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父さんな、ラーメン屋で食っていこうと思うんだ  作者: メモ帳パンダ
そして文化へ

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50/50

第50話 子供

 平成五年。ラーメン屋を開店してから六年が経った。

 『令和』は六十店舗まで拡大していた。

 この時代にしては、ここまで大きいラーメンチェーンは珍しい。


 工場は関東と関西に二つある。

 特に関西の工場は、ちょっとした観光名所のようになっていた。


 大阪の湾岸部に、去年竣工したばかりの近代的な工場がある。

 そこから店舗へ向かうトラックが、ひっきりなしに出ていく。


 手前には旧工場があり、その隣にコンビニ、さらに二世帯のマイホームが並ぶ。

 旧工場の二階にあったオフィスは、随分前に北新地へ移転した。

 一階では母親が今も中華料理屋をやっている。

 俺はのんびり、旧工場の二階で飯を食っていた。


「パパー」


 部屋の隅で積み木をしていた男の子が、よたよたと近づいてきた。


「どうしたんだい、幸樹(こうき)


 この子は遥香ちゃんとの間に生まれた一人っ子の幸樹だ。

 二歳半で言葉が増えてきた。


「ヒコウキー!」


「おぉ、そっくりだね」


 積み木で作った作品を自慢しにきたようだ。かわいい。

 最近は伊丹空港に遥香ちゃんを迎えに行くことが多く、そのたびに展望台から飛行機を見せている。

 どうやら好きになったようだ。


「ねぇ、ママは?」


「ママはねぇ、今日の夕方には帰ってくるから迎えに行こうねぇ」


「? ママいないの?」


 遥香ちゃんは副社長として敏腕を振るっているので、基本的には家にいない。

 最近、関東地方の店舗の総括をしてくれていた美山くんが辞めて独立してしまい、関東拠点はバタバタしている。

 なので、副社長直々に立て直してくれているわけだ。

 実際、年の半分くらいは東京にいる。


 ワーカーホリックなんだよなぁ。

 遥香ちゃんがこんなに働けるのも、ウチの母親の協力のおかげだ。

 母は嬉々として幸樹の面倒を見てくれている。

 とはいえ、ずっと任せきりは悪いので、俺も一日に何時間かは子守りをしている。

 あまり効率よく仕事ができているとは言えないが、幼稚園に通える年齢になるまでの短い期間だ。


「ほら、幸樹。じゃあ、今日はメンマの作り方について勉強しようか」


「? うん!!」


 幸樹は後継者になってもらう予定なので、今から英才教育を施している。

 危ないから厨房はまだ禁止。まずは座学だな。


「メンマはね、中国のタケノコから作られるんだよ」


 幸樹は半分聞き流して、車のおもちゃで遊び始めた。


「パトカー、ブンブン!」


「メンマはほぼ輸入。父さんも試したけど、日本の竹で作ると歯応えが違うんだ」


「ブーン!」


 俺の言葉に同意するように、パトカーのおもちゃを動かす幸樹。

 そんなふうに幸樹にラーメンの極意を教えていると、階段を登ってくる物音が聞こえた。


「あっ、バァバだ!」


 幸樹は俺の膝から降りて、柵の方へ歩いていく。

 そして階段の前にある転落防止用の柵を揺すっていた。


「あらまぁ、幸樹くん」


 上がってきたのは俺の母。孫に大歓迎されてニコニコしている。


「敦史、あとは見とくから遥香ちゃんの迎えをお願い」


 今日は遥香ちゃんが羽田空港から大阪に戻る日だ。

 迎えに行く予定が入っている。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 伊丹空港の近くには『令和』の最初期に建てられた店がある。

 久しぶりに寄っていこうと思っている。

 着陸経路の真下にあり、とにかくうるさい店だ。

 二重になっているドアを開け、店の中に入る。


 十四時くらいだが、店の中はほぼ満席だ。

 案内に来てくれた女の子に話しかける。


「火神です。店長、今大丈夫?」


「わっ! 生の社長だ。てんちょー! てんちょー!」


 奥の方に走っていってしまった。

 珍しいものを見るみたいな反応だな。

 彼女が騒いだせいで店中の客の視線を浴びている。

 関西ではテレビ番組に出ることが多く、結構有名人だ。


 少し待つと、奥からこの店の店長が出てきた。

 創業時から働いてくれているケンジくんだ。


「火神社長、二年ぶりくらいに視察に来てくれましたね」


「いやぁ、この店はいい意味で用事ないですからね」


 店長陣の中では、ケンジくんを一番信頼している。

 新店舗だったり、売上が悪い店は視察することがあるが、この店は順調だしな。

 カウンターに座ると、二種類のラーメンが出てきた。

 醤油豚骨と濃厚味噌だ。


 それぞれ小皿に分けて一口麺をすすり、スープを飲む。

 全部は食べられないので、残りは賄いに回してもらう。


「うん、パーフェクトだな」


 ウチは味の安定が売りだ。

 全てが直営店であるため、マニュアル通りに作ってくれる。

 材料をケチったりはしない。


「社長、セットの餃子です」


 サイドメニューの餃子も二年前から工場で作り始めた。

 味はまぁ、普通だ。

 でも原価にはかなりこだわっている餃子だ。

 外注していた頃に比べて、原価は八割ほどになった。


「この店の餃子、うまい気がするね」


「ウチのマニュアルは餃子以外は工夫する余地がないですからね」


 どの店舗も張り切っているんです。そう続けるケンジくん。


 確かに餃子のマニュアルには『いい感じに蒸しながら焼く』くらいしか書いていなかった気がする。

 マニュアル作りは基本的に俺の担当だけど、あまり餃子には興味がないのだ。


 俺は店の中を見渡す。さすがウチの優良店舗。

 客入りは素晴らしい。


「こんな時間でも席、埋まってるんですね」


「これでも少ないんですよ。隣に牛丼屋ができてから、結構客が取られちゃいました」


 この店舗は土地の賃料が信じられないほど安いから、利益率はかなり高い。

 周囲にはライバル店舗が出てきたので、最盛期よりもかなり売上は下がっている。

 行政も別に俺たちを特別扱いしてくれるわけではないしな。

 それでも、全店舗の中で五本の指に入る利益を出し続けている。


 この店をモデルとして、関西には何店舗かのロードサイド店が建てられた。


 こういった店の顧客にはトラックドライバーが多く、広大な駐車場が必要となることから、他の店は正直利益率はあまりよくない。


 でもロードサイドの二十四時間店舗は深夜も空いてるから、道の駅のような役割を果たしている。

 全店舗コンビニを併設しているから、休憩所みたいなもんだな。

 まぁ、赤字にならなければそれでいいさ。

 ……遥香ちゃんはそうは思っていないようだけど。


 そんなことを考えていると、俺のガラケーのアラームが鳴った。

 そろそろ飛行機の到着時刻だ。


「ケンジくん、ありがとう。また、そのうち来るね」


「工場に引きこもらずに、本社にも顔出してくださいね」


 失敬な。本社にもたまには行ってるし!

 先月も一回か二回は行ったはずだ。

 手を振りながら、俺は店を出ていった。

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