その時は
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極度の緊張状態を維持しながらも、レクトは適確な対応を返してくる。長期戦で粘ったとしても、オウ・青に勝ち目はない。その現状分析ができないはずはないが、オウはあの手この手を駆使して、レクトに挑み続けた。
これでもなお、何かが起きるなら――――。
都合の良い出来事がそう頻繁に重なる事はない。常識外れの強運でもない限りはと、ソンヴは思っている。これでさらに何かオウ・青に都合の良いことでも起きるようなら、それはもう人知を越えた何かが働いている。彼は本物、かの存在に求められる者なのだと認めざるを得ないのか……。
ソンヴは山に登り、禁忌の存在とされるものに近づき、その鼓動を観察してきた。その中で、微かな前触れがあるのだと知る事ができた。小さな身震いのような動きが、もう直に起きる事をソンヴは予測していた。
正確な時刻までは分からない。けれども、近いはずだ。それが今起きたとしたら。その時は、彼は――――。
その時、触れてもいないものがカタカタと微動し始めた。石壁が音もなく軋んでいるのか、合間から砂埃が舞う。肌がざわりと、あの時の感覚を思い出す。
「うわ、本当に来る?」
まさかの頃合。これはもう、天意と取るべきなのかと、ソンヴは本気で思うようになった。
振動が大きくなり、気のせいだとは思えなくなる。確かに、地面が揺れているのだ。
「地鳴り、か」
オウ・青をあしらいつつも、レクトはそれに気付いた。被害を出すほどのものではないが、それでも地鳴りは恐ろしい。頻度は少ないが、ついに〈あれ〉が目覚めたかと思えるほど、激しく揺れることもあるのだ。
「……来る」
グントラターグが呟いた後、どん、と大きな揺れが来た。ソンヴは体勢を崩しかけたが、レクトは持ちこたえていた。ただ、さすがに身がこわばっていた。
一方のオウ・青は、ちょうど跳躍し、レクトに向かって剣を降り下げようとしていた。
「あぁぁぁぁぁ!」
絶叫と共に、捨て身とも思える攻撃を仕掛けるオウ・青。
これまでは、決死の覚悟で闘っているつもりでも、ダロル・シンとなる宿願がある以上、我が身を庇おうとする本能が働いていた。けれども、今度の特攻には、それが消えていた。捨て身となっていたがゆえの跳躍であった。
硬直は刹那の出来事であり、レクトはすぐに復帰した。オウ・青の攻撃に遅れて合わせて決死の一撃を繰り出す。地鳴りの影響を受けなかったオウ・青だが、それでも、レクトとオウの力量差がものを言い、やっと五分五分に持ち込めただけだ。
結果は、相打ちとなった。
普通に打ち込んでいては、単に切り返され、オウ・青だけが死傷を受けるだけだったはず。ところが実際、レクトと相討ちできていたのだから、僥倖としか言うしかない。倒れ込んだオウ・青が受けた傷は浅くないが、生き残る可能性は残っていた。
レクトは、まさかの重傷を受けていた。オウの捨て身の一撃が腹を貫き、わき腹も少し持っていかれていた。一瞬よろめき、持ちこたえるかと思わせたが、がくりと膝を付き、レクトはそのまま倒れこんだ。




