名もなき元聖女ちゃんと崇め奉られる月
「や、やめてくれぇぇぇ!」
「いやよ」
あたしはガタガタ震えている大の大男の胸に片方の手のひらを添え、その添えた手のひらの反対側をもう片方の手で握る。
「『薊・点卦』」
手のひらを握っていた手を押し出すと同時に、本来なら鳴るはずのない轟音が響き、震えていた男が口から黙々と煙を吐き出し、そのまま正面に倒れた。
あたしは息を吐くと今倒れた男を含めた面々に目をやる。
誰も彼も大地に倒れており、あたしは彼らを踏みつけてさっきから空中に表示されている矢印に従って脚を進めた。
そしてたどり着いたそこには妙な武器があり、あたしは首を傾げてそれに触れる。
その途端クエスト完了の表示がされ、今拾った『土患いの釣り竿』と呼ばれる道具が報酬として手に入った。
このゲームをやりだしてからこんなのばかりだ。
あたしは釣竿を、これもまた報酬として手に入れた『宇宙ポーチ』と呼ばれる明らかに入りきらない物を収納できるポーチに突っ込んだ。
毎回毎回クエスト報酬で武器やらなにやらばかり手に入る。報酬に関しては要検討案件ではないだろうか。
それなりに強そうな武器ばかり手に入るけれど、まだ数日しかプレイしておらず、初心者に与えるにしては過剰ではないだろうか。
あたしは手にはめられている紋章が描かれたグローブに目をやる。
これは一番最初に手に入れたクエスト報酬だ。
『空 皇』というグローブで、右手は放出、左手が点火らしい。詳しい機能はよくわからないけれど、それなりに強い武器だ。
あたしはポーチから連なったいくつもの輪っかを取り出すと、それを今倒した――クエスト名・山賊撃破。で倒したやつらに放り投げた。
輪っかはそれぞれ奴らの頭上で大きく広がると、こいつらを拘束して、その輪っかそれぞれに伸びた鎖があたしの手に伸びてきた。
つまり自動で捕縛してくれ、自動で首輪にかけられた鎖が伸びてくるという『空縛連鎖』という報酬。
あたしは山賊たちを引きずりながら、今寝泊まりしている街まで脚を進めようとしている。
けれどその街で、どうにも今あたしがいる森には妙な宗教団体が歩き回っているらしく、近づかないほうが良いと言われていた。
最初はこの倒した山賊が宗教団体を装って街の者に迷惑をかけているのではないかと考えたけれど、戦っている最中にそういうことをしていないという話を聞き、まだこの森にはその宗教団体がいるのかと警戒する。
けれど強い気配は覚えず、あたしは肩を竦ませてずるずると山賊を引きずっていくのだけれど、ふとどこからか妙に軽快な何かを叩く音が聞こえ、首を傾げて音を待つ。
すると森の奥の方から、怪しい格好と仮面、そいつらが腰に括り付けた何かしらの楽器を叩きながらあたしの正面をパレードしていった。
「……」
あたしが呆けていると、そいつらが担いでいる大きな椅子というか神輿? というか何かしらの台の上にちょこんと女の子が座っていた。
その子は明らかに疲れ切った顔をしており、両手で顔を覆っていた。
ベルギルマの和服のような服に、真っ白な髪――どこか神聖な気配がする女の子だった。
その子が顔を上げ、あたしと目があって――。
「……? ……、――っ、まさか! あ、あのあのあの! この哀れな月をお助けください!」
ああ、なるほど。
あたしはポーチから丸っこい球を取り出し、その月に目をやる。
「目、閉じてなさい」
「――」
頷いた彼女が目を閉じた瞬間、あたしはその球を地面に叩きつける。『光指す陽炎』と呼ばれる減ることのない目くらまし。日中歩いていると数が増えていくその道具からとんでもない光が溢れ、どんちゃん騒ぎをしていた連中の目をくらませた。
あたしはまったく眩しくないのだけれど相当な光量らしく、月以外の奴らが目を覆ってその場で倒れてゴロゴロと転がりだした。
その隙に、あたしは彼女――向こうでの月の女神にて最高神、ルナ=ジブリッドに手を伸ばして抱き寄せたのだった。




