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鬯シ驕 髯ス霓《エラー》〜名のしらぬ主人公〜  作者: 変人
第1章名も無き人間と勇者
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定番の忌避、あるいは不純な救済

 街道を戻る途中、彼は再び、この世界の底の浅さに直面することになった。

 緩やかなカーブを曲がった先、本来なら平和な交易路であるはずの場所で、豪華な装飾が施された馬車が横倒しになっていた。車輪の一つは無惨に破壊され、その周囲には、下卑た笑みを浮かべた野盗たちが、怯えるメイドたちを囲んでいた。


「ひひっ、いい鳴き声だぜ。貴族の飼い犬も、服を剥ぎ取ればただの肉だな!」


 野盗のリーダー格の男が、錆びたナイフでメイドの服を引き裂こうとする。メイドは恐怖で声帯が強張っており、音にならない悲鳴を上げながら、ガタガタと震える脚で逃げようとするが、すぐに追い詰められる。


 彼は街道の途中で足を止め、深い、地の底から這い出してきたような吐息をついた。

 こういう展開は、どの世界においても呪いのように繰り返される。助ければ感謝され、恩を売ることができ、そして面倒な人間関係という名の鎖が絡みつく。彼が最も忌避する、非効率の極みだ。展開をかき回すだけの無能なヒロインや、恩を盾に執着してくる貴族。それらは、彼の平穏な業務遂行を脅かす不純物でしかない。


「……はぁ。無視して通り過ぎるのも、後で騒がれると面倒か。目撃者を消す方が早いか、それともこれ自体を無効化するか」


 彼は迷うことなく、野盗たちの背後に音もなく姿を現した。190cmを超える巨躯が投げかける影が、悦びに浸る男たちの背中を、まるで死神の鎌のように覆い尽くしていく。


「あのなぁ……そういうのは、店にでも行ったらどうだ?」


 緊張感の欠片もない、冷え切った声。野盗たちが驚愕に顔を歪め、一斉に獲物を彼に向けた。だが、彼はその殺意すらも、耳元を飛び交う羽虫の羽音と同程度の熱量で受け流す。


「なんだテメェは! 英雄気取りか? それとも死にたい馬鹿か!」


「英雄? そんな安っぽい職業に就いた覚えはない。ただ、そこに道があるなら通りたいだけだ。お前らのしていることは、この世界の流通を阻害し、俺の歩みを遅らせている。……楽しみたいなら街の店へ行け。そっちの方が衛生面も安全面もマシだろ?」


 提示されたのは、正義の鉄槌でも、救済の言葉でもない、あまりに世俗的で合理的な代替案だった。

 野盗たちは困惑し、あまりの異様さに戦意を削がれ、ただその場に立ち尽くしていた。しかし、一人の男が恐怖を誤魔化すようにナイフを振り下ろした。


 彼はそのナイフの軌道を視認することなく、最短距離で男の顎を掌底で打ち抜いた。

 バキッ、という硬質な音。

 男は意識を刈り取られ、糸の切れた人形のように地面に崩れ落ちた。それを見た他の男たちが、ようやく自分たちが対峙しているのが人間ではなく、底知れない何かであることを理解した。


「……逃げろ! こいつはヤバい!」


 野盗たちは、自分たちが弄ぼうとしていたメイドたちを放り出し、脱兎のごとく森へと消えていった。

 後に残されたのは、震えるメイドたちと、破壊された馬車。彼はメイドたちの安否を問うことすらなく、ただ道を塞いでいる破片を無造作に蹴り飛ばした。


「……助けて、くださったのですか?」


 一人のメイドが、涙を浮かべて彼を見上げた。彼はその瞳に宿る感謝という名の不純物を一瞥し、無機質な声で答えた。


「邪魔だっただけだ。感謝する暇があるなら、次の護衛の心配でもしろ」


 彼はそれだけ言い残し、立ち去ろうとしたが、馬車の奥から一人の令嬢が這い出してきたことで、状況はさらに彼の忌避リストを埋めていくことになる。

いかがでしたか?


まぁ…はい…言いたいことはわかりますがなろう系全否定でしたね…まぁ気にせず見て下されば嬉しいです

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