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星火燎原  作者: 更紗 悟
第六章【頂に望む星】
112/117

その時は

 

      7


 極度の緊張状態を維持しながらも、レクトは適確な対応を返してくる。長期戦で粘ったとしても、オウ・青に勝ち目はない。その現状分析ができないはずはないが、オウはあの手この手を駆使して、レクトに挑み続けた。

 これでもなお、何かが起きるなら――――。

 都合の良い出来事がそう頻繁に重なる事はない。常識外れの強運でもない限りはと、ソンヴは思っている。これでさらに何かオウ・青に都合の良いことでも起きるようなら、それはもう人知を越えた何かが働いている。彼は本物、かの存在に求められる者なのだと認めざるを得ないのか……。

 ソンヴは山に登り、禁忌の存在とされるものに近づき、その鼓動を観察してきた。その中で、微かな前触れがあるのだと知る事ができた。小さな身震いのような動きが、もう直に起きる事をソンヴは予測していた。

 正確な時刻までは分からない。けれども、近いはずだ。それが今起きたとしたら。その時は、彼は――――。

 その時、触れてもいないものがカタカタと微動し始めた。石壁が音もなく軋んでいるのか、合間から砂埃が舞う。肌がざわりと、あの時の感覚を思い出す。

「うわ、本当に来る?」

 まさかの頃合。これはもう、天意と取るべきなのかと、ソンヴは本気で思うようになった。

 振動が大きくなり、気のせいだとは思えなくなる。確かに、地面が揺れているのだ。

「地鳴り、か」

 オウ・青をあしらいつつも、レクトはそれに気付いた。被害を出すほどのものではないが、それでも地鳴りは恐ろしい。頻度は少ないが、ついに〈あれ〉が目覚めたかと思えるほど、激しく揺れることもあるのだ。

「……来る」

 グントラターグが呟いた後、どん、と大きな揺れが来た。ソンヴは体勢を崩しかけたが、レクトは持ちこたえていた。ただ、さすがに身がこわばっていた。

 一方のオウ・青は、ちょうど跳躍し、レクトに向かって剣を降り下げようとしていた。

「あぁぁぁぁぁ!」

 絶叫と共に、捨て身とも思える攻撃を仕掛けるオウ・青。

 これまでは、決死の覚悟で闘っているつもりでも、ダロル・シンとなる宿願がある以上、我が身を庇おうとする本能が働いていた。けれども、今度の特攻には、それが消えていた。捨て身となっていたがゆえの跳躍であった。


 硬直は刹那の出来事であり、レクトはすぐに復帰した。オウ・青の攻撃に遅れて合わせて決死の一撃を繰り出す。地鳴りの影響を受けなかったオウ・青だが、それでも、レクトとオウの力量差がものを言い、やっと五分五分に持ち込めただけだ。

 結果は、相打ちとなった。

 普通に打ち込んでいては、単に切り返され、オウ・青だけが死傷を受けるだけだったはず。ところが実際、レクトと相討ちできていたのだから、僥倖としか言うしかない。倒れ込んだオウ・青が受けた傷は浅くないが、生き残る可能性は残っていた。

 レクトは、まさかの重傷を受けていた。オウの捨て身の一撃が腹を貫き、わき腹も少し持っていかれていた。一瞬よろめき、持ちこたえるかと思わせたが、がくりと膝を付き、レクトはそのまま倒れこんだ。



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