露になるもの
5
ソンヴ・識が見守る中、オウ・青は持てる技を駆使して、果敢に攻め込んだ。
オウ・青はサイトの技を幾度も目にしている。大隊長であるサイトに対し、一般の統士では相手にならず、十獅ですら持ちこたえるので精一杯。そのサイトと、レクトは同程度の力を持つという評判だ。
実戦経験の乏しい真が相手になるはずがない。けれども、そこに油断はあるかもしれない。相手の良い様にさせず、一方的に攻め続ければ、どこかに好機が生まれるかもしれない。レクトとて、完全な人間ではないのだ。
加えて、オウ・青は過去に、モウ・牙を自力で打ち負かした実績がある。策を弄しての結果だが、参ったと言わせたのだ。
このレクト・殊とて、決して勝てない相手ではない。必死に挑めば、活路はあるはずだという一念を、オウ・青は心の拠り所にしていた。
けれども、実戦の最中に身を置く統士とシントでは、闘いに対する意識が違いすぎた。
相手によって全力が変化しがちなサイトに対して、レクトは異なり、いつだれとでも常に全力だ。評価されるだけの技量を、常に欠けず常に超えない。どんな相手であっても手を抜かないレクトに、付け入る隙など、見つけられない。
すぐに読みの甘さを悟るが、それでもオウ・青は躍起になって打ち込み続けた。始めは真剣勝負だからと厳しい表情をしていたレクトも、次第に何事か思案している顔になってきた。
オウ・青の半ば捨て身の攻撃を受け流しつつ、レクトの脳裡には同時に斬り返す術が、幾つも浮かんでいるのだろう。その都度、ここで終わらせてしまうかと、自問して、先送りにしているようである。
つまり、勝機など何処にもない。
それほど絶望的な力量差が露わになってしまったと、オウ自身も気付きつつある。そのことは繰り出す剣に感情を乗せすぎていることからも明らかだ。
「オウ・青……」
ソンヴ・識もまた、レクトと同じような表情になっていた。彼女には武の力を見極める才はないが、聞き及ぶ限りで二人の実力差を算出していた。十回闘って、十回オウ・青が負ける。それがソンヴの予想である。
ならば何故、彼を連れて来たのか? オウが尊厳を賭けて真剣勝負を挑む事は分かりきっていた。また、その結末も読めていた。身を危険に晒してまで、そうさせていいと思った理由は何か?
ソンヴ・識は、結局、オウ・青が生き残ると見ていた。ただし、それは理論的な流れではなく、考えてどうこうできる事ではない。なればこそ、その非現実な勝利が実現したならば、と思ってしまう。そこに、ダロル・シン実現への可能性の見極めができるかと、ソンヴは思っていた。
数度の打ち合いの後、レクトの様子が変わった。
達人ならばその変化を見逃さず、付け入る隙にするのだろう。ソンヴも傍観の立場にいる事で、何とかそのレクトの変化に気付くことができた。
目の前のオウ・青から注意を逸らす事はしない。だが、レクトの体が先程よりも緊張状態にある。何か気になる事があり、そこにも意識を向けている、ように思えた。
何だ? 何がいる?
ソンヴは気付かぬふりして、それとなく周囲の様子を探った。
増援か? オウの配下が駆け付けたか? それとも、レクトの部下が乱入を図っていて、それを無言で咎めている?
「いや、違う……。これは……」
空気がピンと張り詰め、どこかで小さな地鳴りのような音もする。皮膚で地面に触れれば、微動を感じることができるような気がした。
「やはり、来るのか……?」
それから、ある傾向に気付いた。オウ・青の攻撃を避ける際、レクトの動きに変化は無い。だが、特定の方向に、そこに背を向ける時だけ、微かに身の強張りが見られた。以前と変わらず振舞っているが、そっちが気になるのだと、どうしても隠し切れなくなっている。
そこか……。ソンヴは、気付いた事を誰にも悟られないよう、そっと問題の方向を窺った。
「――――やれやれ」
突然、溜息交じりの声がした。
背筋に悪寒が走る。この都合の良すぎる対応。気付いたことに、気付かれた―――!
「俺も歳だなぁ」
そう言って、観念したように、柱の陰から、男が姿を現した。
達人同士、感じあうものがあるのだろう。レクトに気付かれていたことは承知のようだ。だが、そこからさらにソンヴにまで察知された事を、敏感に察して出てきたのだ。
とんでもない世界だな、とソンヴは内心で舌を巻いた。
「グントラターグ、お前……」
ただ一人、突然の出現に驚いていたオウ・青がその名を口にした。




