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父さんな、ラーメン屋で食っていこうと思うんだ  作者: メモ帳パンダ
そして文化へ

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第51話 ラーメンの国際化 前編

 大阪国際空港――伊丹空港はこの時代の大阪の唯一の玄関口だ。

 俺が迎えの車を駐車場に停めると、遥香ちゃんが助手席に乗り込んできた。


「敦史くん、お迎えありがとう!」


「気にしないで。関東出張、お疲れ様」


 遥香ちゃんは関東の新店舗のテコ入れをして戻ってきた。


「関東の新店舗、どうだった?」


「難しい店舗もあるわね。特に――やっぱり家賃が高いから、要求される売上げも大きいしね」

 

 関東はライバルも多いし、関西ほど素直には伸びない。苦戦してる店もいくつかある。


「特に鶯谷の店はダメね。地域の客層と価格帯が合ってないんでしょうね」


「あの店って賃貸契約は一年ごとの更新だっけ? 居抜きで初期費用はほぼ無かったし、次の更新は見送ろうか」


 赤字見込みは聞いているが、額としては大したことないはずだ。

 提供数が増えればスープ工場の効率も上がる。これくらいなら許してもいい気もする。


 遥香ちゃんは悔しそうに、窓の外を見た。

 

「あの店、ウチで初めて閉店する店になるかもね……」


 全部の店がうまくいくわけではない。

 カップ麺ブームの時はどんな店でも行列ができまくっていたが、さすがに今は効果はかなり薄れている。


 関西ではメディア露出が途切れておらず、どこもそれなり利益は出ている。……一店舗を除けば。

 

 そんなことを考えていると、遥香ちゃんがふっとシートベルトを外した。

 ドアに手をかけて、今思いついたみたいに言う。


「そうだ。このまま、関西の問題店舗もついでに見に行こっか」


 唯一の失敗店舗は、空港の近くにある。できれば行きたくない。

 遥香ちゃんが産休している間に俺が強引に作った店舗だったからだ。

 その店舗が失敗しているので気まずい。


 俺は二人での視察を避けようとして、咄嗟に息子の話を持ち出した。


「幸樹が遥香ちゃんに会いたがってるよ。早く帰ろう!」


「幸樹はお義母さんが見てるでしょ。行くよ!」


 俺は半ば強引に外へ連れ出された。

 もう……、仕方ないなあ。


 問題の店は空港の徒歩圏内だ。

 梅田に向かうモノレールの乗り場の近くにある。

 

 『令和グローバル 伊丹旗艦店』という立派な名前がついている。旗艦店と名乗っているが、実質ここ一店舗だ。

 『令和グローバル』の特徴は伊丹空港を利用する外国人向けのラーメン屋であること。

 この時代には珍しく多言語対応で、英語を使えるスタッフも常駐している。


 店内に入ると――半分くらい埋まっている。

 まあ、夕方のこの時間にこのくらい埋まってたら赤字は出ない。一見すると成功に見える。

 だが、狙いは外している。外国人向けのはずなのに、日本人しかいない。


「この店、わざわざ英語対応する必要ないんじゃないの?」


「だから、これからラーメンは国際化するの!」


 令和の時代では、有名なラーメン屋には大量の外国人が並んでいた。受け入れられないわけじゃない。


 遥香ちゃんは俺の言葉を疑わしそうに聞いている。


「そうなのかなぁ。でもあんまりその兆候は見えないね」

 

 インスタントラーメンが海外に広がり始めてまだ数年。まだ海外ではラーメンは安い飯の扱いだ。

 袋麺は大学生や生活困窮者がカロリーを摂取するためのもので、八百円払って食べに来る文化はこれからだった。

 将来的な海外展開も考えていたが、この店の現状を見る限り、今は時期が早いのかもしれない。


 券売機の前で遥香ちゃんと話していると、奥からこの店の店長が出てきた。

 ウチで英語をまともに話せるのは、ほぼこの人だけだ。

 

「社長、お久しぶりです。最近顔を出してくれないから忘れられたかと思いました」


 出会い頭に嫌味を言われた。この店には半年ぐらい顔を出していない。

 自分の失敗を直視したくなかったのもある。


「相変わらず、日本人しかいないね……」


「いや、実はそうでもないんですよ」


 否定しつつ、店長はなぜか嬉しそうに笑っている。


「うーん、外国人いないけど」

 

 俺はその言葉を受けて席を見回した。

 全く外国人いるように見えないけど……。

 ただ、前よりは繁盛しているかな。


「いやいや、今いるお客さん実は二割くらい韓国の方なんですよ」


 こっそりとテーブル席に座ってる家族連れを指差す。

 あぁ、なるほど。

 確かに韓国人と日本人だと見分けがつかないな。


「開店時は韓国人ってほぼいなかったですよね?」


 俺は店長に聞く。

 最近は細かい報告を追っていない。だが以前見た資料では、外国人比率は1%以下で、欧米の客が中心だったはずだ。


 店長の答えを聞いて、ようやく腑に落ちた。


「あぁ、韓国政府が海外旅行を解禁したの最近ですからね」


 向こうでは日本旅行ブームが起きており、テレビでこのラーメン屋が紹介されたらしい。

 想定していた層とは違うけど、この店舗が目的を果たしつつあるのは嬉しい。――なるほど、店長が嬉しそうな理由はそれか。

 外国人が来なかったら、家賃が高くて利益率の低い店舗になってしまう。


 テーブル席に腰を下ろして、遥香ちゃんと話す。


「敦史くんの海外にラーメンを広める野望は意外にうまくいきそうなんだね」


「いや、韓国人はちょっと特別だから参考にならないんだよ」


「そうなの?」


 韓国は袋麺が最初に広まった国の一つだ。

 戦後に日本からの技術供与で国産化されて、急速に普及した。

 日本と同じように米国からの援助物資として届いた小麦の消費に困っていたのも背景にある。


「なので割とラーメンが受け入れられやすいんだよね」


「へー。そうなんだ!」


 その元気な相槌は、だいたい半分聞いてない時のやつだ。


「それに比べて、他の外国人は難しいんだよね……」


 あまり興味がなさそうな遥香ちゃんに、俺はラーメンの国際化の障害になる要素を力説し始めた。

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― 新着の感想 ―
確かに時代的に外国人にはラーメンは早すぎたかな おそらくネットの普及で世界の流行りがシンクロしだしてからの現象なのかもしれないね
更新ありがとうございます。
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