帝都の午後と、異邦の食卓
今回は第5話の設定を使いました。が、俺も少しごっちゃだったなぁという内容です。
二つの太陽が天頂から街を焼き、石造りの建物が白く反射している。
この帝都は、かつて訪れた辺境の試験場とは訳が違った。整備された広い石畳、規則正しく並ぶ商店、そして絶え間なく行き交う馬車の車輪の音。帝国の繁栄を象徴するような、活気に満ちた、どこにでもある普通の大きな街の光景だ。
彼は宿の固いベッドから身体を起こすと、大きく一度だけ欠伸をした。
190cmを超える身体は、狭い部屋の中ではいささか窮屈だが、彼はそれを気にする様子もなく、寝癖のついた髪を無造作にかき上げる。数日間、彼はこの部屋でほとんど何もせずに過ごしていた。特別な修行をするわけでも、思索に耽るわけでもない。ただ、外に出るのが面倒だったからだ。
「……さて。さすがに腹が減ったな」
低く、少し眠気の混じった声で独りごちる。
彼は適当なシャツを羽織り、最低限の身なりを整えて部屋を出た。ギルドに併設された宿舎の廊下では、若手冒険者たちが次こそは高ランクの依頼をと熱っぽく語り合っていたが、彼はその横を、気配を消すように通り過ぎる。知らない人間に話しかけられることほど、彼にとってエネルギーの無駄遣いはない。
ギルドを出て表通りに出て少し歩いた道中、派手な服を着た商人に強引に腕を掴まれそうになった。
「おい、そこの旦那! いい体格だ、うちの新しい防具を試していかないか?」
「……いらない。間に合ってる」
彼は立ち止まることすらなく、短く拒絶する。
「冷たいねぇ、見るだけでも……」
「面倒だ。他を当たれ」
わずかに眉を寄せ、不快感を隠さずに言い放つ。その冷めた視線に気圧されたのか、商人は「……なんだよ、愛想のねぇ男だな」とぼやきながら手を引いた。
彼はため息をつく。知らない人間に構われるのは、それだけで疲れる。
ようやく目的の店に着くと、そこは薄暗く、期待通りに静かだった。
カウンターに座ると、無愛想な店主が「何にする」とだけ聞いてくる。彼はメニューの一番上に書かれた、この街で定番だという角山羊の香草焼きと、聞いたこともない赤い果実のジュースを注文した。
しばらくして運ばれてきたのは、厚く切られた肉に、何層ものスパイスと香草が刷り込まれた野性味溢れる一皿だった。付け合わせには、茹でた後に一度揚げられたような、ホクホクとした未知の根菜が添えられている。
フォークで肉を切り分け、口に運ぶ。
噛みしめると、これまでに味わったことのない、濃厚で少し酸味のある肉汁が溢れ出した。日本料理のように繊細な旨味を重ねるのとは対照的に、素材の力強さを暴力的なまでの香辛料で引き立てる、この世界特有の異世界の味だ。
「……悪くない」
独り言。不味いものを不味いと言うのと同様に、口に合うものを否定するほど、彼は意固地ではない。赤い果実のジュースは、見た目の毒々しさとは裏腹に、驚くほどスッキリとした甘みがあり、肉の脂を綺麗に洗い流してくれた。
食事を終え、店を出た彼は、腹が満たされたことで少しだけ思考を前向きに切り替えた。といっても、何か大層な冒険に出る準備を始めるわけではない。ただ、先日の試験や森での雑務で、手持ちの道具にガタがきていることに気づいただけだ。
彼は賑やかな大通りを避け、裏路地から繋がる職人街へと足を向けた。帝都の職人街は、表通りの華やかさとは異なり、槌を振るう音と、焼けた鉄の臭いが混じり合う無骨な空気に支配されている。
目的の武器屋は、通りの中ほどにある、看板すら出ていない小さな店だった。入り口の脇には、手入れの行き届いていない鉄屑が山積みになっている。彼はその山を一度だけ見下ろし、それから気怠げに扉を押し開けた。




