の顔を見る限り、本当に臭いんじゃろう。

 それにしても、凄い人の数じゃのう。

 流石は今の世の都じゃ。

 ちなみにここは、東京都のS区にある傾奇町(かぶきちょう)と呼ばれる地域で、治安も結構悪い所らしい。

 基本は歓楽街とやららしいが、夜になれば、人々の様々な欲望が剥き出しになる、眠らない街と化すようじゃ。

 話を聞く限りじゃと、幸太郎はあまり行きたくない所じゃろうな。

 というか、既に嫌な顔しておるわ。ほほほほ。

 ここは見るからに、人々の負の念が渦巻いておるからのう。

 幸太郎にとっては魔境じゃな。


「それはそうと三上君、傾奇町は初めてか?」


「ええ、初めてですね。俺は基本的に、用がない場所には行かないので。でも、色々と噂は聞いてますよ。日本で有数の歓楽街なんでね」


 妙な所に行くと、お土産を沢山もらって来てしまうからのう。

 難儀な話じゃて。


「そうか。まぁどういう町かは、メディアでも取り上げられる事が多いから、今更細かく言うつもりないけど、昼でもぼったくりの客引きとか、スカウトがいるから気を付けてな。不法入国の外国人や半グレ、それとカタギじゃないのも結構いるし。あと、西側は割と綺麗なんだけど、今から行くとこは街自体にゴミが多くて汚いし、ここ以上に臭うんだよね。ま、そこを我慢すれば大丈夫だと思うよ。昼なのに賑やかな街だしさ」


 指宿の言うとおり、人も多くて賑やかな街じゃ。

 大きなビルが沢山軒を連ね、色とりどりの看板が、上から下まで一杯に掲げられとるわ。

 夜はさぞかしキラキラしとるんじゃろう。


「ですね。でも……ニオイより、負の念の方がキツいですね、ここは。不幸の気を溜め込んでる人がそこかしこにいますよ」


 幸太郎はそう言いながら、街を行き交う人々を渋そうに眺めていた。

 なんというか、欲望に取り付かれた亡者が蠢いとる感じじゃな。

 こりゃ帰ったらすぐに、SPSで厄を落とさんとアカンじゃろうの。

 この街は鬼が多いわい。ほほほほ。


「へぇ……流石だね。三上君は霊感も凄いから、そういうのわかるんだな。まぁでも、この傾奇町は確かに、そういう人が多いかもな。さて、それじゃあ行こうか。目的の場所は知ってるから、付いてきてくれ」


「はい」――


 指宿と幸太郎は移動を開始した。

 人が多く歩きにくいが、2人はそれらの間を縫うように歩いて行く。

 しかし、すれ違う人々を見るに、色んな素性の者達がいるのう。

 ガラが悪い輩風の奴や、普段何してるのかわからん小汚い格好をしたオッサン。女装や男装した奴等や、年端のいかぬ訳ありの子供達。あるいは、普通の会社員風の者等々、それは様々じゃ

 おまけに、道にはゴミも多いしのう。

 この傾奇町とやらは、指宿の言うように、色々と曰く付きの街のようじゃ。

 そして、そんな街の雑踏を進んでゆくと、幸太郎達は程なくして、開けた広場のような場所に出たのじゃった。

 ここも色んな奴等が行き交っていた。

 派手な格好した奴や、地べたに座り込む妙な若者もおるわい。

 そして、色鮮やかな種々のゴミが、結構散らばっておるのう。

 ココにいる人間達同様、ゴミもばらえてぃに富んでおるわ。

 しかも、パッと見は綺麗なのに、凄く汚い所なのが面白いぞよ。

 まぁそれはさておき、広場に出たところで、指宿が立ち止まり、幸太郎に振り返った。


「三上君、あの建物がS珍宝ビルで、その隣のココが、未成年の溜まり場で有名な、チン横広場ってやつだよ。日中はガキ共もさほどいないから、メディアが言うような感じじゃないけどな。とはいえ、如何わしい連中は多いから、あんまり拘らないようにな。ま、それはともかく、目的地はこの近くのアレさ」


 指宿はそう言うと、少し離れた所に見える、路地裏の古い雑居ビル群を指さしたのである。

 そこは、このチン横広場周辺の街並みからすると、(いささ)か、古い装いの区域であった。

 とはいえ、人の出入りはそこそこあるようじゃ。


「あの辺は都の再開発事業で、数年後には取り壊しになるんだけど、俺達の調査はそんなの関係ないんだよね。それに、アレは一応ウチの物件だから、放っておくわけにいかないのさ。というわけで、とっとと終わらせて帰ろうぜ」


「ですね。俺も早く帰りたいです」


 嫌な陰の気が徐々に集まって来てるのが、幸太郎もヒシヒシと感じてるのじゃろう。

 そりゃ早く帰りたいわな。ほほほほ。



   *



 指宿と幸太郎は、古い雑居ビル群を進んで行く。

 そこは、路地裏っぽい場所という事もあり、少し陰気な感じじゃった。

 とはいえ、人は結構多いがの。

 途中、客引きのチャラ男が何人か来たが、2人は適当にあしらいながら進んで行く。

 するとそんな中、道路脇から、2人に近づいて来る妙な女が現れたのじゃ。

 それは年端もいかぬ女子(おなご)じゃった。

 今までと違う雰囲気の客引きじゃのう。

 子供を使って、泣き脅しでもするんかいな。


「ねぇ……お兄さん達、私と遊ばない? 1時間2万円で……好きにしていいから。私みたいな超若い子も、悪くないでしょ?」


 女子はそう言って、無気力に微笑んだ。

 年は10代前半から半ばくらいか。

 覇気のない表情をしており、太腿と肩を大きく露出する卑猥な衣服を着ている。

 また、背中にまで届く長い黒髪で、身体は痩せ型じゃった。

 そこそこ可愛い顔をしとるが、育った環境は良くなさそうじゃのう。

 手首に躊躇(ためら)い傷が幾つか見えるぞよ。

 恐らく、リストカット痕とかいうやつじゃな。

 かなり訳ありな女子じゃのう。

 我の見立てでは、売春婦の類と見た。

 さぁて、幸太郎よ。どうする?

 小娘を買うのか、買わないのか、どっちなんじゃい。

 などと思っていると、指宿が幸太郎に耳打ちしたのじゃった。


「三上君……立ちんぼしてるガキだよ。こんなの無視だ。それに、コイツはたぶん美人局(つつもたせ)だな。ガキのだいぶ後ろの方を見てみろよ。厳つい半グレみたいなのいるだろ?」


 幸太郎はそこで、チラッと女子の後方を見た。

 するとそこには、腕に刺青を入れた輩が何人かおり、コチラの方をチラチラと見ていたのである。

 なるほどのう。


「いますね。アレが指示役ですか?」


 幸太郎も小声で返した。


「ああ、そうだろう。リーマンを狙って、よくあるんだよ。ガキと売春させて、半グレがそれをネタにゆすって来るんだ。こんなのは無視するのが一番だぜ。行こうぜ」


「そうですね。ですが……ちょっとだけ、忠告しときますよ」


「え、忠告?」


 指宿が首を傾げる中、幸太郎は女子に向き直った。

 そして、幸太郎は淡々と話を始めたのである。


「名前は今井優愛(ゆあ)。年は13歳。6年前に父親が他界。その後、母親が再婚。そして、その再婚相手のDVに耐えかねて家出し、この界隈に流れてきたドン底少女が、今のお前だ」


 女子はギョッと目を見開き、息を飲んだ。

 いきなりじゃから、度肝抜かれたようじゃな。

 幸太郎には、この女子に寄り添う霊が見え、訴える声が聞こえるからのう。


「え……な……なんで……私の事を」


 幸太郎はそこで女子を指差した。

 

「いいか、よく聞け。1つだけ忠告しておいてやる。お前は今、人生の岐路に立っている。引き返すなら今だぞ。底辺を這いずり回るか、少しでもマシな生き方をするかのな。後者を選びたいなら、この街を一刻も早く去る事だ。よく考えて選べ。じゃあな、リスカ付きの不幸少女」


 女子は直立不動で身体を震わせていた。

 少し怯えておるわ。

 幸太郎も遠慮なしじゃな。ほほほほ。


「さて、では行きましょうか、指宿さん」


 そして幸太郎は、スタスタと先を進んだのである。

 指宿が追いかけてくる。


「お、おい……なんなんだ今の? あの子の事を知ってるのか?」


「いえ、知りませんよ。そういう電波を受信しただけです」


「なんだよ、電波って……」


 幸太郎独自の隠語じゃな。

 こ奴は霊が語りかけてくるのを電波受信と呼んでいるからの。


「そんな声が聞こえてきただけですよ。但し、合ってるかどうかは知りませんけどね」


「へぇ……そういや三上君て、霊的感覚の検定結果も凄かったもんな。でも……あの子はもうダメだろうな。半グレの食い物にされて終わりだよ。可哀想だが……ああいう子、最近多いんだよね。マッチングアプリやSNSで寄ってくるのもいるし。そんで、行政もこういう界隈は諦め気味だしな」


 指宿はそう言うと、後ろにいる女子をチラっと見た。

 まだ呆然としながら立っとるわい。


「でしょうね。でも……大人だろうが、子供だろうが、人生の選択は基本的に本人にしかできません。ちゃんとした家庭の子供でも、それは変わりませんよ。選択肢のハードルが、各々違うだけですから。何れにしろ、人は自分で選択した結果を否応なく受け入れ、それで生きてゆくしかないんです。冷たいようですが、それが人の世というやつですよ」


 幸太郎は今まで、色んな人間の闇を見てきたからのう。

 今のは、それで得た幸太郎の結論なんじゃろう。

 とはいえ、さっきの言葉は、幸太郎なりの情けじゃろうがな。

 あの女子に、この咒が掛かるかどうかは知らぬがの。


「確かにそうかもしれないけど……世知辛い世の中だよな。こんなに人が沢山いるのに、皆、見て見ぬふりしてるしさ。って、俺もか。おまけに、親はどうなってんだか……」 


 指宿もチャラそうに見えるが、ちゃんとした倫理観はあるようじゃ。


「親は恐らく、無関心なんじゃないですか。なんとなく、そんな気がしますよ」


「かもなぁ……ここに流れ着いてくるような子供だ。家庭環境は大いに問題アリだろうな。しかし、こんな反社が支配する街に、なんで来るんだろうね。食い物にされて、もっと酷い状況になるかもしれないのに……」


 それが人というモノじゃよ、指宿。

 幸太郎は色んな境遇の者達を見てきたから、ようわかるじゃろう。


「指宿さん……人間社会の枠組みで生き抜くには、寂しさや不安をなるべく克服しなきゃなりません。だから人は無意識に、自分と同じ境遇の者か、もしくは、自分より酷い境遇の者を探すんですよ。それらを見つける事で、共感や優越感を得られ、寂しさを紛らわせるようになるんですから。まぁ今の時代は、ネットという文明の利器があるから、家の中でそういう場所を見つけ、引きこもる者も多いですがね。でも、それすら納得できない奴は、こういう所に自ら来てしまうんだと思いますよ」


 というか、幸太郎自身がそうじゃったからのう。

 厄落としをしていたのは、それもある筈じゃ。

 過酷な場所へ自ら赴き、自分と同じ境遇の者を探しておったに違いない。

 まぁ結局、見つからず仕舞いじゃがな。


「寂しさか……確かにそうかも。未熟な子供の精神状態なんて、常に不安定だしな。でも、法律でどうにかならんもんかね。ちょっと不憫に思う時もあるよ。親にすら見放されてるし。まぁそういう俺も、偉そうな事は言えないんだけどさ」


 指宿はそう言って、悲し気に空を見上げた。

 意外にも、憂いているようじゃ。

 もしかすると、指宿も似たような境遇じゃったのかもの。

 

「指宿さんが言うように、あの子の場合、法的には保護者が必要な年齢です。でも残念ながら、法律は秩序をもたらす為のモノであり、個人を救う為のモノではないんですよ。結果的に、それで救われる人もいるかもしれないというだけです。知らなければ、それまでですしね。それに法律というモノは、言ってしまえば、国家というコミュニティーを効率よく運営する為に、人の行動を細かく制限し、コントロールする、呪いみたいなモノですからね」


 幸太郎のあんまりな言い方に、指宿は苦笑いを浮かべた。


「三上君てやっぱり現実派だなぁ……でもさ、どうにもならない子もいると思うよ。誰かが手を差し伸べてやるといいんだけど、警察や行政の人間も、チン横みたいな所には大きな事件でも起きない限り、なかなか手が入らないだろうしさ。まぁ一応、正義感から声掛けする者もいるみたいだけど……大多数の者は見て見ぬふりなんだよ。面倒だからね」


 この話題に対して、チン横という言葉が異彩を放っておるのう。

 真面目な話をしとるのに、イチモツの位置の話をしておるようじゃわ。

 まぁとはいえ、そんな事を言える空気ではないがの。

 チン横、大いに結構じゃ。


「指宿さん……警察もですが、法律家や行政側の人間は、社会的地位と安定した食い扶持を得られる職業として、その仕事を選んでるのが大半です。なので、本当の意味で寄り添える人間は家族くらいなんですよ。ですが、あの子の場合……今は家族にすら見放されてる状態かもしれません。多分、人間不信になってるでしょうね。でも、冷たいようですが、自分で生きる方法を模索して、それを選択していくしかないんですよ。人間社会で生きるというのは、意外と大変なんです。でも、自分で乗り越えるしか、その方法はないんですよ」


 これが、幸太郎なりの今の世の見方じゃな。

 幸太郎は常に、重要な決断を迫られる境遇になってしまったからのう。

 まぁそれもこれも、こ奴の自業自得なんじゃがな。

 今はよう身に沁みておるじゃろうがの。


「確かにな……色々と難しい問題だよ。でも結局、問題の解決は無理なんだろうけどな」


「無理でしょうね。とはいえ、まだ日本という国は、自分で決断できる余地が多い分、かなりマシですよ。他の治安悪い国は選択する間もなく、理不尽な理由ですぐ人が死にますからね。そう考えるとこの街は、底で生きると覚悟した者には楽園なのかもしれません。俺は嫌ですけど」


「まぁ身も蓋もない言い方だけど……確かに、そういう考え方もあるか。おっと……さて、このビルだ。では、仕事といこうか、三上君」


「ええ」――


 そして2人は、目的の古いビルへと入って行ったのじゃ。


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