定番の忌避、あるいは不純な救済
街道を戻る途中、彼は再び、この世界の底の浅さに直面することになった。
緩やかなカーブを曲がった先、本来なら平和な交易路であるはずの場所で、豪華な装飾が施された馬車が横倒しになっていた。車輪の一つは無惨に破壊され、その周囲には、下卑た笑みを浮かべた野盗たちが、怯えるメイドたちを囲んでいた。
「ひひっ、いい鳴き声だぜ。貴族の飼い犬も、服を剥ぎ取ればただの肉だな!」
野盗のリーダー格の男が、錆びたナイフでメイドの服を引き裂こうとする。メイドは恐怖で声帯が強張っており、音にならない悲鳴を上げながら、ガタガタと震える脚で逃げようとするが、すぐに追い詰められる。
彼は街道の途中で足を止め、深い、地の底から這い出してきたような吐息をついた。
こういう展開は、どの世界においても呪いのように繰り返される。助ければ感謝され、恩を売ることができ、そして面倒な人間関係という名の鎖が絡みつく。彼が最も忌避する、非効率の極みだ。展開をかき回すだけの無能なヒロインや、恩を盾に執着してくる貴族。それらは、彼の平穏な業務遂行を脅かす不純物でしかない。
「……はぁ。無視して通り過ぎるのも、後で騒がれると面倒か。目撃者を消す方が早いか、それともこれ自体を無効化するか」
彼は迷うことなく、野盗たちの背後に音もなく姿を現した。190cmを超える巨躯が投げかける影が、悦びに浸る男たちの背中を、まるで死神の鎌のように覆い尽くしていく。
「あのなぁ……そういうのは、店にでも行ったらどうだ?」
緊張感の欠片もない、冷え切った声。野盗たちが驚愕に顔を歪め、一斉に獲物を彼に向けた。だが、彼はその殺意すらも、耳元を飛び交う羽虫の羽音と同程度の熱量で受け流す。
「なんだテメェは! 英雄気取りか? それとも死にたい馬鹿か!」
「英雄? そんな安っぽい職業に就いた覚えはない。ただ、そこに道があるなら通りたいだけだ。お前らのしていることは、この世界の流通を阻害し、俺の歩みを遅らせている。……楽しみたいなら街の店へ行け。そっちの方が衛生面も安全面もマシだろ?」
提示されたのは、正義の鉄槌でも、救済の言葉でもない、あまりに世俗的で合理的な代替案だった。
野盗たちは困惑し、あまりの異様さに戦意を削がれ、ただその場に立ち尽くしていた。しかし、一人の男が恐怖を誤魔化すようにナイフを振り下ろした。
彼はそのナイフの軌道を視認することなく、最短距離で男の顎を掌底で打ち抜いた。
バキッ、という硬質な音。
男は意識を刈り取られ、糸の切れた人形のように地面に崩れ落ちた。それを見た他の男たちが、ようやく自分たちが対峙しているのが人間ではなく、底知れない何かであることを理解した。
「……逃げろ! こいつはヤバい!」
野盗たちは、自分たちが弄ぼうとしていたメイドたちを放り出し、脱兎のごとく森へと消えていった。
後に残されたのは、震えるメイドたちと、破壊された馬車。彼はメイドたちの安否を問うことすらなく、ただ道を塞いでいる破片を無造作に蹴り飛ばした。
「……助けて、くださったのですか?」
一人のメイドが、涙を浮かべて彼を見上げた。彼はその瞳に宿る感謝という名の不純物を一瞥し、無機質な声で答えた。
「邪魔だっただけだ。感謝する暇があるなら、次の護衛の心配でもしろ」
彼はそれだけ言い残し、立ち去ろうとしたが、馬車の奥から一人の令嬢が這い出してきたことで、状況はさらに彼の忌避リストを埋めていくことになる。
いかがでしたか?
まぁ…はい…言いたいことはわかりますがなろう系全否定でしたね…まぁ気にせず見て下されば嬉しいです




