獣の救世主ちゃんと世界の主要施設
「さっ、ここがギルドよ。あっちの冒険者ギルドと同じ感じで、依頼とか受けてお金を稼いだり名声を得る場所だって言ってたわ」
「へ~――」
ギルドの扉をあけ放ち、ルナを案内しようとこの子の前を歩くのだけれど、あたしが帰ってきたと知るや否や冒険者たちがあたしの正面両隣り、縦に整列してあたしを出迎えた。
「おかえりなさいませっっっ! 姐さん!」
「ん、ただいま。森の山賊、全滅させておいたからもうちょっかいかけてくることはないわ」
「ありがとうございますっっっ!」
暑苦しい冒険者どもの声を聞きながら、あたしは呆けているルナの背中を押して受付まで案内する。
「あっおかえりなさいミーシャさん」
「ん、ただいまツバメ。山賊は門のところで引き渡したから、後で報告が上がってくると思うわ」
「はい、お疲れさまでした。今回もさすがです、あとで報酬を振り込んでおきますね」
このギルドの受付――ヤシガミ ツバメと、言ったかしら? 自称看板娘の名物受付らしいけれど、基本的にどんくさく小柄な女の子、薄緑の髪色に、肩にはこのゲームの所謂精霊という種族の小さな羽付きの女の子が乗っている。
ツバメはあたしがここで依頼を受けてからずっとあたしの対応をしていたからか、今ではすっかり馴染みだ。
「あら、そちらの子は?」
「ああ、紹介するわ。この子はルナ――軟禁されてたから保護してきたわ」
あたしはルナを前に出し、ツバメに紹介するのだけれど、ルナは呆けた顔をしており、辺りを見回していた。
「ルナ?」
「……え? こんな短時間でどんな爪痕残しているのですか?」
「そんなものを残した記憶はない。あたしの爪は跡なんて残さないわ、全部抉り取るもの」
ルナがチラとツバメに目をやったのが見えた。するとそのツバメがこそとルナの耳元で口を開いた。
「初めてここに来た時、あそこで一番威勢のいいお兄さんがいるでしょ? あの人がミーシャさんに喧嘩を売ってね」
「……なんと無謀なことを」
「あの人は四等級の獣を従える者で、それなりに強いはずだったんだけれど……一撃だよね」
「……?」
ツバメの余計な話を苦笑いで聞いていたルナだったけれど、突然首を傾げていた。何か気になる話でも合っただろうか。
「う~ん? えっとルナちゃん? だよね、どうかした?」
「あっごめんなさい。ちょっと聞きなれない……ギルドに詳しくなくて、それで」
「ギルド?」
ルナがあたしに訝し気な視線を向けてきた。
そんな目で見られてもあたしは何も答えられないわ。
「あっあ~……ルナちゃん、もしかしてミーシャさんと同じで『月の救世主』」
「え? ――」
ルナが驚いた顔を浮かべたのだけれど、あたしもその辺りはよくわかっていない。
どうにもあたしたちプレイヤーのことをルナーリアと呼んでいるようだった。
「……信仰?」
「ルナ?」
「いえ、あの、わたくし――向こうでのことだと思うのですが、微かに信仰が流れてきているみたいで」
ルナが考え込んだけれど、別に変な話ではないだろう。
このゲームを作ったのはあのリョカ=ジブリッドだ。なにかしら女神が得をするように作っていても不思議ではない。
「リョカがそう言う仕様にしたんでしょ? あからさまにこっちの用語にはあんたたちの名前入ってるし」
「――なるほど」
あたしたちが納得していると、ツバメが話をしたそうにうずうずしていた。あたしは彼女に手のひらを向けて続きを促す。
「ここにルナーリアが2人もいるんだぁ。拝んでおこ」
「え、ちょ、なんか信仰が――ま、待ってください、なんかズルしているみたいで非常に心苦しいのですが」
「別にいいでしょ、せっかくだから貰っておきなさい」
ルナが頭を抱えている横で、ツバメは話を続けていた。
「えっとルナちゃんはここのことがわかんないってことだよね?」
「……あっはい。よろしかったら説明してもらえないでしょうか?」
「ほいきたっ。まずはここ、2人がぎるどって呼んでいるこの施設は『獣の群れ』ここに所属する人はビースティーって呼ばれるの。1から10までの階級があって、たくさんの依頼を受けて成績を残した人は10から順に1までの位が付けられるの」
「え~っとつまり、ミーシャさんは初っ端からここの四等級の人を下したと?」
「そ~、びっくりしたよ。お酒で酔っていたとはいえ、防御に特化したセイヤさんを一撃なんだもん。それで騒ぎに駆け付けた他のビースティーたちもついでにボコボコにされちゃうしで、ミーシャさん、ここの主導権を一瞬で掻っ攫っていったんですよ」
「……いや、その、なにかすみません」
「なんであんたが謝るのよ」
「お姉ちゃんは毎日元気ですよぉって言っただけですよ」
ルナの頭を撫でていると、ツバメも真似て月神の頭を撫でだした。
「他にも様々な施設はありますけれど、表立っているのは世界の謎を解き明かす、いわゆる考古学者の集まり『知識で暴く者』や死者を弔い輪廻を促す葬儀屋『輪廻を回す者』それと地位のある人々が集まる社交界的な『誇りある血筋の者』世界の情報を夜に紛れて探る『夜を引き連れる者』などなどほかにもありますけれど、とりあえず覚えておくのはこのくらい……あっ、あとは商業をまとめている『銀を至高に捉える者』」
「……」
「……」
最後のはあの子ね。
ルナも頭を抱えてている。
さっきルナが言ったように、これらは何らかの手段で女神に信仰を与えている。
つまりこちらの所謂商業ギルドの信仰は誰の元にいくのかという話である。
「まったくリョカさんは、さすがというかなんというか――しかもこれでもわたくしたちにも恩恵があるからどうにも指摘しずらいですね」
「抜け目がないというか、一々姑息というか――というか、自分自身の信仰を得て一体何をするつもりかしら?」
「さあ……? 悪いことには使わなさそうですし、経過観察ですね」
未だにしゃべり続けているツバメの声を耳に入れながら、あたしとルナは揃ってため息をつくのだった。




